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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖百二十五頁 演者の休息、聖国からの使節団長と魔道具の付加機能

不愉快な表現があります。

ご注意下さい。


「慌ただしい一週間だった…。」


くったりとダンジョンのベッドに倒れ込む。

下準備にはやっぱり二日掛かった。

それから一度城経由でダンジョンに戻りオリビアさんと打ち合わせ。

魔物騒動の最中でうっかりしてたのだけど、ヨーゼさんが魔紋様まもんよう買いに来る可能性があるから魔紋様まもんようを量産、ついでにそこからニ級品を選り分けて販売してもらうことにした。

それから再び聖国に侵入して効果を確認、その上でさらに仕込みをしてと。

終わった、と安堵したところで棟梁とファーガルさんのことを聞いた。

以降、三日経つが師匠は対応に追われ姿を見せていない。


棟梁とファーガルさんは魔道具を手に、ソルの領館へ出頭したらしい。

ただ『私達がやりました』とだけ繰り返す二人の言葉に初めは領館の人も首を捻るばかりだったそうだが、手に握っていた魔道具の効果がはっきりすると一気にその場が不穏な空気に包まれたという。

ナイフの柄に刻まれたのは禁忌の魔紋様まもんようとされるものの一つ。


禁忌『浸食』。


魔紋様まもんようを仕掛けた一帯に呪いをかける効果。

魔素の発生源付近に仕掛けることでより広範囲に強い効果を示すもの。

何の目的があって、呪いをかけたのか。

そんなことは聖国側にとってどうでもよいことなのだろう。

身分証明書から王国の人間とわかり、噂の裏付けが取れたのだ。

猛烈な抗議が王国に寄せられ着々と戦いの準備が進められているという。


「棟梁、大丈夫かな。」


ひどい目に合わされていないと良いけれど。

今は奥深い闇に閉ざされた牢に閉じ込められているそうだ。

こっそり様子を見させるためグレースを差し向けたのだけど、強力な闇の力によって守られたその場所に彼女の力では近づけなかったらしい。

シロならたぶん奥まで行けるとは思うけど、干渉する力が強すぎてバレてしまう恐れがある。

今はまだ、手は出せないから。

無事を祈ることしかできない。



部屋にノックの音が響く。

グレースが扉を開けるとそこにいたのは師匠だった。


「おつかれさまです、師匠。」

「…疲れた。」


体を投げ出すようにソファーへと座る。

来る前に身なりを構う余裕もなかったようだ。

いつもはきれいにしている服もシワがついてヨレている所がある。

寝不足からか、いつもより気だるい雰囲気があって色気が三割増しなうえにダダ漏れている。


…羨ましい。

今度色気を付与する魔紋様まもんようでも紡ぐかな。

虚しさが増すだけだろうが。


「話を聞く前にちょっと仮眠します?」


師匠の場合、睡眠イコール魔力の充填だ。

今は魔力が作られることなく、使い続けている状態だから体力的にもキツイだろうしね。


「あまり余裕はないのだが。」


そう言うと師匠が部屋の置き時計で時間を確認する。


「どのくらいまでならここにいられます?」

「あの長い針が天辺を指すまでだな。」


一刻はないけれど、多少は休めるかな。


魔紋様まもんようで回復させますから目を閉じながら話して下さい。」

「できるのか?」

「師匠が嫌でなければ。」


無言のまま、差し出される左手。


「魔法手帖、オープン。」


見慣れた赤い表紙が魔素を纏いながら姿を現す。

