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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖百十三頁 猫みたいな少女と、五年前の彼女


「簡単には負けないよ!!」


オリビアさんの声と共に、魔力ごと魔紋様まもんようを飲み込もうとする力強い波が押し寄せる。

ここはダンジョンの下層、巨大な穴の底にある魔素の吹き溜まりに近い場所。

負の力が強い場所は彼女にとって有利に働くようだ。

魔紋様の効果を飲み込もうと力強く寄せる魔力の波は魔素の供給を得て、更に力を増す。

効果を打ち消さんとばかりに、激しくうねる魔力の奔流が壁を伝う。


「師匠、出力を上げていいですか?」


無言のまま師匠が差し出した手を握る。

すかさず白い光を放つ魔紋様まもんようが握った手の上に浮かぶ。

魔紋様まもんようから伸びた白い糸から魔力が直接流れ込むのを感じた。

循環させることなく一定の量で途切れることのなく供給される魔力。

その後押しを受けて、一気に魔力の奔流を押し返す。


今度はそれを受け止めるように、魔力の流れが変わった。目に見えない堰を造り、勢いを受け流そうとする。

こちらの魔紋様まもんようをの効果を阻害するように流れを変えるなんて良く出来たな。


でも、今回はこちらに分がある。

魔法手帖を取り出し、検索。


「破壊 座標"目視"」


開かれたページの魔紋様まもんようを発動する。

魔紋様まもんようから流れ出る魔力が堰を破壊する。

砕け散る、魔模様まもんようの音。


「ずるいじゃないの!!二人掛かりなんて!!」

「事前にダメって言われなかったもの。しかも仕掛けてきたのはそっちが先。」


うーん。ちょっと大人げないかな。

でもあそこで魔力の流れに押しきられたら被害を受けたのはこちらの方。

しかもどんな被害があるかわからないじゃないか。

だから『子供同士の喧嘩みたい』って言う師匠の台詞は断じて聞こえませんよ!!


気が付けば、魔力の出力を上げたおかげで補強の作業は終わったようだ。

部屋中が拭ったようにピカピカに輝いている。


…やり過ぎた?


作業の手を休め、無言のまま見つめ合う。

やがてオリビアさんと思われていた者(・・・・・・・)が深くため息をついた。


「わかった。降参してあげる。」


彼女の姿が一変した。

まるで氷が溶けるかのように偽りの器が消える。


姿を現したのは、私よりも年下と思われる少女。

黒い髪に、何も写さない黒い瞳。

魔人さんと同じ色彩を持つ少女の、つり上がった眼と固く引き結ばれた口元は気の強そうな印象を与える。


「まさか魔紋様まもんようの効果で、幻を上書きされるとは思わなかったわ。」


視線の先にある階層は普段見ているダンジョンの景色と同じ。

違う点といえば、結界に守られた書棚と書籍が宙に浮いていること。

なんかこう…シュールだ。


「オリビアさんは?」

「あそこ。疲れてそうだったから寝かしておいた。」


指差す先の壁には寄りかかるようにして眠るオリビアさんの姿があった。

さっきまで居なかったのにね。

これも幻の効果といったところか。


「本当に寝かせただけだからね?害してはいないよ。」


視線を受けて、言葉を重ねる少女。

修繕が終わる頃には自然と目が覚めるそうだ。

グレースが近付いて様子を見に行ってくれる。

呼吸も安定して、本当に寝ているだけのようだ。

幸せそうな表情をしているし、あのまま寝かせておきますかね。


「そうですか。じゃ、このまま作業を進めますね。」

「え?!それだけ?」

「ん?それだけ?」


何か言い忘れてたかな?


「私は作業の邪魔をしてたのよ?それがわかってて何で文句言わないわけ?バカじゃないの?」

「こいつはバカだぞ?」

「魔人さん、話が混乱するから茶化すの止めてもらっていいですか?」

「茶化してないぞ、本気だ。」

「本気ですか!!」


真顔で言わないでください?!

尚更質が悪いですよ!!


