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エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


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120/187

里帰りとはじめてのお使い sideシロ


エマが力尽き、ダンジョンを彼女の魔力が侵食した頃。



飼い主にお使いを頼まれたシロとグレースは精霊の道を進んでいた。

一刻も早く終わらせてエマの元に戻りたいと最短距離を進む。


「精霊の道って、思いの外…派手なんですね。」

「派手というか…これを精霊の道と呼ばれるのは不本意だ。この装飾を採用したやつに文句言ってやる。」

道の両端にズラリと並ぶのは某異世界の景色を彷彿とさせる赤提灯。

エマが見たら『お父さんがこよなく愛した昭和の香り漂う居酒屋さん通りだ!』と大興奮なのだが、作業部屋で力尽きている彼女には当然この景色は見えないし見える筈もない。

見たことのない衣装を着た精霊達がそこかしこに下がる布…のれんというらしいが、を潜っては楽しそうに遊んでいる。


「このデザインを採用したの、風の大精霊様らしいですよ?」

精霊達の噂に耳を傾けていたグレースがシロにそっと囁く。


「あの変わり者が。」

珍しいもの好きが高じるとこういう方向へ傾くのか。

一気にげんなりとした表情を見せるシロの周りを小さな精霊達が飛び交う。


『あ、光の大精霊様だ!!おかえりなさい!!』

『こんにちわ、大精霊様。』

光の恩恵に預かろうと、他属性の精霊も近寄ってくる。

水、風、火に鋼、雷と。


「おや、木と土が少ないね。」

シロの言葉に皆が一様に悲しそうな表情をする。


『たくさん、怪我してるの。』

『なかなか消えない呪いがあって。』

「木と土の大精霊は?」

『呪詛が見付かった場所に様子を見に行ってる。』

「精霊達の呪詛や怪我の治療は?」

『水の大精霊様が頑張ってる。でも足りない。』

「確かにこういう時は水のが一番頼りになるからね。

でも頑張りすぎて自分の力まで弱まっているのか。」

混在する魔素の量を目安にして水の大精霊の状況を探る。

あまり大丈夫ではなさそうだ。

水属性が司るのは水と浄化と癒やし。

浄化は強力な呪いでもない限り、問題なく対処できる。

また癒やしは回復の下位にあたる魔法と言われるが大精霊ともなれば格が違う。


ただし強力な呪詛…禁忌と呼ばれる魔紋様(まもんようによる呪いでない限りは。


「使いどころは任せると言われてきたからな。

今後の事もあるし、実験もかねて使ってみようか。」

シロの言葉にグレースが鞄を探る。

「どの効果にされますか?」

「エマが『最高位セット』と言っていたものを。」

「ここで使われてしまってよろしいのですか?」

「水の大精霊が力を使い果す位なんだ。あの場所に行っても恐らく出番はないよ。それに彼へ恩を売る良い機会じゃないか。滅多にない機会を逃す手はない。」

そう言うと近くにいた精霊へと声を掛ける。


「水の大精霊がいる場所に案内して。」

『はい、光の大精霊様。』

横滑りする戸を開き、のれんをいくつか潜る。

混沌とした景色の中にある一定の秩序は想像の産物であることの証。

「建物の細部まで再現されていて…とても強い力の持ち主なのですね。」

「力の使いどころを間違っている、という意見なら賛同するよ。」

やがて一枚の襖を開けると水の大精霊が椅子へ寄り掛かっていた。

気だるそうに視線を上げると軽く目を見開く。


『光の、これはまた珍しいですね。』

「うん、久しぶり~。何だか大変な目に合っているね。」

『ええ全く。かの地が呪われたことで我々にも被害が出ました。弱っているものはまだなんとかなったのですが…触れて呪われたものはどうにもならない。生命を維持することで精一杯なんです。このままの状況が続くようなら、闇の力をお借りしようかと思っていたくらいですから。』

「そこで我の力を借りたい、と言わないところが不思議なんだけど?」

浄化については光の属性を持つものがもっとも強い。次いで水と火、といったところか。光の精霊の眷属から応援要請はあっても、精霊の仲間…大精霊達から話がないのはどうしてだろうと思っていたのだが。


『ご自身が良くわかっていらっしゃるでしょう?貴方の力は強すぎる。浄化にしても呪われた箇所だけならともかく、国一帯を白く塗り潰されては他の眷属にまで被害が及んでしまう。』

