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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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回想 とある喜劇の舞台裏①


遡ること、一週間前。


「お前の転移は国境すら問題としないのか。」

「"結界の内側から繋ぐ事が出来れば転移できる。"地下にトンネルを掘るのと同じ発想です…っと、すみません。」

「いや、いい。あれはもう過去の話だ。」


ここは聖国領ソル。

国境には国が管理する結界が張られていると聞いていますが今のところ問題なしです!


シロに頼んだお使いの一つがこれ。

転移の魔紋様まもんようを設置すること。

終着点は人目につかない辺りに置かれていることを想定したのですが、今立っている場所には木の幹だけが乱立しているだけ。


「ものの見事に枯れ果ててますね。」

「草の茂る森であったことが信じられないくらいだな。」


木の葉を隠せるはずの森が枯れ果てましたか。

かつて森であった場所の成れの果て。

領地でも畑のあった辺りには水を撒き耕された痕跡はあるものの、森の土は乾ききって巻き起こる風に砂埃が立っている。


「何をどうすればここまで悪化させることができるのでしょうね。」


確かにこの地に呪いはあった。

それを中途半端に浄化した挙げ句、祝福という演出に毒を忍ばせ更に穢した結果がこれだ。


「憎しみ以上の何かを感じますね。憎みすぎて執着とか怨念に近いものに姿を変えてしまった、そんな気がします。」


思い入れがあり過ぎて、この場所を忘れて生きるなどできなかった。

黒天使とソルの地がどんな繋がりにあるのかは知らない。

痛々しいほどにこの地へ彼女が執着するのは何故だろう。

単なる領地を手に入れようとする欲か、それとも。


「時間がないのだろう?何をすればいい。」


淡々とした師匠の言葉で我に返る。

そうでした。

下準備は夜しかできないのですよね。


「じゃ予定通り、うすーく、かるーい、もやっとした感じの結界張ってください。中で何かをやってるのかバレない程度の強度と透過性でお願いします!」

「お前は…どれだけ難易度が高いか…。」

「できません?」

「…できるけどな。」

「とにかくバレないが大事なので使用する魔力量も控え目で!」

「お前は。」


師匠は一つため息をつくとポケットから魔石を取り出し、砕く。

現れたのは白くぼんやりと視界を曇らせる、霧のような結界(・・)