目の前に開かれる魔法手帖の頁を検索する。


「疲労回復 効果"大" 対象者"目視"。」


金色の糸が空を舞う。

足元に広がる魔紋様まもんように僅かばかり魔力を吸い取られる感触があった後、繋いだ手を通じて回復の効果が流れ込む。

傷があれば通常の回復の魔紋様まもんようを使うのだけど、今回は肉体の疲労を回復させる効果だけに特化したものを選びました。

緩やかに血行促進させ、筋肉を解すといった直接身体に作用する効果と、目には見えない部分として魔力の回復を助けます。

魔素を取り込みながら対象者の身体に負担がないよう注ぐ感覚ですね。

目を閉じた師匠の肌にほんのり赤みが指す。


「二人は無事のようですか?」

「向こうはそう言っているが、目で確かめた訳ではないからな。」

「聖国の言い分や対応はどんな感じです?」

「おおよそ、我々の予想した通りに進んでいる。」

「とことん王国を貶める気ですか。」

「そのようだな。噂を真に受けた周辺国からも糾弾する声が上がっている。」

「向こう側の要求は?」

「相応の賠償金の支払いと、玉座の守護石の破壊。それから」


一瞬言い淀んだ師匠が再び言葉を紡ぐ。


「容疑者として、魔法紡ぎの女王の身柄の引き渡し。」

「予想通りですね。」


棟梁が握りしめていた魔道具に刻まれた禁忌の魔紋様まもんようの出処。

当然、魔紋様まもんようの知識が豊富な者が支援した、と考えるのは自然なこと。

王国の場合、師匠か、私かの二択だ。

それに黒天使の執着具合を加味するとほぼ私一択。

だから、その後の展開も読みやすかった。

さすがに棟梁が犯人に仕立て上げられたことは予想外だったけど。


「じゃ、こちらの申し入れは受け入れられましたね。」

「ああ。国としても女王の言い分としても無関係を主張した。だが当然信じないから、『現場となる場所と魔紋様まもんようを確認したい』と調査のためとしての同行を申し入れた。初めから相手は強気な態度で強制連行も辞さない様子だったが、こちらが大人しくついていくような口ぶりに拍子抜けしていたな。とはいえ、聖国の使節は『往生際の悪いことを』と嘲笑っていたが。」

「まあ普通はそう思いますよね。」

「あんなことが出来るのだな、お前は。」

「全てが上手くいってから褒めて下さい。」

「…そうだな、その時は…。」


師匠の声が途絶える。

聞こえるのは、規則正しい寝息。

時計を確認する。

あと半刻くらいかな?

仮眠程度だが寝てないよりはマシだろう。


師匠の身体をずらしてソファーの上に横たわらせると毛布をかける。

寝顔は年相応なんだな。

見慣れない無防備な姿に少しだけ笑みが溢れる。

普段は大人びていても、彼はまだ十代なのだ。

私より少しだけ年上の少年。

年が近いからか、別れたきりの幼馴染と面影が重なる。

かつて彼にしたようにふわりと頭を撫でた。

少しだけ、親しみを込めて。


「おやすみなさい、リアン。」


喜劇の始まる前に、演者はしばしの休息を…。



ーーーーー



そして半刻後。


「さて、どうやって起こそうかな。」


余程疲れていたようで、師匠は微動だにせず眠っている。

規則正しい寝息が聞こえるから寝てるだけだとは思うのだけどね。


あと少しで時計の針が天辺を指す。

寝起きがいいとは限らないから多少早いほうがいいかなと思うのだが、なんとなく躊躇われた。


仕方がない、奥の手を使おう。

収納から赤いインクと先が太めのペンを取り出す。


頬にナルトを書けば目覚めるかもしれない。


師匠を起こすためなら、弟子は心を鬼にして所業を…半分以上は笑いが占めますけどね!!

