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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖百二十九頁 棟梁の救出と説明責任、さらなる面倒事の予感


魔石を回収し、領館前に到着すると同じように地下から戻った師匠と鉢合わせした。

何か気になる事があるようで、珍しく表情が硬い。

そして救い出された棟梁とファーガルさんは命は取り留めたようで、離れた場所で治療を受けている。

ただ二人共意識がないらしく、体も無傷とは言えない酷い状態らしい。

二人の様子を確認して戻ってくると師匠が未だに浮かない顔をしていた。


「師匠、どうしたんです?」

「牢の奥の方の区画に誰かいるようなんだ。わずかに助けを求める声がした。」

「王国の人で囚われたのは棟梁達だけなんですよね?」

「連絡を受けているのは二人だけだな。」

「なら、この領地の人ですかね?」

「わからない。闇が濃すぎて牢まで近付けなかった。」

「闇が濃い?それはどういうことです?」


師匠曰く、強度の高い結界を張ればなんとか棟梁達の牢までは辿り着けた。

ただそれ以上足が奥へと進まない…というか、進めなかったという。


まるで引き摺り込もうとするかのような強い闇の力に、思わずもう一枚結界を張ったそうだ。

牢屋は地下にあるから暗いのは当然だけれど、まるで黒一色で塗り潰したかのような不可解な闇が広がっているらしい。

まさにグレースが報告したのと同じ状態。

師匠曰く、念のため、途中まで同行した使用人に事情を尋ねたら『奥には病人がいる』とだけ答えたらしい。


「あの不自然な暗さの原因は病気とかではない。呪いの一種だ。」

「呪い、ということは禁忌の魔紋様まもんようの影響でしょうか?」

「本体を見たわけではないからな。アレはたぶんお前の力でしか浄化できない気がする。」

「珍しいですね、師匠が『気がする』なんて。」


根拠のないことは言わない人だ。

その師匠が経験したことがないというほどに強力な呪いの力。

彼ですら慄く闇の奥には、一体何が蠢いているのだろう。


そう思ったところで、一つ首を振る。


気にはなるけれど、これ以上は関わり過ぎだ。

棟梁達のことを考えると、ある程度始末をつけたら速やかに撤収しなければ。

それに後々、変な疑いを残すような行動は慎むべきだろう。


「とにかく二人は救出した。治療が済んで移動できそうなら王国に帰ろう。念のため、この辺りに結界を張っておく。いいと言うまで領館の敷地から出るなよ。」


一つ頷くと首に巻き付いたままの毛玉に声をかける。

ちなみにシロはすでに天馬の姿から私の襟巻きへと変化していた。

私の呼びかけに応じて犬仕様に戻り、のんびりと欠伸をした。

全く、緊張感の欠片もないな。

脱力しきったシロを抱っこしてグレースの方を向いた。


「一つお願いがあるの。帰る前に、さり気なく領館の地下以外の場所の様子を調べておいてもらえる?何か気になることを聞いたり見たりしたら後で教えて欲しい。」

「かしこまりました、お嬢様。」


グレースは一礼し、人目につかないところへ移動すると領館で働く侍女そっくりな衣装へ変化する。

そのまま何くわぬ顔で入口から侵入、やがて窓から廊下を歩く彼女らしき後ろ姿が見えた。

全く不審に思われていないようで、すれ違う使用人達は視線すら投げかけることもない。

そして彼女は角を曲がり視界から消えた。


「…便利だな。」

「彼女、わりと器用なんですよ。時々盛大にボケますけどね。」


今回の視察は同行する人数を絞っている。

場合によっては暫くは帰れない可能性があったからだ。

だから手の足りない今、グレースのように比較的なんでも頼める相手がいるのはとても助かっている。

ちなみにソルの地が豊かな実りを取り戻しているのを確認した時点で、文官を中心とした現地対策班は事後処理のための人員を残してほとんどの人が帰国していた。

ひと悶着あったけど棟梁達を連れて帰ることになったのだ。

これ以上現地と王国との調整に頭数は必要ない。

…帰国する時の皆さん、すごくいい笑顔だったな。

師匠が『やってもいが、ほどほどに。』と釘をさした事からも察していただきたい。


"聖国領ソルは豊作でした。"


