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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖百十七頁 専用転送機とあの日の出来事、門番と管理人


はじめて聞いた時から思っていた。

サポートキャラ、と呼ばれる者達は本当に善意でのみ協力しているのか?

その情報の裏に思惑などないと、与えられた情報が常に正しいと、どうして信じきれるのかと。



「その人物が本当にゲームとやらのサポートキャラと呼ばれる存在であったか、この点は重要ではないと思います。重要なのは彼女がそう信じることにあった。ここはゲームの世界で、自分はヒロインとして召喚された存在であると。そしてその人物が助言を与えてくれる存在で、その言うことに従えばゲームを攻略できると信じさせることができればよかった。」


そうすれば彼女は素直に言うことを聞き、指示を出せば思い通りに演じてくれる。

それはある種の精神的なコントロールとでもいうものだろうか。

ふと、ディノさんの言葉を思い出す。


『基本君達には無理強いはできない。けれど無理矢理言うことを聞かせなくても"自分から望んで手を貸す"ようにすれば、罰はあたらないし、君達の能力を無制限に使える。…そう出来る手段はいくらでもあるし、過去にはそうされた異世界人がいなかったわけじゃない。』


今回のような乙女ゲーム紛いはなくとも同じような出来事があったのかもしれない。

とはいえ、相手にするのは人の心だ。

全てが思い通りにいくとは限らない。


「その人物にとっても上手くいくかは賭けだったと思います。それこそ都合よく魔法手帖を隠し持った状態で国外追放になるとは限らない。悪くすると彼女が命を落とし、魔法手帖の所在は不明等という事態も想定できましたからね。ですが上手くいく可能性もゼロではなかった、この点は重要なことだと思いますよ?」


ここで話したことは、あくまでも仮定。

証拠もない、妄想や空想と笑われても仕方のない話。

ただ、そういう可能性もあったということは知っておいて損はないだろう、その程度の認識で話しただけ。

だから師匠の発した疑問はもっともだと思う。


「そこまでするなんて、どんな目的があったというのか?」

「うーん。情報が足りないのでこれという結論が出せないのですけれど、鍵となるのは"異世界から呼ばれた少女"、"他国"、"魔法手帖"といったあたりでしょうか。この言葉に関連して何か…」


思い当たる節はありませんかと問おうとしたんだけどね。

王様と師匠の顔色が変わった。

うん、思い当たる節があるようですね。


「その事以外に、何か乙女ゲームに関する情報はないか?」


黙ってしまった王様と師匠の代わりに熊さんが尋ねてくる。

自分がやったゲームの内容は覚えているけどこの辺りは友人の受け売りだからな。

結構記憶が曖昧な部分も多いのだよね。


「あと、思い付くのは…攻略対象達の設定ですかね?彼らは主人公よりも大抵身分が高いか、才能豊かな人物です。王子、宰相の息子、騎士団長の息子に新進気鋭の魔術師、そらから商人の息子とかですかね?話によっては庶民で主人公となる少女の幼馴染みという少年も出てきますし、様々な階級や裏設定を持つ男性も登場します。あとは性格も方向性は決まったものが多いようですね。私も又聞きなので全部に共通する要素なのかはわかりませんけど、例えばカリスマ性はあるけれど傲慢で自分勝手な性格の王子、冷静で頭は良いけれど優秀な父親に劣等感を抱える宰相の息子、熱い性格で主人公の少女を守ってくれる騎士団長の息子、優秀だけど心に闇を持つ年下の魔術師とかですかね。」