「だって貴女、最初から作業することは拒否しなかったじゃないですか。」

「それは必要があったからで…。」

「ちゃんと設備も壁や床から離してくれたし、不足の事態が生じたときのリスクも承知してくれた。後はそちらの希望に沿って、こちら側がどう作業を進めるかの話。」


私がいなくなったあとも、彼らはここに住み続ける。

全てを私の理想通りに直したからといって、彼らが住みやすいとは限らない。

もちろん、十五階層までのように特段配慮をせずに作業を進めてよいという環境が望ましいとは思うけれど。

このダンジョンの書籍は意思を持つ。

そして、その意思がいつも自分に対して有利に働く訳ではない。

ただそれだけのこと。


「私が依頼されたのはダンジョンの安全を確保することであって、無理矢理貴女達に言うことを聞かせることではない。だから今は作業さえ進められればそれでいいかな。」

「そんな甘い事言って…また、床を壊しちゃうかもよ?」


…そうか、床にあった損傷は彼女がうっかり壊した痕跡か。

うっかりとはいえ、厚みのある床を壊すって…怖すぎる。


「私がいる間なら私が直すよ。いないときは、主様ぬしさま経由で棟梁に依頼したら?」

「また訳のわからない人間が襲ってきたら?」

「ガツンとやり返していいんじゃない?手伝えることがあれば手伝うし。」


ただし、純粋な戦闘力は皆無に近いから期待しないで。

女子高生の細腕で武器振り回したら周囲に被害が及ぶじゃないか。


「異世界から呼ばれた者同士でしょう?庇わないの?」

「ん?…んと、状況が読めないけど、たぶん庇わないだろうね。自らの意思でダンジョンに立ち入った場合は自己責任だから。」


まだ子供で無理矢理連れてこられた、という状況なら流石に止めようとするだろうけどね。

それは異世界から呼ばれた人だからっていう訳じゃなくて、この国の子供であってもそうするだろう。

異世界から呼ばれた人であっても、本人の意思で乗り込んできた以上はダンジョンのルールに則っていかようになろうとも、それは仕方のないことではないだろうか。

余程の理由がなければ助けないだろうな、たぶん。


「皆手加減してるみたいだし、生きたまま追い出し且つ皆が納得する撃退方法として百鬼夜行の仕組みがあるのでしょ?なら止めないし、庇わないね。」


ちなみに今ならフルコンボに変更出来るけどどうする?と聞いたら、それは師匠に止められた。

『その辺で許してやれ』と。


いいじゃないか、選択肢は多い方が。


「ふーん。貴女は彼女と違うのね。もっと自分勝手な人かと思った。」

「まあ、自分勝手といえばそうですよ。貴女や十五階層以下の主に何の断りもなく、勝手にダンジョンの修繕を始めたわけですから。」


大家さんであるオリビアさんと、管理人である主様ぬしさまには断ったけどね。

壊れていようが、このままがいいという意思を魔物だっているだろうし。

彼女はある意味彼らの代弁者というわけだ。


「ちなみにその彼女って…もしかして、五年くらい前の。」

「それよ。なんかもう、殺してもいいかなと思うほど嫌な雰囲気の人だったから。」


彼女はにっこりと微笑んだ

笑顔はかわいいのに、さらっと黒いことを言うね?!

五年前の少女は乙女ゲームばりに男性から好かれたという人だから、てっきり主人公補正は誰にでも通用するものと思っていたけれど、そうでもないみたい。

一体、彼女はどんな力を使って男性達を思いのままに動かしたのか。


「それでも生かしたのは、主様ぬしさまの意向?」

「ううん、この人が迎えに来たから。」


ひょいと彼女が指差した先には、無表情の師匠の姿。

問題の彼女だけでなく、一国の王子や宰相の息子を迎えに来られる立場とは。


「師匠、随分と上の身分の方なんですね。」

「あの当時はそうでもなかった。ただ実力と…彼女の影響を受けなかった。」


彼女・・の影響を受けなかった。

なんでだろう。

それはとても嫌な言葉に聞こえる。

それだけの力がなぜ彼女に?

ただ異世界から呼ばれただけの少女ではなかった?