いや〜、頬にナルト書いた師匠が『問題ない』とか無表情で言ったりして。


「やだ、笑える…」

「その手に持つモノで何をしようとしたか説明をしてもらおうか。」


気付けば目の前に師匠が立ち塞がっていた。

視線が凍りつきそうな程冷たい。


「オハヨウゴザイマス!!」

「半分以上声が裏返ってるのが邪悪な行いをしようとした証だ。」


邪悪な、って。

頬にナルトなんてお茶目なイタズラじゃないか。

そっと視線を逸す私を横目に、軽く伸びをすると師匠が身体の様子を確認する。


顔色はいいし、魔力も正常に循環しているようだ。

うん、多少はマシになったみたいですね。

ありがとう、と師匠がわずかに笑みを浮かべたのを確認して微笑み返す。

どういたしまして。


「体調は如何ですか?」

「効果を受けても特に問題はない。副作用はなさそうだな。それにしても、この短時間の休息で俺の器が満たされるとは。この部屋はこんなに魔素を集めることが出来るのか。」


師匠が不思議そうに辺りを見回した。


「部屋自体が魔素を集めやすい造りになっているようですね。」


主様ぬしさま曰く、『巨大な魔道具みたいなものだ』とか。

精霊界で傷付いた精霊を回復させた魔紋様まもんようはこの部屋を参考としました。

魔素を満たした状態にして本人器が望む速度で吸収させる。

多少は時間がかかるけど一番負荷が少ない方法なのだろう。

ちなみにシロがこの部屋にいたにも関わらず、魔力足りない状態になったのは『エマの魔力がいい!』という好き嫌いのレベルの話でした。


毛玉め、迷惑な。


「それでは出発しますか?」

「ああ、夜明け前に着くようにするにはこの時間から出ないと間に合わん。」

「転移の魔紋様まもんようを使うのでしょう?」

「国境までは王家が管理する転移の魔紋様まもんようを使う。国境を越えたら向こう側の転移の魔紋様まもんようを使う事になるな。」


国同士を繋ぐ魔紋様まもんようは行き先を指定されているらしい。

例えば聖国内ならソル行き、ルオ行き、ロソ行きに乗れば聖国の首都ディーラオルタへ行ける、と。

その前に着替えたいという師匠が水場へと姿を消し、程なくして戻ってくる。


「さて、行くか。」

「師匠と二人ですが転移の魔道具使えますかね?」

「今だけ転移が使えるようにダンジョンの制限を外していただいた。問題ない。」


師匠が魔石を砕く。

転移した先はここ一週間で随分と見慣れた城の一室。

グレースに手伝ってもらい、シンプルなドレスに着替える。

『さすがにその格好のままでは魔法紡ぎの女王には見えない』と師匠に言われ、一応それらしく装いました。

慣れないせいかな…う、動き辛い。


着替えが終わるとグレースに付き添われ、師匠と共に謁見の間へと向かう。

扉が開かれ一歩部屋の中に入った途端、複数の突き刺さるような視線を感じた。

歩みを進めるごとに、注がれる視線は険しさを増す。


狼狽えるな、今は我慢の時。


それよりも真夜中の時間帯にも関わらず、これだけの人がいる事に驚く。

狭くはない謁見の間がそれなりの人数がいるために狭く思えるほど。

半数が王国の人間、半数が聖国からの使節団。

皆蔑むような、悪意と憎悪に塗れた瞳の色を隠そうともしない。

きっと、私が主犯であると疑ってもいないのだろうな。


「やっと来たか、女王を騙る罪人が。ずいぶん時間がかかったから逃げたかと思ったぞ。」


揶揄するような発言を咎めるような人間は聖国側にはいないようだ。

賛同するかのように僅かな笑みをこぼす者もいる。


「使節団長殿、再三申し上げているとおり我が国も彼女もソルの不作には全く関与していないのだが?」


何度もこのやり取りが繰り返されているのだろう。

呆れた表情を隠さない王様。

わかりますよ、頭から決めつけている人達には通じませんからね。


「だが彼女は自ら我々に同行することを求めたと聞いている。今回の件に関係ないならば、関係ないと撥ね除ければよいだろう。」


この人の言うことは正論にも思えるが、事前に連絡もなく、この人数で押しかけてきて『容疑者を引き渡せ』と騒いでいる人間達に『関係ありませんけど、何か?』なんて火に油を注ぐような面倒なこと言うかい。

正論でやり込めて追い返すという手段もあるがそれでは何の解決にもならない。

巻き込んだことを後悔させなければ意味がないのだ。


「彼女は自身の関与を否定しています。その他大勢の中の一人として彼らに接触したことはあっても、個人的に親しくしていた事実はありません。」

「魔道具を仕込んだ短剣を手渡す位の時間はあるだろう。それに奴らは自分達がやったという意味の言葉しか話さない。彼女が会ったときに精神干渉の魔法を使って操り人形にでもしたのだろう。なんと哀れな者達であることか。奴らもある意味ではその悪魔のような異世界の迷子の犠牲者とも言えよう。我らが知らないだけで、異世界の未知なる力を使ったやも知れん。全く迷惑な事この上ない。統一神様もさぞ悲しまれて、犠牲いとなった二人には情けをかけるに違いない。」