「まあ、それもそうなんだけどね。」

『それで本日は眷属の様子を見にこられたということでしょうか?』

「うん、それと"お土産"を持ってきた。」

『お土産、ですか?』

「我が契約した、というのは聞いているでしょう?その契約者からの手土産。

多分君達に今一番必要なものだと思うよ。」

目の前に提示された魔紋様まもんように水の大精霊が驚きの表情を浮かべる。


『アリアの花冠…。

噂には聞いていましたが、本当に契約されたのですね…女王と。』

「うん。見た目は普通の可愛らしい女の子だよ。」

『中身はそうではないと仰られたいのですか?』

「そうだよ。だから皆に伝えておいて。

『手を出すな』と。…そして手を出したら、我が相手になる、とも。」

水の大精霊の顔色が一気に悪くなる。

『本気ですか?』

「こういうことで冗談は言わないよ?」

白い毛を揺らし面白そうに笑うシロを真剣な瞳で見つめる水の大精霊。

やがて、ひとつ、溜め息を溢す。


『全く。たまに姿を見せたかと思えば無理難題を。

…わかりましたよ。出来る限り手は尽くします。

ただし、例の双子を除いては、ですけど。』

「まだ行方がつかめないの?」

『巧妙に姿を偽っているようですね。

自然界に身を置く我らとは違う場所で生きていくことを選んだようです。』

「彼らの場合、自然界ではない場所の方が生きやすいかもしれないね。

大丈夫、エマに手を出さない限り、我も関知しないよ。」

光の属性を持つものは直情的だ。

手を出したら容赦しない。

それ故に攻撃も苛烈を極める。


水の大精霊はひっそりと溜め息をつく。

影響範囲を考えると出来る限り伝えておきたいが…無理だろうな。

彼らはすでに自身より力の強い精霊達の言い付けにすら従わなくなっていたから。

「まあ、彼らについては機会があったら我が直接言うよ。」

心中を察したのかそう話を締め括るとシロは魔紋様まもんようの紙を軽く揺らす。


「さて、話は終わったから皆にお土産を披露しよう。」

『どの様な効果が付与されているのですか?気配からみて、恐らく浄化と…そちらは回復でしょうか?』

「うん、そう。効果のほどは検証済みだから保証するよ。」

『精霊にも…効果があるということですか?』

自然界にある精霊は彼らのスキルによって器を得、可視化出来るようにするというだけで、例えば人間でいうところの肉体を伴うわけではない。故に回復や浄化などの直接肉体に作用するような魔紋様まもんようは彼らには効きにくいとされているのだ。その分、自然界から溢れる魔素を集めやすい性質を持つとされてはいるが。

「弱った精霊の回復は魔力を魔素に変換出来るからそれを吸収すればいい。

ただしその魔紋様まもんようは使いきりだから一度発現させたら二度は使えない。」

『そんなことが…!!本当に出来てしまうのですか?』

「彼女曰く『そういう機能を付与して紡いだから』だそうだよ。

ただし、この部屋の二つ分くらいの範囲にしか魔素を満たせない。」

『この広さの部屋を二つ分…。』

呆然と回復の効果を持つ魔紋様まもんようを見つめる彼に、シロはもうひとつの方を指差す。


「浄化の方はもう少し効果の有効範囲が狭まる。この部屋位の広さにしか効かない。その代わり、空間にいるものには平等に効果が付与される。羽のある精霊は空中を飛んでいてもいいし、複数の精霊が重なり合っていても、ちゃんと効果は発動するらしい。ただこの辺りは検証できなかったから確実ではないけどね。でもこの魔紋様まもんようが精霊を癒せるというのは間違いがないよ。…何しろ、我のしるしですら癒したのだから。」

『な、んですと?』

「嫌になるよね~。我が解除するしか徴から逃れる術ないはずなのに、あっさり癒されるなんて。彼女ったら『女子の体にあんな徴を残して死んだら、彼女達が浮かばれないでしょう!!』ってきつく言われちゃってね。いや、困った。」

