魔法手帖十二頁 第二領パルテナと西市場、ローブの男
サルト=バルトニア王国第二領にあって"日没"の意味を持つ『パルテナ』。
それがこの街の名前。
ディノさんとゲイルさんが帰ったあと、カロンさんが街の入り口にある市場まで連れていってくれるとの事で、あの異世界版"ど〇〇もドア"から初めて外の世界に出た。
一度外に出てしまえばのどかな農村地帯の広がる普通の場所だった。
しばらく街の中心部にむけて歩いて行くと、やがて道の左右に様々な商品を並べた簡易テントの並ぶ一帯が見えてくる。
ここが第二領の台所を支える"西市場"。
小麦などの主食から、野菜・肉など主な商品はここで手に入る。
パルテナは肥沃な農地をもち、特に近年は酪農に関する技術が発展して、乳製品が有名になりつつあるとのこと。
美味しいもの、大歓迎です!
今朝食べたスープの牛乳やバターはここから買ってきたものらしいけど、元の世界のものと見た目の差はほとんどない。
その代わり、農作物の方は見たことある食材と、見たことのないものがあった。
私が食材に目を留めるとカロンさんが名前や食材の使い方を教えてくれる。
例えばニンジンモドキやタマネギモドキなど馴染みのある食材は、名前は違っても大体同じような使い方をするし、見たことのない食材の方は、煮たり炒めたりして使う事が多いみたいだ。
生で野菜を食べることはあまりなくて、今朝食べたクレソンに似た野菜のように、香りが少しあってアクの少ない野菜を主食に添えるような使い方をするのが一般的とのこと。
ちなみに海からは距離があるので塩はお高め、スパイス系はなし、砂糖はそこそこの値段で比較的手に入りやすいとのこと。
うん、ここの生活に慣れてきたら、お菓子作りしよう。
甘味のない生活など悲しすぎる。
食材を買ったカロンさんと私は、一度荷物を家に置いて、今度は散歩がてら街にある服屋さんへ私の服を買いに行った。
部屋のクローゼットに入っている服のデザインやサイズがバラバラで不思議に思っていたら。
今まで来た異世界から呼ばれた人がこちらで購入し残していったものだそうで、それを着てもいいし、足りないものはこれから買いに行くお店で選んで着てもいいそうだ。
ただし、購入費用は国から支給されるお金から引かれるそうなので、ここでたくさん使ってしまうとあとの生活が苦しくなるそうな。
そんなこともあってカロンさんと相談しながら何枚か服と下着を揃えた。
「女同士の買い物って楽しくて時間経つのが早いわよね。」
「ホントですね〜。」
すっかり日が落ちた夕闇の中をルイスさんの待つ家へと急ぐ。
「お夕飯は何を作るのですか?」
「今日は豆と腸詰めをトマトで煮て一緒に食べましょうか。」
「おー。いいですね!」
まもなく家が見えてくる、その辺りで。
取り留めなく話をしながら視線を森の方へ向けると、ローブを纏い、闇に紛れるように誰かが歩いてくる。
…後で思うと不思議でならない。
「エマちゃん?」
その人と私の間には、いつの間に立ち位置を入れ替えたのかカロンさんが立っている。
警戒するカロンさんから少し離れた所を、こちらを気にする素振りも見せずに通り過ぎていく。
体格や背の高さからすると男の人のようだった。
やがて男の人の姿形が完全に闇にとけ、見えなくなるまでの数分間。
…私はそこから動けなかった。
その後、私はどうやって家まで帰ったのかあまり記憶がはっきりしない。
伏線ばかりですみません。
少しずつ補足、種明かししていきます。




