意図的なスケベをする話
『キャーーーー!』
『エッチーーー!』
女子達の甲高い悲鳴と共に、釈明し始める男子の声
『いや、これはワザとじゃなくて……』
『ともかくでてけー!』
『変態ーー!』
ラッキーにも痛烈な悲鳴と追い出しと共に、女子とのスケベタイムが味わえる瞬間。
それを世はラッキースケベという。
「ラッキースケベになりたい」
そんな属性に憧れを抱く男子は必ずいるだろう。その1人である、舟虎太郎は男子達の前で最近の願望を吐露した。
「お前さぁ。漫画の見すぎだ。ありえねぇよ」
「ロマンがねぇな、相場。女子達の戯れを夢や漫画の世界と思ってちゃ、いつまでも女はやってこねぇぜ」
などと言ってのける舟であるが、もっと残酷な言葉がすぐに飛び出た。
「そんなことより、普通に彼女を作ればいいだけじゃないかな?」
「同感だな」
そんな当たり前なくせして、難しい事を発言するのは。男子の中でも随一の色男である四葉聖雅と、現在同級生の迎と交際している坂倉充蛇であった。
今、当たり前にできる事を言ってのける2人に大激怒する舟と相場。
「ふざけんなぁぁっ!!そんな簡単に彼女が作れるかぁぁっ!」
「お前等みてぇにイケメンじゃねぇんだよ!!」
スケベな事をしたかったら、彼女を作るか大金を払うとか。現実でやれる大正論で難しい事を言うんじゃないと、二人の首元を握り絞める舟と相場であった。
「まぁまぁ。悪かったよ」
「ったく。口には気をつけろよ、四葉」
「お詫びとして協力するよ」
舟と四葉という珍しい組み合わせ。
体育館と校舎が繫がる通路のところで話し合いから始めるのであった。腕組んで、しゃがんで訊かれること。
「で、とりあえず。どんなラッキースケベをするんだ」
イケメンのくせして、ホモなところもある四葉に舟はやや警戒しながらも、そのモテる美貌を活かしたテクニックを自分に伝授しようというのか。
モテたい。いや、それよりももっと純粋に……
「巨乳の胸を揉みたい」
「どストレートに来たな。舟のそーいうところが好きだよ」
「どんなことすりゃできんだよ、四葉」
頬を弄られながら、お互い嬉しそうに訊き合った。四葉の答えは、
「やりたい事を伝えて、正面から胸を揉むんだ。しっかりと揉んだ後で謝れば良い」
「なるほど。それってただ変態なだけじゃね?」
「巨乳だったら、御子柴ちゃんとか良いんじゃないか?最近、成長しているって川中さんが言っていた」
「マジか!?じゃあ、揉んでいくぞ!」
ターゲット及び、作戦が決まり、御子柴を捜しに向かった舟。
小悪魔っぽい性格に相応しい、グラマーなスタイルは確かに魅力がある。付き合いたくはないが、大人の女としてはレベルが高い。
「御子柴ーー!」
「なによ?」
「胸を揉ませてくれーー!」
四葉の作戦通り、正面から胸を揉みに行った舟であったが。御子柴は手に持っていた教科書で彼の顔面を叩いてKOするのであった。
◇ ◇
「さすがに正面から胸を揉むのは無理だと思うぜ」
「うーん、甘かったかー」
痛々しい傷を負って戻ってきた舟に、自分の考えが甘いと認識した四葉。
「じゃあ、今度は後ろから揉んでみよう」
「あいつの背後に立つのって難しいと思うぜ」
もうすでに色々と犯罪なのだが、どうせ一回やったから何回やっても変わらないだろうみたいなノリ。
「例えば、嶋村や迎、川中さんと話している時に背後に回れると思うな」
「機を伺えってわけだな」
そうしたアドバイスをもらって、2回目の挑戦を始める舟。教室に戻ると、偶然にも御子柴が嶋村と話していた。
「さっき舟が私になんて言ったと思う?」
「さぁ?」
「胸を揉ませろって!あそこまで馬鹿で変態とは思わなかったわ」
「あはははは、生活指導に扱かれればいいのにねー」
先ほどのやり取りが影響した会話。なるほど、四葉。お前の作戦のおかげで御子柴に隙が出来た。怒りに満ちている御子柴は周囲に意識がいっておらず、容易く背後に回れる。普通の変態や発情期では、一度きりだろうとタカを括っていたな。俺は諦めん。
相手の隙を突いて、回った背後から忍び寄る両手。
「あ、後ろに舟がいるけど……」
「!?」
「なっ!?」
し、しまったっ!?