困ったといいながら至極嬉しそうな光の大精霊の態度に目を見張る。

それから彼は静かに問い掛けた。


『自身の能力の一端を上回る力を見せつけられたのですよ。

その事に不満はないのですか?』

力ある精霊ほど誇り高い。

誇りの高さにかけては追随を許さない光属性の、しかも彼は大精霊と呼ばれる存在だ。その彼が易々と人間である彼女の力を受け入れたことに驚きを隠せない。

稀に人間にも生まれるのだ。

精霊の力を上回る能力を見せるものが。

そんな彼らが精霊に見つかれば…大抵の場合殺されるか、無理矢理精霊界に捕らえられ食い物にされるか。どちらにしても命を長らえることは難しい。

それほどに精霊は自身の感情に正直なもの。


嫉妬。

忌まわしいとされる醜い感情のひとつ。

純粋であろうとも、己が意思を持つ以上、精霊であってもこの感情と無縁ではいられない。その懸念を嘲笑うように、光の大精霊は口元を歪める。


「彼女は、その程度の器ではないのだよ。」

『その程度ではない?』

「彼女が魔法を紡ぐさまを見ればわかるよ。彼女に与えられた力の根源はもっと原始的で圧倒的な力。寧ろ我々の好む自然界に近いものなんだ。例えば太古に存在したとされる神々のような、ね。だから彼女を直接害しようとするものは、異世界から呼ばれた者に対する恩恵によって地位や名誉を失うというだけではない。恐らく…その身を損なう。」

精霊が例外であるとは思えないのだ。もし精霊がエマを害し、彼女が精霊を忌避するようになれば、彼らにどの様な影響を与えるのか全く想像がつかない。

それほどに彼女の力の根は深い。


「それにね、我は常に力が強いと他の精霊達から敬遠されてきた。こうして直接話が出来るのは主たち大精霊か我の片割れである闇の、くらい。でも彼女は精霊の格に拘ることなく接してくれる。普通に話が出来ること、そんな単純なことがものすごく嬉しいのだよね。」

『…それは貴方が度々脅かすようなことを格下の精霊に言うからでしょう?今の境遇は彼らのせいだけとは言えませんよ?』

「そうなんだけどね。ってあれ?今までちょっと言い過ぎてた?」

『天然なところは相変わらずのようですね。お変わりがないようで安心しました。さて、折角女王からいただいた手土産だ。早速使ってみましょう。…実際のところ、あと、何日命が持つかという者もいたので助かりました。』

水の大精霊は手の空いている者を呼び出し部屋の準備を整えさせる。


「順番が大切だからね。先ずは浄化。今回のために浄化は呪詛の効果を取り除くだけのものを紡いだそうだから、魔紋様まもんようの効果を受けていない部分に影響はないそうだよ。その代わり、取り除いたあとの損傷部位の回復は自力で魔素を吸収するか、こちらの回復の魔紋様まもんようで足りない分を補ってほしいと。だから浄化された者で回復の補助が必要な者がいたら、その者も含めて回復の部屋に精霊を集めて。」

『呪詛以外の部分に影響を与えない…そんなことが出来るのですね。』

「だからさっきも言っただろう?彼女はその程度ではないと。」


"過剰な治癒は攻撃にもなりうる。"

彼女がお世話になったという老医師が教えてくれたこと。

彼女が最も気にしていたのはこの点だ。

浄化も治癒と同様に直接対象へと作用するもの。

浄化を使うことで問題のなかった箇所を損なうことはないのか。

肉体とは異なる器を持つ精霊に対し効きすぎるということはないか。

結果辿り着いたのが"特定の魔紋様まもんようの効果だけを取り除く"というものだった。

「説明するのは簡単だけどね。実際にこれを紡ぐのは難しい。」

『必要なものは魔法紡ぎとしての技量だけではないでしょうね。起点の魔紋様まもんようが持つ特性も関わってくる。』

彼女の起点の魔紋様(まもんようは属性を選ばない無属性、付与できる効果は紡ぎ手の"願いを叶える"こと。

非常に有用で柔軟な起点の魔紋様(まもんようを持つ少女。


…なるほど、だから私に話したのか。

準備が整いつつあるのを目で追いながら、水の大精霊は一つ溜め息をつく。

『先ほど仰った皆に伝えておいて、皆の中には大精霊達も含まれるのですね。』

「うん。彼らがこの力の存在を知ればきっと彼女を欲しがる。

それこそ道を開きかねないほどにね。彼女が精霊と共にあることを選ばぬ限りは絶対に道を開いてはいけないし開かせない。彼女を無理矢理この世界に留めたところで精霊達にどんな影響が出てしまうか、誰にもわからないしね。」

精霊は自分の欲望に忠実な存在だ。

自然の大いなる力に近ければ近いほどその傾向が強い。

『私は信頼いただけたようですね。』

「自身の力を他の精霊に殆ど与えてしまうほど献身的な者が、他者への影響を考えず欲望に屈することはないだろうしね…そこのところは期待しているよ?

