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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖十四頁 『天馬に月』と『双子星』

時間は少し遡る。

お昼過ぎ、一日で最も客の訪れが多い時間帯となった『商店黒龍の息吹(こくりゅうのいぶき)』。


混雑とはいかなくとも十分賑やかな店内の雰囲気とは逆に。

その一室では時々茶器を扱う音が響くだけで、あとは沈黙が支配していた。

「…いろいろ確認したいことがあるのですが?ディノルゾ様。」

ディノルゾの発言から数分後、オリビアがまず口を開く。

「うん、何?」

「その方が『魔法紡ぎの女王』と判断された理由をお伺いしても?」

僅かに首をかしげ問う仕草は優美でも彼女の視線は鋭い。

暫し口元に手を当てていたディノルゾは、彼女を真似て首をかしげながら笑顔で言い放つ。

「勘?」

「「…」」

「申し訳ありません。私としたことが聞き間違えたようですわ。もう一度お聞かせいただいても構いませんこと?」

「だから、勘。」

その瞬間、オリビアはすっごくいい笑顔のまま固まった。

「うっわ〜、見て。オリビアの顔がすごい事になっ!」

「お前、頼みごとする相手に喧嘩売ってどうする。はしょり過ぎだ、はしょり過ぎ。大事なところだけ綺麗にすっ飛ばすなんて、普通の人なら頑張っても出来ないぞ。」

キャッキャ笑うディノルゾの頭をガツンと殴って沈めたゲイルは代わりに説明をした。

ルイスとカロンから緊急連絡が届いたこと。

何事かと駆けつけてみれば、保護した少女の起点の魔紋様まもんようが『アリアの花冠』であったこと。

その報告を『双星』として受けたこと。

次の日に飲み過ぎで体調が悪かった三人に対し、見たことのない魔紋様まもんようを発現させ癒やしたこと。


ゲイルは順を追って説明をしながら自分自身の考えを纏めていく。

「こいつが俺の考えを聞く前に頼んだが、俺もオリビアにしか頼めないと思う。」

「見たことのない魔紋様まもんようといったけど、効果を現す部分は治癒系の魔紋様まもんようだと思う。ただ、そこに『アリアの花冠』が追加されることで"願いが実現される"という効果が加わった。」

『アリアの花冠』には"祈り"と"願いの実現"という効果があると言われているからね、と言いながらディノルゾはふらりと立ち上がり、しらっとした顔でお茶を飲むゲイルを睨みつける。

「すぐに起き上がれないほどの衝撃だったけど!?」

「二度と起き上がれないように"気"を込めたんだがな。俺の拳もなまったもんだな。」

また鍛えなおさなきゃな、と言ってディノルゾへ更にダメージを加えながら、先程から黙ったまま考え込んでいるオリビアに話を振る。

「オリビア、どうだろう?預かって貰えないだろうか?」

「…それは"双星"として話を通すから、ということでしょうか。」

「流石に今回の件はそうなるな。」

そう言うとゲイルは溜息をつく。

「"双星"は王の耳だ。この耳に入った情報は全て王に報告せねばならない。今、王の周りは一枚岩ではないだろう?王の耳に入った情報は確実に外部に漏れる。そうなれば『アリアの花冠』という伝説級の力を持つ異世界の少女は権力闘争の切り札として否が応でも巻き込まれるだろう。同じ巻き込まれるでも、こちらが多少なりとも安全を保障できる場所に預けたいんだ。」

"双星"とは『双子星ふたごぼし』のことをいう。この国の王家が"表"で使う紋章は『天馬に月』。女性らしい優美な紋章であるのは初代が女王であったから。そして、"裏"の紋章として使われるのが星が2つ並んだ"双星"『双子星ふたごぼし』なのである。

初代女王が手足の如く使える者を探した時、外界との門の番人として知恵と武力を誇るロイトとずば抜けた頭脳と知識をもつ探求者としてのゲルターのそれぞれの組織に目をつけた。

彼らのうち、ある程度経験を積み力ある者を"双星"として任命し、あるときは王のために情報を集め、あるときは王の正義に従って力を振るわせることとした。

その代わり、ロイトとゲルターは完全に国から独立した組織として認められ、他国への移動の自由、税金の免除等様々な恩恵を受けられることとなる。

ディノルゾとゲイルは"双星"として二十代目にあたり、歴代で一、二を争う若さでの拝命であった。

ディノルゾは窮屈なんで明日にでも辞めたい、などと言うが、最低二十年はお勤めを全うするように依頼されていた。

また誰が"双星"なのかは安全上の理由から双方の組織内で厳重に秘匿されている。

「それに、例え王に話をしたとしても、城で保護することは難しいだろうな。」

ゲイルの言葉にディノルゾがうなずく。


「『マグルスマフの盾()』がいるからね。」


思った以上に話が膨らんでしまいました。次話も続きます。

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