上層部にはそう報告するのだろうな。

それ以外報告しようがないものね。

きっと聖国は「豊作は"聖女様"のお力のおかげ」と言うのだろうが今回は確実に裏目に出る。

一つは、黒天使が豊作である状況を演出した儀式のせいで、彼女がいれば実りをコントロールできると思わせてしまったこと。

確かこの地には"豊穣の女神"と呼ばれる女性がいると聞いてはいるが、彼女の魔紋様まもんようはあくまでも収穫量を増やすという効果があるだけらしい。

彼女は黒天使のように種も実もないところから実りをもたらすことはできない。

つまり黒天使の"演出"はやりすぎたのだ。


"豊作をもたらす事ができるのなら、不作というのも演出なのではないか"。


そのやりすぎた演出を逆手に取って他国にそう思わせるのが今回の視察の目的だった。

そのために地道な事前準備も頑張りましたよ。


そしてもう一つは王様が言ったように不作である期間が長すぎるということ。

そもそも他の領地が豊作だというに、ソルだけ不作という状況を他国が疑問に思わない訳がないだろう。

それが聖国の言うように呪われた証だというのなら、呪いの可能性を知りながら随分と長い間聖国は対応を怠っていたということになる。


呪いを祓うなど、まさに"聖女様"が求められる役割そのものではないか。

その聖女がいる国で、どうして呪いによる不作が放置されていたのか。


更に追い打ちをかけるような魔物の襲来という事態になってもなお、聖国上層部はソルに人員を派遣することなく放置していた。

領地から要請があったかどうかなど関係ない。

他国に不作をアピールし、価格を釣り上げる暇があったにも関わらず聖国は領土を魔物から守る義務を怠ったのだ。

それが原因で魔物による被害は広がり王国や帝国の一部にも出ていたらしいしね。 

上げたらキリがない矛盾を誤魔化すため、聖国の誰かが責任を擦りつけようとしたのが王国であったわけだ。


それにしても、たまたまルイスさんがヨドルの森にいて気がついたからいいものの、警戒していない状態で魔物が王国周辺を荒らした場合にどう言い訳する気だったのかな?


戦を仕掛け、それに勝てば無かったことにできると思ったのか、もしくは魔物の攻撃で玉座の守護石が張る結界に綻びでもできたら好都合と思ったといったところか。

そう考えるとソルの不作という状況自体、聖国が王国に戦を仕掛けるための布石とも思えてくる。


うーん、情報が少ないからこれ以上の考察は無駄だな。

とはいえ聖国絡みのアレこれで、改めて情報操作の重要性を認識した外交部門の皆様は、休む間もなく他国に出向いて説明責任とやらを果たしに行った。

なんでも聖国に上手いこと乗せられ…、失礼、騙されて王国に抗議した国があるそうだから、事実を教えてあげないといけないのだそうだ。

だって状況証拠だけしかないのに、疑わしいというだけで国に抗議を行ったわけですから彼らも事実を知る権利があるじゃないですか。

例えば王国の五年前の騒動を蒸し返し、信頼に欠る、と言った国に対して。

そういう国には嘘を信じて王国の名に傷をつけたとして逆に賠償を求める気満々らしい。


それに聖国が王国を糾弾した点については、他国も今後他人事ではいられないかもしれませんからね。


聖国の民が信仰する統一正教団の教えは第三大陸を統一し、かつて統一神が支配していたとされる時代の"皆が幸せであったという世界"を再び取り戻すこと。

今まで表だった行動がなかったというだけで、聖国が国となった経緯を考えると場合によっては他国を侵略することもあると公言しているようなもの。

それが現実味を帯びた今、『うちの国は大丈夫』と思うのは、いくらなんでも思考がお花畑過ぎるだろう。


わざわざ足を運んで教えてあげるなんて、王国はなんて親切で優しい国でしょう!

国民の皆様は誇ってもいいと思いますよ!


『今までの対応が悪いから、いくらでも話がひろがっていくでしょうねぇ。』


そう言ったのは聖国以外の国を担当する人だった。

聖国は自身の国の在り方に誇りを持っているらしく他国に対し上から目線な態度を見せる事があったらしい。

普段は温厚な態度を取っていたから余計に違和感を感じさせた。

その違和感も回数を重ねれば、普段の温厚な態度の方が意図的なものと解釈されるというわけか。

なので多少でもお手伝いが出来ればと思い画像を複写した魔道具を渡したら、外交部門の皆さんは拝みそうな勢いでうっすら涙すら浮かべていた。

他国への説明や聖国の一方的な物言いに耐えてきた反動が一気にきた感じかな。

編集してないから日付を跨いた大作だが、がんばって拡散して欲しいものだ。

そんなことを考えている間に、師匠が人に呼ばれ、少し話すと難しい表情をして戻って来た。


「棟梁達だが、この場でこれ以上の治療は難しいらしい。国に戻りたいそうだから、このまま運ぶぞ。」

「棟梁達の具合、そんなに良くないのですか?」

「残存する体内の魔力量が相当少ないらしく肉体の維持に全てを使っている状態のようだ。」


当分意識の回復は望めない。

とにかく一刻も早く帰ろうと師匠が結界を解除したときだった。

急に領館内部が騒がしくなる。


「今度は何なんだ。」

「ほんとですよね。」


ただ帰りたいだけなのに。

面倒事に巻き込まれそうな予感がして、視線の合った師匠と揃ってため息をついた。



短めですが、キリのいいところで投稿します。

お楽しみ下さい。

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