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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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魔法手帖百十頁 聖女と魔法手帖、呪詛の本体と適材適所


一転、聖女の登場を待つ、祭壇脇の貴賓席。

静かすぎる場は、小さな会話ですら驚くほどよく響く。

回りに聞こえないよう、風の大精霊が音を遮断する結界を張った。



『ここまで容姿が違うと普段通りに話し掛けにくいわね。』

「自分がそうしたんだろうに。」


風の大精霊は秘書風のきりっとした若い女性の姿。

光の大精霊は小太りの中年男性の姿に。


『でも目立たないというのは便利だね。』


商家の若旦那という風情を醸し出しているのは木の大精霊。

そして。


『…我だけ目立つし胡散臭いのだが。』


いかにも護衛です、と言わんばかりに厳つく逞しい容姿をしているのが土の大精霊。

腰に剣を提げ、使い込んだように見える兵装は確かに綺麗とは言い難い。


『あら、普段もそんな背格好じゃない。』

「大丈夫!!見方によってはかっこいいともいえるよ!!」

『ん…目印になっていいんじゃないかな?』


同意を得られるどころか、仲間は自身の意見に否定的だ。

…どうせ変化させてもらえるのなら、普段とは全く違う容姿にしてくれたっていいじゃないか。

ただでさえ眷属にすら怖がられているのに。

残念そうな表情を浮かべる土の大精霊の心の声が聞こえたかどうかは定かではないが、風の大精霊がにっこりと微笑む。


『この場で一番頼りになる魔法を使えるのは貴方なのよ。私の風属性は攻撃に適してはいるけれど範囲も効果も限定的。光属性は問題外だし、木属性なんか使える者が限られているから、目立ってしょうがないでしょう?だから一番汎用性があって、使い手の多い土属性を持つ貴方が護衛役には適任なのよ。』


諦めなさいな、彼女がそう締め括ったところで人々のざわめきが遠くから伝わってくる。

ざわめきは徐々にこちらへと近付いてくるようだ。


『お待ちかねの聖女様登場ね。』


聖女を中心にした一行はゆっくりと祭壇へ向かう。

そして聖女を祭壇に残し、残りの者は少し離れたところで控える。

聖女は神に祈りを捧げると、手に握りしめた魔法手帖を頭上に掲げた。


「…あれが彼女の魔法手帖。」


シロの口からぽろりと言葉が漏れる。


『すごい力ね。』


大精霊達も言葉を失い、食い入るように見つめる。

魔法手帖に収められた魔紋様まもんようから発せられるのだろうか。

まるで万物の源となる魔素の粒子が頁の隙間から溢れ落ちているかのよう。


禍々しささえ感じさせる、圧倒的な存在感。


聖女は頭上に掲げたまま魔法手帖に魔力を注ぐ。

魔法手帖は彼女の魔力をぐんぐん吸い込み、やがて光を放ちつつ頁をめくり始める。


「なるほど、魔法手帖に予め魔力を大量に注いでおき、すべての魔紋様まもんようを発動直前で止めておくのか。」

「なんという、魔力量…。」


精霊は魔力に敏感だ。

故に大精霊クラスともなれば相手の魔素を集める器がどの程度か、おおよそ予測がつく。

エマの場合は発展途上なので未だ固定していないが、ある程度の年齢になれば大抵器は固定され、ほとんど育つことはない。

予想するにこの聖女は…器が規格外に大きい。

この大陸で探したとしても、恐らく彼女と同じレベルの者は両手にも満たないだろう。

王国の盾…あの少年の器と同格、若しくはそれ以上かもしれない。


「この魔力量を一気にぶつけられたら…ちょっと困ったことになるね。」


魔紋様まもんようの効果を相殺した魔力の塊。

かつてエマが話していた魔紋様まもんようを打ち破ったという魔力の塊を打ち込むには元となる大量の魔力が必要不可欠だ。

つまり大量の魔力が作り出せる器を持つ人物が怪しいということ。


彼女でほぼ決まりだな。

狩りの最中、事故にでも見せかけて殺すつもりであったか。


シロの体から、ゆらりと魔力が立ち上る。


『落ち着け、光の。このまま力を解放すれば化けの皮(・・・・)が剥がれる。』


いつの間にか後ろに立っていた土の大精霊が軽く肩に手を置く。


『お願い、これ以上気配を偽るのは無理よ。落ち着いてちょうだい。』


空いた腕を軽く押さえ、風の大精霊が囁く。

そして反対側からは木の大精霊が噂話でもするかのように顔を寄せる。


彼女(女王)への土産話にするつもりなんでしょう?』


女王という言葉に、意識が祭壇へと引き戻される。

儀式は滞りなく続いているようだ。


「すまない、ちょっと冷静さを欠いたみたい。」


恥じたようなシロの言葉に三人の警戒が緩む。

そして無言のまま刺すような視線を向けられた。


シロはひょいと視線を逸らす。

だってしょうがないじゃないか。

目の前にエマに手を出したかもしれない愚か者がいるんだよ?


