表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エル・カダルシアの魔法手帖  作者: ゆうひかんな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/187

魔法手帖百四頁 招待状と噂話、髪留めと貴方の名前


「久しぶりにダンジョンで死人が出たそうだ。」

「ああ、なんでも書籍を破損させようとしたらしいぞ。」

「しかも禁止されている十五階層以下に侵入しようとしたそうだ。」

「無謀なやつもいたものだな!!」


皆さん、お早うございます。

一夜明け、早朝の市場へ朝食用の食材を買いに来たところです。

早速昨日の一件が情報として拡散されているようですね。

聞く人が聞けば何があったのか察する事が出来るように。

この辺りは師匠の計画のうちでしょう。


「しかし、どうしようかな。」


貰った招待状の事を思い浮かべる。



ーーーーー



十五階層。


「これが"女王陛下の書架"。」


部屋に戻ると早速師匠を女王陛下の書架がある部屋へと案内した。

呆然と見上げる師匠を部屋に残し、証拠となる画像を魔道具に複写する。

実はこれ、サナさんの試作品。

『有り合わせの部品で作ったから期待はしないでよ?』と自信ない様子で渡されたものです。

一応、壊れてもいい画像で何度か実験したのですがどれも問題なく複写できました。


サナさん、試作品が大活躍ですよ。

複写したものを画像再生機で再生してみる。

うん、画像も粗くなってないし無事に複写できたようですね。


「それが例の画像か?」

「あれ、書架の本はもういいのですか?」

「様子を見に来ただけだ。」

「借りていきたい本があったらどうぞ。オリビアさんも何冊か借りていってますし。」

「…いいのか?」

「この部屋の鍵が私の魔力だったとしたら、私がいなくなったら読めなくなるかもしれませんよ?」

「感謝する。」


目の色が変わりましたね。

この部屋にある書籍の価値がどの程度かわからないけれど、シルヴィ様が最後まで手放さなかった本ということだけでも価値があるのかも知れない。

ついでだからと複写した画像を師匠に渡す。

画像再生機は…ディノさん経由で仕入れてもらえばいいかな、うん。


「念のため、もらっておくが。使わないかもしれないぞ?」

「かまいませんよ。あくまでも保険ですから。」


そもそも彼女達がダンジョンに入り込み命を落としたのは自業自得なのだ。

皆さん覚えているだろうか。オリビアさんが管理者権限でダンジョンの修繕中はダンジョン内の出入可能な階層を制限した事を。

当然、管理者権限による通達は城にも入っている。それを承知で乗り込んだわけだから何かあったとしても彼女達に責任があるのだ。とはいえ、彼女達の言動から想像するに、恐らく誰にも行き先を告げることなくダンジョンへ来たと思われることから、場合によっては単なる行方不明扱いで然程調べられることなく書類上の決裁だけで捜査は終わるだろう。

いや、終わらせるんだろうな。

これも布石のひとつ。

そしてもうひとつ。


「そういえば、あの噂はお前の仕業か。」

「あ、バレました?」


基本オリビアさんは管理者としてではなく商会の経営者として城に出入りしている。だから商売上、お城の侍女さんと仲良しだったりするのだ。そこでオリビアさんにちょっとした噂話を提供した。

ダンジョン版本当にあった(かもしれない)怖い話を。

まあ本来わんさか魔物が湧いて普通に人が死ぬはずのダンジョンだ。

ここが死ぬ人の数が少ないダンジョンと言われていても、本当に死んでいないのかは主様ぬしさま位しか知らないんじゃないだろうか?

実は一度聞いてみたのだが、それはもう嬉しそうな表情で『答えてやってもいいが、他言無用だぞ?』という台詞を聞いた瞬間に速攻でお断りしましたとも。

踏み込んではいけない領域というものは意外と身近にあるもんですね!!


「嘘なんだろう?『不幸になる書籍』の話。」

「実は本当かもしれませんよ?」

「嘘だな。俺が聞いたことがないから。」

「…いや実はですね、むかーし、むかし…。」

「嘘なんだろう?」

「ハイ嘘です。」


これだけ信じてもらえないってどれだけ信用ないのでしょうね…?