劇的なまでに顔を顰め、悲しそうな表情を見せる。


うわ、私が極悪人設定されている。

なるほど、悪いのは女王を騙る私で棟梁達は利用されただけと結論付けたいのか。

私を引き渡し、棟梁達の身柄と引き換えに賠償金と玉座の守護石を破壊すれば国に対しては、これ以上の責任は問わないよと。

それなら国は政治的な判断で無難に幕引きができるだろうと。


そうやって災いを異世界から呼ばれた人間のせいにする気なのか。


五年前の件もあるから楽勝、とでも思ったのだろう。

聖国は自分達になぜ、そんな不幸が降りかかったのか理由を調べもしていないらしい。


ふつふつと怒りの感情が湧き上がる。

異世界人だからと迫害して、世間の不満を逸らす道具にして。

彼らは異世界人だからという理由だけで貶める対象にするつもりか。


異端を嫌う、そういう思想の人達がいることは知っている。

だけどそれを許せるかは別の問題だ。

気付かぬうちに握りしめた手から血が滲み、身体から魔力が溢れる。


「落ち着け、大丈夫だ。」


きつく握りしめた拳に師匠の手が添えられた。

身から溢れ出た魔力が、たちまちのうちに体内へと戻される。

ゆっくりと循環していく魔力。

師匠の温かい魔力の残渣を感じた。


すみません、不肖の弟子で。

呼吸を整えて、彼に軽く笑みを向ける。


「王よ、さあ、我々に正義をお示しください!」


まるで美酒に酔うが如く、傲慢に答えを促す使節団長。


彼は気付いているのだろうか。

許しを得ることなく相手国の王に話しかける非礼を。

そして、それを受ける王様の視線が冷え切っている事に。


いくら断罪のためとはいえ、地位の差は覆らない。

さすがに不味いと思ったのか、他の使節団の者達は視線を逸らす。

王様は、じっと彼らに視線を固定したまま動かない。

その代わりに口を開いた。


「使節団団長である貴殿に今一度、問いたい。」

「何なりと。」

「我に対して、何を謝罪せよというのか?」


さすが王様。

あまりの威圧感に饒舌だった使節団団長が言葉を失う。


「貴殿は我々が悪しき行いをしたと責め立てるが、証拠は短剣と二名の王国の民。それが原因で不作をもたらしたというわりには、不作である期間が長すぎやしまいか?この二名が国境を越えて聖国に入国したのは三日前だという調べはついている。つまり、貴殿は過去に遡って我々が呪ったとでも?」

「そ、その通りです。ほ、本物の魔法紡ぎの女王ともあれば造作もないことでしょう。」


すごいな思った以上に万能なのね、私。

国外の方が評価が高いというのは本当らしい。


「と、申しておるが?次代の魔法紡ぎの女王。この場で発言することを許す。」


前触れもなく発言を許されました。

おお、話しても良いのですか?

では早速。


「ありがとうございます。まず過去に遡れるか、については結論からいうと出来ません。なぜなら遡る方法や、遡ったときの状況を知らない(・・・・)からです。」


そう、単純な話、経験してないから何がどうなれば遡ったことになるのか想像もつかないのですよ。

知らないから紡げません。

ただ、それだけですね。


「第一、遡れるなら棟梁達は領館に出頭してませんよ。直前に彼らを止めることができますから。」


なんでわざわざ遡ってまで呪っておきながら、証拠まで残してやらねばならないのさ。

それなら黒天使の嫌がらせを三倍にして返してやる。

私の正論という名の嫌味に、不愉快そうな表情を浮かべた使節団長は、深々とため息をついた。


「このような悪しき心根の者に発言することを許されるとは、寛容にも程がありますぞ。だから五年前のように異世界の民に付け込まれるのだ。あの少女が言い訳しかいわないので手を焼いているのであれば、我々に引き渡していただきたい。我々なら彼女をいかようにでも喋らせて見せましょう!!」

「だから再三言っているように、罪のない民の引き渡しには応じられない。」


使節団長の申し出を、きっぱりと王様が断った。

謁見の間が静まり返る。


「貴方達は我が国を見くびり過ぎている。彼女ほど重要な存在に何の監視も付けずに放置しているとでも思っているのか?それに彼女は魔法紡ぎの力をもって我が国に新しい技術と光明をもたらした。その彼女と、一国の王に対し礼儀をわきまえぬ無礼な者の言葉、どちらに重きを置くかなど明白なことだろう?」


さすが王様、かっこいいです。

最後にあからさまな嫌味を添えるあたりが更に素敵です。


さて、王の威厳も示したし、そろそろいいかな。


黙っていた師匠が目立つように礼の姿勢をとる。

先程までの無表情が嘘のような人当たりのよい笑みを浮かべながら。


「王よ。発言することをお許しいただけますか?」

「許そう。」

「次代の魔法紡ぎの女王は、自身の名を騙り悪事を働いた者を確かめるために、聖国に調査へ向かうことを望んでいます。ですが今のままでは彼女は無実にも関わらず犯人として裁かれる事になりかねません。ですから私と共に王の名の元に調査へ向かわせることをお許し下さい。」


王の名の元に、調査へ向かわせる。

つまり王の代理だ。

立場上、罰することも出来なければ、咎められることもない。


「それだけでなく、彼女はソルの民が不作により体調を崩しているものがいないか、そちらの方を心配しています。ですから、調査の結果によっては彼らの治療に専念したいとのことでした。」