「…ああ、そろそろ浄化の魔紋様まもんようを発動させるようだ。発動させる言葉が古語とは、ずいぶん古い時代の魔紋様まもんようのようだね。」


誤魔化すように呟くと、やっと三人の視線が祭壇へと戻った。

聖女は淀みなく発動させる言葉を紡いでいる。

そして。


天空を舞う浄化の魔紋様まもんよう

糸の色は銀に近い灰色。

やがて魔紋様まもんようは霧散し、きらきらとした光の粒子を残して消えた。


「ふうん、この程度で終わりか。」


シロの言葉に大精霊達は怪訝そうな視線を向ける。


『空気の質が変わったわ。』

『土の匂いもいつも通りに戻った。』

『…植物も喜んでいるよ。』


自然に親い存在である大精霊達には浄化が成されたことは分かったらしい。

ただ、目に見える効果が無いだけに領民の反応は薄い。

なんだこれだけか、という失望の声が溢れる。

その時、領主と思われる若い男が立ち上がると、彼らへ向かい高らかに告げた。


「聖女様のお力はこの程度ではないぞ!!これから神のお力を借り、我々に新たな奇跡を見せてくださるそうだ!!」


その言葉を受け、聖女は再び魔法手帖に魔力を注ぐ。

魔紋様まもんようは彼女の足元に発現し、そこから蔓や蔦が伸びる。


『この状況でさらに植物にまで干渉しようというの?』


呆然と風の大精霊が呟く。

無言のまま成り行きを見守る木と土の大精霊。

伸びた蔓や蔦は近くにあった樹木へと絡み付き、田畑へと魔素を注ぐ。

そして余多の花が開いた後、見渡す限りの樹木には果実がたわわに実り、畑には刈り入れ前の穀物が一面に生い茂っていた。


領民の間から歓声が沸き上がる。

あまりにも奇跡的な光景を見せられ、度肝を抜かれたせいか、聖女を礼賛する声と共に涙を流し喜ぶ者の姿すら見受けられる。


「…なるほどね、効果を()()()()()()というわけか。」


目に見えない浄化よりも、目に見える効果を。

聖女は強かな性格のようだ。

領民達には浄化が成されたということも大切であるが、それ以上に久しぶりに見る豊作の景色が何よりも嬉しかったに違いない。


「神は我々に正しく生きるよう促されている、さもなくば再び災いが訪れるだろうと。」


満足げに領主が締め括ると聖女は祭壇で神に祈りを捧げ、来たときと同様、ゆっくりと会場を後にする。

その列が見えなくなると同時に、まるで蟻が群がるように領民達は果実や穀物に殺到した。

これでまた聖女の信者が増えるだろう。



…この効果が、一時のまやかしであることに気付きもしないで。

貴賓席と離れたところで待機していたグレースが彼らのもとへ合流する。


「想像以上でしたね。」

「うん。だけど今はどんな忌まわしい対価を支払ったのか、そちらの方が気に掛かる。」


シロの言葉に眉根を寄せたグレースが同意する。

浄化の対価は魔力で賄えるからいい。

だが、実も種も無い場所から作物を育てるという行為は別だ。

新たな(作物)を生み出す、そのために捧げた対価はいかほどのものであったか。


同等の作物を捧げただけで賄えるとは思えない。

であれば未来の時間軸で収穫される予定の作物か。

もしくは…この作物によって救われる者と同じだけの人の命か。


いずれにせよ、この土地の魂に傷がついたということに違いはない。

残念ながらこういう土地を精霊は嫌う。


『もう祝福も無駄でしょうね。この地に繋がる精霊の入り口は土地が癒えるまで閉鎖するしかないわ。』


呪われた土地に近付けばどんな災いが降りかかるかわからない。

そんな場所に無垢な魂を持つ精霊達を近付ける訳にはいかないだろう。

風の大精霊の言葉に他の大精霊も同意する。


『それに、この作物も収穫出来るのは一度きりだ。』


回数限定で豊作をもたらす魔紋様まもんよう

実った作物を収穫したらそれで終わり。

この地にあった精霊の入り口は閉じ、魔素を運んでくる精霊もいなくなる。

そうなれば呪いが浄化されたとしても、この場所で収穫できる作物など微々たるものだ。


「この国は自国の価値を痛め付けてまで、何を成したいのでしょうか?」


グレースの呟きにシロは頷く。


「そうだね。それに…一つ嫌な予感がするんだ。」

『嫌な予感?』

風の大精霊の言葉には答えず、呪詛のあった方角を指差す。



「戻ってみよう。確かめたいことがある。」



ーーーーー