実際嘘なんですけど、オリビアさんにお客さんから聞いた噂ということで、『どうやらダンジョンの書籍には呪いが掛かっているものがあるらしい、しかもそれに触れた者は例外なく不幸な事が起こる』という内容で話してもらった。


さすが噂話が大好物なお城の侍女さん達ですね。

たちまちお城中に拡散されたようです。


そしてこの噂話のポイントは『その書籍が修復された場合、不幸は続く』という内容を付け加えたこと。実行犯の二人が自身の身に起こった痣や書籍の怪をこの噂話に結び付け、ダンジョンへ再び書籍を目指してやって来るように。


「噂話として流したのは信憑性を上げるため、か?」

「直接話を聞くよりも、他人から伝え聞いた話の方が信じやすいですから。」


あの痣の具合だから人目の多い昼間は引き込もっていただろうけど、侍女長さんは立場上ずっと引き込もっていたとは思えない。

だから城に出入りしていれば噂の一つくらい耳に挟むこともあるだろう、と。


「彼女達の耳に入ったら、こちらが有利な状況になるかな程度の不確かなものですが。」


本人達が亡くなっている以上、噂の実効性を確かめる術はないけれど。

沈黙が落ちたところでグレースが茶器を携えて姿を見せる。

ん?師匠の顔色が変わったような。


「それで、どうしてパルテナへやって来たんです?」


ソファーに座り、温かいお茶を一口飲んだところで聞いてみる。

城に繋がる通路は監視していたからそちらを使ったわけではない。

そうなると、恐らくは通常の移動手段である陸路を通って王都から来たと思われるのだが。何かパルテナで盛大に行うイベントとかあったかな?


「主に視察だ。収穫祭に出品される農産物はこの都市から運ばれてくる。街道の整備状況と運搬に障りがあるものがないか…まあ、そんなところだな。」

「偉い人は大変ですね。」


砦で王様とお会いしたとき、王様の一挙手一投足を見守るような視線の先にいたのが師匠だった。それは護衛というよりも側で支える者としての視線。師匠の身分も名前も知らないから勘だけど、まあ偉い人には違いないだろう。

そのまま視線を下げ、カップから立ち上る湯気を眺める。


「…というのは、表の理由だ。」

「表の理由?」


意外な言葉に視線を上げると師匠が真っ直ぐに私を見つめていた。

光の加減で灰色とも、透けて青にも見える瞳がひたと私を見据える。


「先ずは貴女に言わねばならないことがある。」


するりと膝をつく師匠。


「ちょ、ちょっと、師匠?」


瞳を合わせたまま、彼が言葉を紡ぐ。


「この国を真剣に案じ、尽くそうとしてくれた貴女を謀るような真似をしたことに対して、心からの謝罪を申し上げたい。」

「は、い?」

「国からの指示があったとはいえ、貴女の人となりを見てから判断を下すべきだった。私は貴女の事を聞いたとき、以前同じ異世界から呼ばれた、貴女の見ず知らずの人間と一緒だと思ってしまった。貴女もこの国に災いをもたらす存在だと。」

「…。」

「そのために自らの名を秘し、貴女を試すような真似をした。それを疎まれ、拒絶されて…それからずっと今まで考えてきた。他に、手はなかったのかと。」


信頼を損なうことは容易く、信頼を再び得ることは難しい。

疑って掛かる方が信じるより容易いもの。


ふと足元を見れば、シロがものすごい悪い事を考えている顔をしていた。

口の両端が吊り上がり、今にも笑いだしそうだ。


…目は笑ってないけどね。


ひとつ、溜め息をつく。

言いたいことは分かってるわよ。

でもそれが貴方の選んだ飼い主なの、だから諦めなさい。


「実はあまり怒ってないんですよ。」


たぶん情けない顔をしているだろうな、私は。

黒天使に煽られて、勢いで拒絶したのは確か。

面倒で接触を拒んだことも認める。

ただその気持ちの根底にあったのは。


失望。


それなりに一年間上手くやっていけると思っていた。

それが勝手に期待して、勝手に裏切られたと思った原因。

この世界で与えられた恩恵やそれに伴う義務、現実にあった出来事を知りもしないで。


『それが全てではないし、必ず正しいとも限らない。』


サナの言葉が脳裏に甦る。

魔人さんとの遣り取りで分かり合うことの難しさを学んだ筈なんだけどな。


「今ならその対応になったこと理解できますから。」

「それでも、その気持ちにどれだけ甘えてきたことか。ダングレイブ商会のことについてもそうだし、今回の侍女二人による書籍を棄損した一件についてもそうだ。主様ぬしさまに叱られたよ。『対応が温い』とな。」