今度は熊さんも黙ってしまった。


「王子、は何だって?」

「ええと、カリスマ性はあるけれど傲慢で自分勝手な性格で…っと、ゲームの話ですからね?そうだと言っている訳じゃないですよ?勘違いさせたらすみません。」


師匠の声に我に返る。

この台詞そのまま聞くとまるで王子達がそうでした、というようなもの。

関係者もいるのだ、不用意な発言は彼らを再び傷つけることになる。

そんな私の心配を打ち消すように、師匠は緩く首を振る。


「違うんだ…ちょっと思うことがあってな。気遣い感謝する。」


執務室は沈黙に包まれた。

求められるがままに話したけれど何か引っ掛かる事があったのかもしれない。

五年前の件に関しては私は完全に部外者だ。

もしかするとこの後彼らだけで話し合いたいこともあるかもしれないから私はダンジョンへ戻ろう。

余裕をもってお昼休みの時間をとったけれど、そろそろ棟梁達も戻って来る頃だろう。

今日はこれ以上階層を踏破する事はしないけれど、魔紋様まもんよう以外は出番なしとはいえ、一応いないよりは、いた方がいいだろうしね。


「師匠、すみません。そろそろ戻りたいのですが。」


すっかり忘れてましたけど、ここまで師匠に連れてきてもらったのでした。

お手数ですがダンジョンの入り口まで連れていって貰えませんか?


「ああ、忘れていた。店主からこれを渡すように言われていた。」


師匠から渡されたのは置物のような…魔道具?


『専用転送機(鶴)』


転移専用の魔道具。

対となる魔道具の設置された場所へ双方向に転移する事ができる。


なんと、転移専用の魔道具ですか!!

見れば置物の裏側に転移の魔紋様まもんようが刻まれている。

置物に私の魔力を流すと入口が開き、対の魔道具の出口と繋がる仕様らしい。

さて裏の置物は何処に置かれているのかな?


「女王陛下の書架のある部屋に置くそうだ。」


もう置いてあるだろうから転移してみろって…あれ、主様ぬしさまの結界で弾かれますよ?

グレースのようにダンジョン内限定ではないし、双方向ということは例えばダンジョンの外から中へと入る事が可能ということか。


主様ぬしさま曰く、ご褒美だそうだ。良かったな、認められたようだぞ。」

「なんと!!ありがとうございます!!」


この魔道具、実は主様ぬしさまからの贈り物だそうだ。

嬉しいものですね!!

ダンジョンの修繕、頑張った甲斐がありました。


「とりあえず、城の一室に置いておくから場所を移動したいときは伝えてくれ。」

「かしこまりました!!」


では早速…、とその前に。


「師匠、この場で収納使ってもいいですか?」

「ん?構わないぞ。忘れ物か?」

「そんなようなものです。」


収納から取り出したのは、この世界で作ったパウンドケーキ。

中には甘く煮た栗と砕いたクルミが入っている自信作です。


「食事の前に出されたお菓子の盛り合わせ、たぶん皆さんのお茶請けですよね。とっても美味しかったですし、あらかた食べてしまってその…すみませんでした。お礼というには烏滸がましいですが、お茶の時間に食べてみてください。ああ、香り付けにお酒を使ってますからお酒が弱い方は食べすぎないようにしてくださいね。それからこれは私からの一方的な感謝の気持ちですので、どう処理されても気にしませんよ。ではごちそうさまでした!!」


師匠にパウンドケーキを手渡す。

それから、いそいそと魔道具に魔力を流した。

魔道具を使った転移ってどんな感じなのかな?

グレースやサナの転移とは違うのかな?


魔道具の脇にぽっかりと黒い空間が口を開ける。

なるほど、ここを通るのですか。

それでは最後にご挨拶を。


「それでは失礼します。お菓子と軽食、美味しかったです!!」

「お、おう。」


呆気にとられたような熊さん声を最後に空間が閉じた。

ちょっと違和感があった後、目を開くとそこはもうシルヴィ様のお部屋。

おお!!あれだけの距離を一気に移動できるなんて、やっぱり転移って便利だな。


「ただいまげふっ!!」


最後の方、言い間違いとかではありませんよ。

物陰からシロがタックルしたんです。

パンパンになったお腹の辺りを。


「エマーーーーー!!置いていくってどういうこと?!」

「いやだって気持ち良さそうに寝てたでしょう、貴方。」

「だって、だって~!!目覚めたらエマがいなくて、寂しくって、悲しくって…。」


捨てられたかと思っちゃった。


そう言った後、潤んだ瞳で見上げるシロ。

体が悲しみに耐えるようにふるふると揺れている。

絶対演技だ…でも。


「超かわいいー!!大好きよ、シロちゃんー!!」


ごめんね、心配かけちゃって。

さあ、そのモコモコを堪能させてください!!