呪詛のあった方角に転移すると、光の眷族が集まってきた。

変身を解除し、移動しながら彼らの言葉に耳を傾けるシロは口元を歪める。


「やはりね。」

『やはり、って?』

「間もなくわかるよ。」


森に分け行ったところで、木の大精霊が歩みを止める。


『呪詛の気配が残っている?!』


慌てて土の大精霊が大地に手をかざすと眉根を寄せる。


『僅かに眷属ではない者の鼓動が聞こえる。これは、まさか…。』

「正解、呪詛の本体だよ。」


シロは見えてきた石を指差す。

先程と同じ石の上で、黒々ととぐろを巻くが如く居座る呪詛の本体。

浄化の効果で小さくなり力は弱まっているものの、やがて時が経てば再び力を取り戻し、呪詛を振り撒くだろう。


『あれだけの力を使っても、全てを浄化できなかったというのか。』


土の大精霊の言葉にシロは薄く笑いながら言う。


「我が浄化しようか?この森の範囲内で被害は収まるけど、どうする?」


シロは黙り込む大精霊達に視線を合わせることなく呪詛の本体を見つめる。


「それか、あえて本体を残しておいたのかも。再びこの地を呪いで満たすために。聖女は余程この領がお気に召さないらしいね。」


それから風の大精霊に近づき、耳元で囁く。


「君の大好物の情報だよ。謎に満ちた聖女はこの地に繋がる者だ。愛すると同じくらいに、この地を憎んでいる。君なら調べられるだろう?だから誰かわかったら教えてね。」


王国の商店『黒龍の息吹』へ訪ねて来るよう伝えると風の大精霊は溜め息をつく。


『我を上手く利用したわね。』

「そんなことはないよ。適材適所と言って欲しいな。」

『上手いこと言って、誤魔化されないわよ。』

「それに浄化だって水の大精霊がいれば、このくらい余裕かもしれない。ほら、やっぱり適材適所じゃないか。」

『だが彼は力を使いすぎている。これ以上使わせる訳にはいかないでしょう?』

「ああ、それは大丈夫だよ。もうすぐ満ちる頃だから。そしたら慌てて合流しようとするんじゃないかな?何勝手してるんだ~、とか言って!!」

『は?』

「怒られる前に退散しようっと。それじゃ~またね!!」

『ちょっと!!少しは人の話聞きなさいよ!!』


怒れる風の大精霊に対して、それはいつもお前が言われていることだと残された精霊達は思った。

怒りを軽く受け流したシロは毛玉の姿に戻るとグレースに抱っこされたままヒラヒラと手を振る。

瞬く間に転移して姿を消す二人。


『何だったの?あの二人。』

『…そうだね、散々振り回しただけで何しに来たんだ?』

『光のが、ああいう性格なのは今更だろう。まともな対応を期待するな、諦めろ。』


土の大精霊の総括に黙り込む二人。

その二人の後ろに突然精霊の気配が降り立った。


『水の!!大丈夫なのか?!』

『顔色は…問題ないようね。良かった。』


水の大精霊は三人の姿を確認したのち笑みを浮かべる。

それから周囲を確認して眉根を寄せた。


『あの天然ボ…、失礼。光の大精霊はこちらに来ませんでしたか?』

キラキラした笑みに常には無い迫力が込められたせいで、いつもなら呼ばずとも近付いてくる水の眷属が彼を遠巻きに眺めていて大人しい。

三人の心中は同じ言葉で占められた。


超怖い。

あいつ、何やらかしたんだ?


『彼は引っ掻き回すだけ掻き回して帰っていったわよ。浄化も不完全だから貴方にお願いしてみろって。』


水の大精霊は事の顛末を聞いてから、石の上を蠢く呪詛の本体を眺める。


『悔しいですが、確かにこの程度まで力を失っていれば私にも浄化できるでしょう。』


水の大精霊が軽く手を動かして生み出した水に呪詛の本体を絡めとる。

やがて水に包まれた呪詛はゆっくりと空気に溶けるように消えていった。


『全く、どちらの魔法手帖も恐ろしい力を秘めている。』

『どちらの魔法手帖()?』


不思議そうな表情の大精霊達に水の大精霊は真剣な表情を向ける。



『皆に話しておきたいことがある。先ずは精霊界に里帰りした光の大精霊が何を成したかについて。…そして彼が溺愛する、次代の魔法紡ぎの女王の話を。』










長くなって切った分の残りです。

続けて投稿したかったのですが、ちょっと忙しくなって遅くなりました。

お楽しみいただけるとうれしいです。

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