「さすがですね。」

「いいから作業に入れ。効果は数時間しか保たないぞ。」

「そうですね、では始めます。」


一つ呼吸をして収納から短刀を取り出す。

師匠はぎょっとした表情で媒体を見つめる。

おや、焔と対面するのは初めてでしたか。


「お前、それは…魔法手帖はどうした?」

「ありますよ?ただ、魔法手帖を人前で使うと後々面倒じゃないですか。 だからこれで魔法手帖に接続して魔紋様まもんようを検索、発動できるようにしたんですよ。」

「無駄に器用だな、お前は。」

「無駄ってなんですか!便利ですよ、これ!!」

「魔法手帖使えばいいだろうが。十分の一の魔力で発動するようになったのだろう?」

「ふふ、媒体を通じても消費する魔力量は一緒なんですよ!」


魔法手帖のレベルアップした恩恵が媒体を通じても適用されるのです。

いろんな意味で優秀な媒体なんですよ。


「いざというときのために慣れておきたいので使ってみていいですか?」

「まあそれなら仕方ないか。直接攻撃には使わないのだろう?」

「当然ですよ!」


戦闘能力皆無な女子高校生が振り回したら周りが危ないだけだ。

師匠は無表情のまま深いため息をつく。

脳内で色々と諦めてくれたらしい。


「魔力量を抑えるために結界の強度は高くない。力加減は控え目にしろよ?」

「はい、まずは狭い範囲を浄化して様子をみます。それから場所を変えつつ効果の範囲を広げていきますね。」


そう説明してから魔紋様まもんように魔力を流す。


「接続。」


わずかに魔力が吸われる。

魔法手帖にリンクしたような、そんな感覚がした。

続いて地表に短刀を突き刺す。


「聖属性 浄化 範囲"小"」

短刀を中心として魔紋様まもんようが発現する。

地表から、地下へ。

そして地表を伝い畑や木々の一部まで到達する。

拭われたように木の幹が色を取り戻し、濁った色合いの土が見慣れた色合いに変わる。

ダンジョンでアステラと戦ったときに出た色の変化と同じ。

ただし。


「効果の出方が違うな。」

「範囲を指定するとき、目視は便利なんですけど誤差が出るんですよね。」


範囲を媒体で指定できる分、誤差を最小限にとどめ必要な部分へ効果が届く。

媒体によって精度が上がったようだ。


「それだけの効果があるならソル全体の浄化はなんとかなりそうだな。」

「じゃあ、範囲を広げて浄化しますね。」


指定する範囲を、中程度から、特大まで広げる。

広大なソルの地を移動しつつ地道に浄化していく。

師匠の結界が切れるタイミングで状況を確認した。

拭われたように輝きを取り戻した、ソルの大地。


「まだ少し、呪いの残渣のようなものを感じるな。」

「うーん。そうなんですよね…。」


魔紋様まもんようで浄化する場合、自身や媒体を起点として円形に近い形で効果が現れる。

このため、たとえば四角い部屋の四隅のように効果の届かない隙間ができてしまうのだ。

その場所に呪いの滓のようなものが残っていたらせっかく浄化したのに意味がなくなる。

残った滓が闇の力を集め、再び呪いを振りまく存在へと進化してしまうかも知れないから。


「多少の無駄は仕方ないものとして、重ね掛けしていくしかないでしょうね。」


グレースも光属性の高位魔法である浄化を使う事ができる。

残る呪いの滓はグレースと手分けして地道に浄化していくしかないかな。


「しかし眠いですね。師匠は大丈夫ですか?」

「鍛え方が違う。」


いや、そんなはっきりと断言しなくても。

すでに真夜中を過ぎた辺りだろうか。

雑誌で読んだお肌の美しさを保つゴールデンタイムが過ぎてしまう。

美しさでは師匠に敵わないのだからせめてお肌くらいは、そう力説したら冷たい視線を向けられた。

くっ、こうなったら持てる力を総動員するしかないか。


「…自分に浄化かけたらキレイになるかな?」

「やめておけ。綺麗さっぱり消えてなくなった女性がいるそうだ。」

「いくらなんでもそれは無念です。」

「お前、思考がおかしくなってるぞ。そろそろ休んだらどうだ?」


確かに。

疲れてる筈なのに何だか楽しくなってきた。

それに師匠も寝ることで魔力を回復させる人だ。

寝る時間が少ないということはそれだけ回復が遅れるということ。

欠伸を噛み殺しつつ、師匠に提案する。


「今日の作業は呪いの滓をできるだけ見つけて浄化するところまでにしましょうか。」

『それは我らの眷属で手分けするとしましょう、魔法紡ぎ殿。』


背後から突然声をかけられ、固まる。

作業中の無防備な状態から守るようにと掛けた結界があるから害される心配はないにしても心臓に悪い。

師匠が私を背後に庇うのと同時にグレースが相手へ向かい一礼する。

おや、グレースの知り合いですか?


「お嬢様、こちらは水の大精霊様です。」

『お初にお目にかかる。光の大精霊から話は聞いていますが、お会いできて光栄です。』


目を引くのはやはりその容姿。

硬質な美しさとでもいうべきか。

師匠寄りの冷たく見える色合いに似合うような、低く深くよく響く声。

話し方が丁寧なだけに、時折凛とした厳しさも感じさせる。


「はじめまして。ええと、お名前は?」

『契約者がいないので名前はないのですよ。だから属性で呼ばれることが多いですね。』


たとえばシロが主様ぬしさまを『闇の』と呼ぶようにかな。


「では水の大精霊様とお呼びしますね。私は…。」

『貴女のこともこのまま職名でお呼びしましょう。『魔法紡ぎ』殿、と。』


ん?私の名を呼べない理由でもあるのかな?

まあ、いいか。

特に問題があるわけでもないし。


「それでは先程のお話の続きですが、どういうことですか?」

『人の子にはそろそろ体力的に厳しい時間帯でしょう?我々は魔力の続く限り昼夜なく働くことができる。だから手伝いをいたしましょう…いつぞやの浄化と回復の魔紋様まもんようのお礼です。』

「ああ、あの時の。」


シロから最高位セットを使ったと報告を受けた件か。

確か傷ついた精霊に使ったと聞いたけど?