ああ、それから今回の手伝いに来てもらった彼女の紹介を忘れていたね。」

シロは自身を抱えているグレースを示す。

「彼女はグレース。書籍の精霊体だ。属性は光だから我の眷属になる。今日の手伝いと、これからも時々お使いを頼むつもりだから、ここに来たときはよろしくね。」

『精霊体…また変わった気配のものを連れていらっしゃると思ったら、そういうことですか。』

挨拶をするグレースの姿を水の大精霊は観察する。

姿形は精霊であるが、魂の在り処が違う。

精霊は存在そのものが命であり、魂の在り処。

一方で彼女は書籍に魂を宿す。

人に近いものであるかのような彼女の存在感は精霊界において異質だ。

これは今後の精霊界において彼女の安全を確保するための顔合わせというわけか。


「水の大精霊様、準備が整いました。」

一体の精霊がこうべを垂れる。

準備の整った部屋に案内され内部を一瞥したシロは眉根を寄せる

閉ざされた一部屋に集められ精霊の数は数え切れぬほど。

呪いを受けた黒い部位を晒して横たわる彼らの中に、今にも呼吸の絶えそうな者が含まれていたことに嘆息する。

「確かに、それほど残された時間はなかったようだな。」

シロは浄化の魔紋様(まもんように魔力を流す。

元々エマの魔力が満たされていた魔紋様(まもんようは僅かの時間をおいて発動した。

精霊の体を金色の光が包み、やがて精霊達から黒々とした煙が吐き出される。

煙は金の光に触れる事で浄化され殆どが消えていく。

それでも最後の抵抗であるかのように、力の強いものが一体だけ残された。

漆黒の塊は部屋の天上辺りで渦を描きこちらを伺うように漂う。


「あれがエマ様の仰っていた本体ですね。"集束"。」

黒い煙が再び精霊達を目指して襲いかかる前にグレースが魔法を発動する。

彼女は回収した黒い煙を鞄から取り出した白い箱に納めた。

それから箱を恭しくシロの前に差し出す。

「我が力の根源は全てを無に返すもの。我が力の前では禁忌の魔紋様(まもんようがもたらす呪いすら無に返る。こうやって別の空間を作り出し、そこに呪詛の本体を収納すれば、後は気配が消えるまで魔力を注げばいいだけ。」