「…お前の考えていることは大体わかる。後で話そう。それよりもこっちを先に終わらせ他方がいいんじゃないか?」


師匠が繋いだ手を外し、魔力の流れを止める。

そうだな、先ずは終わらせてしまおう。


「このまま修繕を進めてもいい?」

「うん、もういい。なんかもう、色々考えるのに飽きたから。」


そう言うと少女はオリビアさんの隣に座る。

嬉しそうに寄りかかると、目を瞑り…。


寝た。


思わず苦笑いが浮かぶ。

猫みたいな子だな。

なつきそうで、なつかない。

けれど、それがまたかわいい。

気まぐれで、そして…。


「自由ですね。ちょっと羨ましいかな。」

「寝ながら魔力を回復させるのが一番手っ取り早い。ただそれだけだ。」


ぶっきらぼうな魔人さんの声。

だけど少しだけ心配するような優しさが込められているように聞こえるのは、私が彼らにそうであって欲しいと願うからだろうか。


「そういえば…魔人さん、知ってて止めませんでしたね。」


彼女がオリビアさんに化けていたこと。

入れ替わったタイミングは修繕を始めると彼女に伝えに行ったときだろう。管理者権限でなんとかならないかと師匠が聞いていたとき、『現状のままを主が望むのなら、それ以上は強く言えない』と言っていた時、疑問に思ったんだよね。


いや、だって修繕して欲しいと言ったのは主さんの方だよね?


普段のオリビアさんなら強烈に突っ込み、さらに限界まで追い詰め…ではなくて、優しく諭して最終的には相手を納得させている程度の問題だと思う。

さらに作業が進むと彼女の言葉が徐々に幼くなっていくような気がして。

違和感を感じたからこっそりステータスを確認した。

名前の部分が『?』で表示されていたから確実にオリビアさんじゃないなと。


そして彼女が魔力の奔流で押し流そうとした時も止めなかった。ある程度補強が終わった後だったからいいけど、また階層にヒビが入ったらどうしてくれる。


「君が自分の力を測る良い機会だと思った。彼女は魔力を扱うのが上手い。魔力を巧みに攻撃と守備に振り分ける事が出来る。まあ、理由はそれだけではないが。」


そう言うと、固く口を閉ざす。

これ以上は言わないというアピールかな。


「それじゃ、修繕を進めようか。」

「あ、お願いします。」


様子を見ていた棟梁が一段落ついたのを確認して声を掛けてくる。

このあとは棟梁と魔人さんが相談して仕上げてくれる。

私は要請がなければ特にすることがない。

階層の中をみると、魔物は多少彷徨いているようだが、作業には問題ないかな。

時々好奇心からか近寄ってくる魔物がいるけれど、魔人さんが景気良く吹っ飛ばしているから大丈夫だろ…なのかな?

そういえば設備と多くの書籍は師匠が結界で囲ったまま宙に浮いている。

目をこらすと、まるで結界内を浮遊するように移動する魔物の姿が見えた。

…まあ、あれはあれで楽しそうだからそのままでいいかな?


「師匠、しばらくあのままに出来ます?」

「長くは持たないが、あの時計の針が一周するくらいまでならな。」


ひょいと指差した先にいたのは、天に向かい高々と手を掲げる置時計の姿。

見事な装飾にポッカリ浮かぶ口が何やらぶつぶつ呟いて、時々笑っている。


怖い…。


「ああ、ここにいたのですね。あれは置時計の魔物ですわ、エマ様。」


聞けばシルヴィ様の部屋の置時計をあの時計の時間に合わせたとか。

あ、思い出した。

観察していると、大して時間が経っていないのに針がぐるぐる回転し始めた。

ど、どこの世界の時間に合わせてるのかな?


「師匠。あれは見ちゃいけないやつです!!」

「うん?そうなのか?…そうみたいだな。」


とうとう置時計の魔物が笑い通り越して高笑いを始めた。

ひゃっひゃっひゃっ…。



超怖いいいいいいい!!




遅くなりました。

ちょこちょこ違う作品のこぼれ話を整理して、仕上げていたらこちらが遅くなってしまいました。

反省…。

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