「貴方も体験されたのですか?」

『回復の部屋へ光の大精霊に閉じ込められ、錠をかけられました。『回復に励む姿を見せるのも上に立つものの務め』だと。おかげさまで魔力は八割方回復しました。』

「錠まで…ごめんなさい、うちの毛玉がとんだご迷惑を。」

『いえいえ。正直助かったのも事実です。私の器は大きいから満たすのは容易ではないのですよ。自然に満たすなら長く時を経なければならなかった。それが一昼夜で済むなど奇跡に近い。』


そして嬉しそうに笑う。

その涼やかな笑顔は、何故だか師匠にとてもよく似ていると思った。


『そして彼の様子から、貴女と良い関係を築いていることに安堵しました。

彼は力が強い上に気まぐれなたち。力の差に敏感な精霊達には遠巻きに見られがちでした。それが貴女という契約者を得ることで心が満たされるのなら、それは幸いなことだと私は思っています。』

「シロが…そこまで考えたこと、なかったです。」


力が強い、それ故の孤独。

シロは私の恐れる未来を現す存在でもあった。

ありがたいことに、今はまだ皆が私を守ろうとしてくれるからそんな事はないけれど、突き抜けて振るう力が大きくなれば、いつか。


いつか私の周りには誰もいなくなるかもしれない。


「余計なことを言って、彼女を混乱させないでくれ。」


私を視線から遮るように師匠が立ちふさがる。

その彼に水の大精霊様が視線を向けた。


『貴方は精霊の隣人(フォーサイス)ですね。』

「…なんの話だ?」

『ご存じでしょう?我々は血脈の引き継ぐ匂いに敏感なんです。そしてその容姿の色合い、例の子供ですか。怪我の具合は…。』


「それ以上は何も言うな。」


師匠は硬い声で水の大精霊様の声を遮る。

外向き用の柔らかい表情など欠片も見られない。

空気が変わったことを感じて水の大精霊様が目を細めた。


『いきなり喧嘩腰とは随分と嫌われたものですね。』

「過去のことはもういい。だが彼女には関わらないでもらおうか。」

『我々は彼女を手伝うために来たのです。貴方には決める権利はないはずですが?』

「手伝う?甘い言葉で誘って搾取することさえ厭わない種族が、ずいぶんと綺麗事を言うのだな。」

「ちょっと、師匠。いくらなんでも言い過ぎですよ?!」


普段なら冷静に対処できるだろうに。

精霊の存在が何故こんなにこの人を苛立たせるのか。


『その件に我々は関与していない。貴方も仰る通り、過ぎた話なのでしょう?』

「過ぎた話、その言葉で全てが赦されるとでも思っているのか?!」


突き放すような水の大精霊様の言葉に師匠の魔力が膨れ上がる。

師匠の言葉から感じるのは、激しい怒り。

グレースに見せたものと同じ種のもの。

ただ怒りに支配されたはずの背中が時折震えるのは何故だろう。

何かに耐えるような彼の瞳の色は見たことがある。


怯え、もしくは恐れ。

師匠は、一体何を恐れているのか。


魔力の矛先を向けられているのに水の大精霊様は、ただ静かにこちらを見つめている。


その時、少しずつ空が明るさを帯びるのを確認した。

あまり残り時間はないな。


「師匠、ちょっと失礼します。」


左手を掴む。

驚いた師匠が振り向くのも構わず溢れた出た魔力を吸収しそのまま体内を循環させる。


魔力の循環の応用です。

師匠の魔紋様まもんようの効果には及びませんが、できない事ではないかなと思ってやっとてみればなんとかなるものだ。

珍しく慌てた様子を見せた師匠が、魔力の出力を下げる。

そして循環を止め、盛大にため息をついた。


「無防備なままに、なんて危ない事を…!!」

「だって時間がないんです。師匠が何かに拘っているのはわかりましたが、私は一刻も早く自分の居場所を守るための仕込みをしたいんですよ。だから、彼らが手伝ってくれると言うなら喜んで力を貸してもらいます。それに貴方だってわかっているからついてきたのでしょう?私の行動がもしかすると国の名誉を挽回する一手となるかもしれないと。」