真剣な表情を崩さないままでいる師匠の姿に安堵する。

読みにくい表情の裏で、恐らく悔いているのだろう。

主様ぬしさまもきっちり釘を指てくださったようですね。

まあ確かに、これ以上何もしてくれなければ本気で国出ようかと思ってたもの。

だから今はそれだけで十分。


「大丈夫です。もう気にしてませんよ。」


思わず苦笑いが浮かぶ。

謝罪することに慣れていない私から、これ以上気の効いた言葉など出てこようはずもない。

それでも思いは伝わったのか、師匠の表情に笑みが浮かび、緊張した空気が解ける。


「ならば、伝えたいことがあるんだが。」


そう言って師匠は私にだけ聞こえるように小さな声で囁く。

見開かれる私の瞳を覗いて面白そうに笑う。


「これが私の名だ。それから、これを謝罪の気持ちとして受け取ってほしい。」


師匠の右手が空に翻り、何事か呟くと手はそのまま髪へと滑り落ちる。

魔法だろうか、髪が器用に結い上げられる。


「上手ですね、師匠。」

「妹がいるからな。よく使うんだ。」


ほう、妹さんがいるのか。

師匠がこれだけ整った顔立ちなのだ、さぞかし美人さんなのだろう。

異世界基準がわからないけど美形率高いな、この世界は。

魔法手帖の効果で、異世界補正掛からないかな?

明日からそこそこ美人!!…ないよな、ナイナイ。


ん、髪に何かが引っ掛かっている。


「わふ?」


足元からシロが顔を出す。

師匠は驚いた顔で暫しシロを見た後、視線を逸らす。

おや、犬が苦手なのかな?

匂いを確かめるように鼻を動かしていたシロの視線が止まる。

その先にあるのは。


「髪留めですか?」

「ああ、ちょっとした便利な機能が付いている。いざというときに他の人から見えなくなったり、贈り主に居場所を教えてくれるらしい。」

「…ストーか」

「ほう?訳してみろ。」

「ありがたくいただきます。」


『頂き物に文句つけてはいけない』が我が家の家訓でしたもの。

何かこう、危険な方向性を感じる機能がついていたんだが、気のせいだよね!!


「帝国で迷子になった記憶があるだろう。」

「ありましたね…。」


ついでに勝手に転移して行方不明になりかけたこともあった。

うん、必要かもね、こういう便利グッズ。髪につけているからデザインがわからないけど繊細な造りをしていることは手触りでわかる。

大きさも小振りだし邪魔にならない。


「丁度髪留めが欲しかったんですよ。」


師匠は柔らかい笑みを浮かべる。

そして帰り際に置いていったのがこの王都で開かれる式典への招待状だった。




ーーーーー


「王都か。」

「行くの?」

「うーん。迷っているところ。一応断ってもかまわないよ?とは書いてあるんだよね。」


これが一般的な書き方なのか、それとも儀礼的なもので断らないのが普通なのか。この辺りの判断がつきそうな相手と言えば…うん、サナに相談してみよう。


「なかなか闇の深い男だったな。」

「誰?」

「エマが師匠と呼ぶ少年のこと。」

シロが水飴を食べつつ答える。

「闇の深い?」

「エマが背負うものを、異世界の言葉で"定め"と言うんだよ。君の所業に関わらず与えられた道筋。でも彼のは違う。彼が背負うものは"業"だ。彼が選び、彼自身が引き寄せてきたもの。しかも彼は精霊と縁がとても深い。」


飴を舐めつつ答えるシロの口振りは好意的なものだけではない。

師匠には、師匠だけが知る闇があると言うことか。


…私には想像つかないけれど。

だって書籍の背表紙を眺めながら無防備な笑みを浮かべていた師匠は、年相応の少年にしか見えなかったから。


本当に信じることは難しい。

勘のいい師匠のことだ。

私がスキルで…女王の魔眼で彼が告げた名に偽りがないか確認していることに気がついていただろう。

名を偽らず、むしろ名乗らないことが誠実であった人。



リアン・フォーサイス。



これがあの人の名前。







大変お待たせしました。

赤い鳥シリーズの方を先に完結させたくてこちらの更新が後回しになりました。未完の連載を二本かかえるって大変なことなんですね…いい勉強になりました。

今後は暫くこちらを優先して更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