この箱は魔道具、しかも特別製だ。

この箱ならシロは加減を気にすることなく力を注ぐことが出来る。


箱へ自身の力を満たす。

一瞬箱の隙間から垣間見える光の残像。

恐らく今、箱の中は光と熱で真っ白に塗り潰されているに違いない。

その様は昼の主、太陽の纏う光そのもの。


「うん、もう抵抗もないね。呪詛は消えたよ。」

結界の中で蓋を開けてみると、箱の中には欠片も残っていない。

光に灼き尽くされたのだ。

部屋を満たす精霊達の歓声。

嬉しさのあまり部屋を飛び出した精霊はグレースによって回収された。

彼らには必要に応じて回復を受けてもらわねばならない。


『こんなにあっさりと…。』

驚愕のために表情を歪める水の大精霊。

自身の力を大量に使っても果たせなかった浄化を呆気なく成功させた力の差。

光と闇、この二体の力と他の大精霊の間には越せない壁が存在する。

ただこの二体は力の及ぼす影響が大きい故に正しく使うことが難しい、というだけ。


シロは正方形の真っ白い箱に視線を落とす。

この箱はオリビアの店から借りてきた魔道具。

"盾"が気紛れに造ったという収納魔法の亜種は用途に困り払い下げられたもの。

倉庫の片隅で処分に困るものを捨てる箱として活用されていた。

ちなみに店では『ナイナイの箱』と呼ばれている。

何をナイナイしたのかは店主しか知らないが碌な物ではないらしい。

よって今回、それらを実験対象として箱の性能を試すことにしたのだが。

力を満たしたのち開けてみると見事に中身だけが消えていた。


『結界と空間は似て非なるもの。それを作った者は両方に長けているようですね。』

「たぶん彼は精霊に親しい者、だよ。」

『もしかして…精霊の隣人(フォーサイス)でしょうか?』

「名を聞いていないから勘だけど。恐らくはね。」

『かの家とは例の一件で疎遠になっているとばかり思っていたのですが。』

「家とは関わりはないけれど、家人とは間接的に女王エマが縁を繋いでくれた。」

失う切っ掛けとなった一件は精霊と人間の関わりに影響を与えている。

それは両者を遠ざける柵となったが異世界から呼ばれた彼女には関係ない。

あっさりと柵を乗り越え、本人の知らないところで両者の力を繋いだ。


「さて、浄化は終わった。回復の部屋に移ろうか。」

『すでに待機しているようですよ。』

部屋にはたくさんの精霊が溢れている。

だが浄化の部屋にいた精霊ほどの緊張感はないようで比較的落ち着いて待っている。


シロが集団を見つめてむむっと唸る。

それから目についた何体かの精霊を指差す。

「ここは回復が必要な者のための部屋だよ。お前とお前、それからそっちの。他にも何人か回復の必要がない者が混じっているね。好奇心で潜り込んだことはわかってるから治療の邪魔だし出ていってもらえない?でないと。」



消してしまうよ?



ざっと気配が揺れて部屋から二十体ほど精霊がいなくなった。

残された精霊の間に緊張が走る。

『光の、もうちょっと言葉を選んでもらえませんか?』

「魔素がこの部屋に満ちるのは一度きり。後は吸収され減っていく一方なんだから興味だけで潜り込まれても迷惑なだけだからね。」

それから部屋を見回し確認するとゆっくりとした口調で説明する。

「これから、この部屋に魔素を満たすけど嬉しくなって一気に吸収しないようにね。のんびりと過ごしたり、寝ていてもいいから魔素を集める器の望む速度で吸収するようにして。今回みたいな状況で魔素を吸収するという行為を君達は恐らく経験したことがないから、あまり急ぎすぎると器に負荷がかかって体調を崩す可能性があるそうだ。」

その言葉に気遣いが感じられたからだろうか。

精霊達は表情を緩ませ、嬉しそうに微笑む。


「お心遣い感謝します、とお伝えください。」

柔らかい笑みを浮かべ、そう締め括った水の大精霊が扉を閉めようとしたところでシロの声がかかる。


「ああ、そういえば水の。」

『はい、何ですか?』

「君もだよ。」

とん、と押される背中。

体勢を崩すように部屋へ入った水の大精霊の背後で扉が閉まる。


『ちょっと、何するんですか!!出してくださいよ!!』

「うるさい。いざというときに君が役に立たなくてどうするのさ。回復に励む姿を見せるのも上に立つものの務めだよ。暫くはその部屋で皆とのんびり過ごしているといい。」

シロはグレースが部屋の入り口に貼っておいた魔紋様まもんようへ魔力を流す。

部屋の中からは再び精霊達の歓声が聞こえた。


「成功したようだね。では次の場所へと向かおう。」

「水の大精霊様、きちんと回復を受けられるでしょうか?」

「部屋に"錠"をかけてきた。鍵は奴の魔力量。一定量溜まらないと開かない。戸に我の徴がついているから見ただけで気付くだろうね。」

ただでさえ、彼は働きすぎなのだ。

実直で勤勉、生真面目。

自由気ままに出歩くシロと違い、非常時以外は精霊界に留まって個性的な精霊達の間を取り持っている精霊界の調整役。

口うるさいけれど自身とは全く異なる性質を持つ彼のことをシロは嫌いではなかった。

そんな彼も表情に出さないだけで苦労はあるだろう。

大精霊にだって休息は必要だ。



「お疲れさま。」

シロは小さく呟いてグレースを従え精霊の道を進む。

目指すは精霊の道が繋がる先、豊穣を約束されたはずの地。



ブレストタリア聖国ソル。








思ったより長くなって途中で切ることも出来ず完成が遅くなりました。

お楽しみいただけると幸いです。

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