そして師匠を真っ直ぐに見つめる。


「理解できないなら、お帰りください。今の状態が続く貴方に彼らと共に手伝えとは言えませんから。」


帰りの分として、使い捨ての魔紋様まもんようを取り出す。

師匠の結界が使えないのは惜しいけれど、この場で精霊と揉めるのは最悪だ。

今までの苦労をなかったことにするわけにはいかない。


「…そんなわけにはいかないだろう。」

「ならば彼と話をさせてください。」


彼らが何をどう手伝ってくれるのか、話を聞かなければ先に進めない。

そう言うと師匠は息を吐き、渋々ながら首肯する。

それを見た水の大精霊様が何事か呟いて、微笑む。


『まるで…ですね。』

「あ、すみません。よく聞こえなくて。」

『いえ、なんでもありませんよ。それでは早速お手伝いできることを提示しましょう。』


話を聞けば、彼の提案は単純だった。

水の精霊が司るは水と癒やし、そして浄化。

そう彼らの固有スキルで浄化ができるのだ。

だから彼らが領内に残った呪いの滓を浄化してくれることになった。


ちなみに、今まで水の精霊達の力で領内の浄化が進まなかったのは黒天使が豊作を演出するために魔紋様まもんようを使ったせい。

やはり対価はろくでもないものであったようで、それによる呪いの力が強すぎた。

結果、力の弱い精霊達がこれ以上被害に遭わないよう精霊の入り口を封鎖することにしたらしい。

いくら好奇心旺盛な質の精霊とはいえ、この地で呪いの怖さを思い知ったからだろう。

皆、言われたとおりにして誰もこの入り口を使っていなかった。


ただ貴重な地上への出入り口の一つをそのままにしておくわけにもいかない。

このまま荒れ続ければ、精霊の力だけでは復旧させる事がむずかしくなる。

だから封印を解いて大精霊様を中心に入り口付近から浄化を進めていたところ、突然、一帯が浄化された。


はい、もちろん私がやりました。


結界が張ってあるとはいえ、近付けばある程度は相手が誰かわかる程度のものだ。

ひっそりと確認しにきた水の眷属が、どうやらグレースを覚えていたらしい。

その眷属の知らせで大精霊様が慌ててやってきたところで私と師匠のやり取りを耳に挟んだのだという。


『我々も精霊界への入り口が閉じられたままであるというのは色々な意味で都合が悪いのですよ。だから残す浄化については我々で何とかしましょう。』

「ありがとうございます!!それからあと一つお願いがあるのですが?」

『なんでしょうか?』

「しばらくの間、見た目だけでも"呪われたから不作"のままでないとこちらが困るのです。浄化の後、この領地の土を整えても種を植えても構いません。ですがこちらの合図があるまで植物は絶対に生やさないとお約束いただけませんか?」

『うーん。それは…。』

「でないと根も葉もない噂だけで私は罪人とされてしまいます。状況によっては罪人として聖国に連行され、裁かれるかもしれませんね。そうなると見境なく大暴れしそうな毛玉に心当たりがあるのですが。」

『…ありますね。』

「状況によっては精霊の入り口も含めこの地が白く塗りつぶされる可能性も…。」

『…速やかに手を打っておきます。』

「お願いします。」


胃が痛そうですね。

わかりますよ!!

発想が極端すぎなのだ、あの毛玉。

なまじ力があるだけに被害の予想もつかない。


『ただ、できれば、いつまでというのは決めていただきたいのだが。』


豊かな実りが質の良い魔素を生む。

そんな貴重な場所を放置する、その期限を切ってほしいということか。


「多少のズレはあるでしょうが二週間程でいかがでしょう?その時期をある程度任せて頂けるなら私達で作物が一斉に実るよう力をお貸しします。」

『それは、なぜ?』

「こちら側の事情とだけ申し上げましょうか。」


一つため息をついてから水の大精霊様は頷いた。

彼らの性質からすれば人の子の事情など関係ないと言いたいところだろうが、シロが絡むとそうも言えなくなる。

浄化と回復の魔紋様まもんようの件もあるし、借りを返すという名目で皆を納得させるつもりなのだろうな。

こちらも精霊の入り口は呪いのせいで封鎖されていると思っていたから彼らがいたことは想定外だった。

水の大精霊様のおかげで下手にやんちゃされる危険が回避されたので助かりましたね!!

次回があればだけど、今後は彼らのような存在にも根回しが必要だろう。

いい勉強になりました。


さて、それではお言葉に甘えまして一旦戻りましょうか。

明日もまた地道な作業を頑張りますよ!





遅くなりました。

このあと、別の連載を完結させるため、少し間隔が空きます。

すみません。

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