撫でる側から魔力を吸われているような気がしますが全然気にしませんよ。


何ならお菓子も食べる?

収納から出したドーナツを、もふもふと頬張るシロの姿に癒されますね。


「どこに行ってきたの?闇のが紡いだ魔法の臭いがする。」


シロが小さく鼻を動かす。

嗅ぎ分けたのは魔力の匂いなのかな?


「お城に行ってきたよ。行きは通路を歩いて来たけど、帰りは主様ぬしさまがくれた魔道具で転移してきたの。すごいよね、あれだけの距離を一瞬だったよ!!」

「ああ、あの置物の対だね。一瞬光ってエマが現れたからビックリしちゃった。」


指差す先にあるのは対となる専用転送機(亀)。

光ってビックリした結果、私のお腹に頭突きを食らわしたと。

中身出ちゃうかと思ったよ?シロさん。


「どんな話をしてきたの?」

「五年前の彼女の話かな?シロは何か覚えていたりする?」

「この国が一時的に混乱したということは覚えてるね。だけど興味なかったから。」


うん、そういう子だったわ。

苦笑いを浮かべる私に、今度はシロが問う。


「エマは彼女についてどう思ってるの?少なからず君の異世界生活に悪影響を及ぼす存在だ。」


それは確かにそうだと思う。

彼女がもう少し品行方正だったら要らぬ苦労はしなかったかもな、と。


「ダンジョンで何か騒動を起こしたらしいけど、それについては自業自得だから同情しない。彼女は進む方向を選べる立場にあったのだから、選んだ行動について咎められるのは当然の事。だけど異世界転移に伴う彼女の行動については…少しだけ同情するところはあるかな。」


すっと自分の胸に手を当てる。


「あの日の出来事は特別だよ。あのときの気持ちは…忘れられない。」


突然、世界を違えた。

ヨドルの森を彷徨いながら、霧に飲まれ消えてしまうのではないかと思うほどに。


「人を簡単に信じないはずの私が、あっさりルイスさんに着いていくのだから相当だよね。」


本当のところ、不安で一杯だったのだ。

灯りを提げたルイスさんを見て、無条件に信用してしまった自分の弱さに。

彼がいい人だったから良かったものの、もし私を害しようとする人だったら今こんなに冷静ではいられないだろう。


唯一すがったものに裏切られる。

異世界に転移した者にとって、これ以上の悲しみはないだろう。


だから思うのだ。

彼女は裏切られることが怖くて依存したのではないだろうか、と。

彼らの言う通りにすれば、少なくとも切り捨てられることはないと。


そしてサポートキャラと思われる彼らに提示された道すじを正しいものと信じた。

彼女が思い描いた乙女ゲームの主人公であるという設定に必要だから。


彼女は乙女ゲームの主人公でなくてはならなかった。

なぜならそれは"使命"という名の、この世界で生きる意味をもたらすものだから。

不安に揺れる彼女にそれを提示した者が、五年前の騒動の元凶なのかもしれない。


「…私だって同じようになっていたかもしれないから。」


ただ、運が良かっただけ。

それだけの違いで彼女を責める事はできない。


それに気になることがもう一つ。

無防備な彼女に優しく言葉をかけ、不自然に思われることなくサポートできる存在がいたとすれば彼らしかいないだろう。


専用転送機へと視線を注ぐ。

この国であれと同様に対となる存在。

二人一組で活動し、異世界から呼ばれた人が現れる場所を事前に特定、そこで彼らを保護し国に馴染めるよう手助けする。

それらの組織はこう呼ばれていた。



門番ロイト、そして管理人ゲルター






長い一つの話を切った後半部分です。

前のお話で消化不良と思われた方はこういう事情がありました。

力不足ですみません。

お楽しみいただけると嬉しいです♪

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