「白々しいことを。それともそれは罪滅ぼしのつもりなのか?ならば不要だ、手は足りている。」


使節団の人々は憎しみを込めた視線を私に向ける。

ほんとにそこまで恨みを買った覚えはないのだけどな。


「いいだろう、許可しよう。」


王様が頷く。

当然のように根回しと下準備は済んでいるのであっさり許可が出ました。

思わぬ展開に腹が立ったようで使節団長は嘲けるような表情を浮かべ、捨て台詞を吐き捨てた。


「どちらにせよ聖国に来るというのなら、無駄な屁理屈を付けず初めから大人しく付いてくれば良いものを。異世界の民が考えることは尊い教義に生きる我々に理解ができん。さあ、さっさと来るがいい。我らが正しき方へ導かねば魂は救われないぞ。」

「何度も言うが、彼女は我が国において重要な人物だ。謂れのない中傷は止めていただきたい。それから彼女は我が国の保護にある者。勝手に連れて行かないでもらおう。」


無粋にも伸ばされた手は、視界と共に広い背中が遮る。

師匠が私を背に庇い、一歩前に出る。


「なら、勝手についてくるがいい。全く、真夜中だというのに迷惑な事を。」

「貴殿が『一刻も早く対応を』と申すからこの時間になったのだ。どちらが迷惑をかけたのか、ご理解いただきたいのだが?」


師匠曰く、偉そうな態度で城中を嗅ぎ回り鬱陶しいという理由もあって、速やかに追い払う事にしたらしい。

どう考えても向こう側のやることの方が悪人なのだが、わかってやってるのかな?


先頭を切って歩く師匠の後ろをついていくと、場内の一角にある部屋へと辿り着く。

導かれるまま、刻まれた転移の魔紋様まもんように乗る。


係の人の前で、さらっと師匠が魔力を流せば紋様が光を放つ。


眩しさに一瞬目を瞑ってひらくと、あっという間に国境に着いていた。

本当、転移って便利ですよね!

そこから少し歩き、国境を超えると今度は聖国の転移の魔紋様まもんようが見えてくる。


使節団長が立ち止まった。

ポケットから何かを取り出し、こちらへ差し出す。


「我が国の決まりだ。これを首に巻け。」


使節団長が歪んだ笑みを浮かべる。


明け方に近い時間帯、薄闇に浮かび上がったのは、どこかで見覚えのあるチョーカー。

軽く魔紋様まもんようから効果を確認すれば、一つは魔素の収集を阻害する効果だった。

そして…別の何かがもう一つ。


「我が国にとって、そなたは容疑者だ。故に我々の安全を確保するため、これを付ければ入国を許可しよう。念のため申しておくが、この魔道具を付けた状態で逃げようとすれば死に至る毒が身体に回るから気をつけたほうが良いぞ。」


罪人に使われるという()()は、黒く禍々しい光を放っていた。


「彼女は罪人ではないと、あれだけ言っただろう!!」


師匠が声を荒げる。

全くそのとおりですね!

内心で深く同意しながらチョーカーの魔紋様まもんようを観察する。

うん、魔紋様まもんようの相殺は出来そうだな。

紋様の効果を裏付けるため、鑑定のスキルも使ってみる。


『魔力制御阻害装置(付加機能あり)』

装着者の魔力を奪い、魔素の吸収と魔力の生成を阻害する

〈付加機能〉精神干渉(闇)


これは、これは。

口角が上がる。

主様ぬしさまがよく使うアレか。


「魔道具の付加機能が闇属性の精神干渉ということは、このチョーカーを着けると私は貴方達の言いなりということですね。」

「な、なぜそれを?!」

「"精神干渉の魔法を使って操り人形にでもしよう"ということですか。貴方がいう、『私がやりました』と言わせるための"哀れな者"に?本当、正義はどこにあるんでしょうね?」

「…い、いやそうではない!!それは入国する罪人全員につけさせるものだ。聖国に入国した以上、我が国の決まりに従っていただきたい!!」

「私は罪を認めていません。容疑者って言うけれど、証拠は状況証拠だけですよね?疑わしい人間は証拠がなくとも罰するというのが聖国の方針なんでしょうか?困りますねー。罪もなく、ここまで疑われるなんて実は嫌われているのかなって思うとなんだか悲しいです。」


ちゃんと言葉にするって大切だよね。

一応、悲しそうな声色で訴えてみる。

ついでに信じて下さいみたいな振りもつけた。


「その表情!!どう考えても悪だくみしているようにしか見えんわ!!」

「あらら?」

「逆効果だ、バカ。」


師匠が、深々とため息を着いた。

そんなに深いと幸せ逃げますよ?


師匠の幸せが全力で逃げていくのを心配した、その時。



「わ〜ホントだ。聞いたとおり、なんだか楽しそうだね!!」








長いのですが、途中で上手く切れないので、そのまま掲載しました。

お楽しみいただけるとうれしいです。

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