会話している相手には俺の位置がバレてしまい、行動を見透かされる。
嶋村の声に反応して、御子柴がすぐに振り向き、手元に教科書がないからって
バギイイィッッ
椅子で殴ることないだろおおぉぉっ!
◇ ◇
「前方、後方……どれも隙なしだった……」
「うわぁ、酷いやられようだね」
戻ってきた舟を見た四葉。包帯が痛々しく巻かれていて、もう心が折れたのかと心配したが
「な、納得いかねぇ。俺まだ一回も揉んでないのに、この仕打ちはねぇだろ……」
泣きながら、今の傷を見る。もしこれで一回胸を揉めていたら、勝ち逃げをするだろう。ボロクソに負けているけど。
しかし、今の舟には敗北だけしか刻まれていない。
「男の欲望には、勝利や敗北だけじゃねぇってのを、女に伝えてやりてぇ!」
カッコイイ言葉であるが、どう見ても変態なんだが。
しかし、この言葉でようやく下準備も含めて、覚悟を決めた四葉が立ち上がった。
1人でできない困難を乗り切るため、もう1人が手を貸すこと。
「分かったよ。俺が御子柴ちゃんの胸、揉ませてやる」
「四葉」
「俺がいる。信じろ」
2人は変態の友情という形で抱き合った。この痛みを癒すため、いざ出陣。四葉が考える、意図的なスケベな作戦とは……。
「御子柴!お前、胸成長したらしいから揉ませてくれ」
「さっきからホントになんなのよ、あんた!?」
え?
まさかの正面から、変態な発言と共に向かっていく舟であった。一体ホントになんのつもりだと、怒り気味の御子柴の反応は早く。教科書、椅子ときて、次に手にしていたのはカバンであった!勢いをつけて振り回し、フックのように舟の頬をぶっ叩くカバン攻撃。
「ぐおっ」
この一撃は重く、さらに続いてくる攻撃であったが、
『耐えろ』
四葉の作戦を信じ、御子柴に引かず。立ち向かう。二度、三度とカバンで殴られながらも、粘って耐える。
しかし、
「この地に這い蹲れ、虫が!!」
「ぐおぉっ」
脳天に突き刺すカバンの振り落としが直撃し、床に倒れこんだ舟。下僕と女王の立ち位置みたいな差が生まれていた。
舟が床に倒れてもその怒りは収まらず、二度とスケベな事ができないよう。徹底的に痛めつけてやろうかという、暗黒オーラを発する御子柴に
「おいおい。御子柴」
何食わぬ顔と声で近づいていく四葉がいた。
「止せって!」
「なによ!四葉!さっきからこいつ!」
暴れようという人を止めるのなら、手で掴むだろう。しかし、四葉は意外なことに先手必勝で
ドンッ
「え?」
御子柴の背中をちょっと強めに押してあげる。カバンを振り回した事による疲労によって、足元のバランスは脆く、少し飛ばされながら床に落ちて行く。その先に、その下に
ポニョンッ
「っ!」
舟の顔があった。
御子柴の大きな胸が、舟の顔に乗っかった。まさかの事態に御子柴も時が止まったような表情を出し、舟はその一瞬の動揺を見逃さず、左手が確かに御子柴の胸を掴んで2度揉んだ。
兵士負けても、任務を全うする。
「か、勝った……」
何度の高いミッションを達成したような気分に陥った舟は、そのまま昇天するように嬉しそうに意識を失った。
◇ ◇
「なぁ、四葉」
それから1週間後。舟はわけも分からず、病院にいた。
「俺、なんでこんな怪我をしてるんだ?」
「さぁ。覚えていない」
「そーいうお前も、なんで頬が腫れているんだ?」
「覚えていない」
「……ま、いいか」
舟虎太郎。
せっかくミッションを達成するも、その達成を忘れるほど痛めつけられ、病院で1週間過ごす怪我を負わされるのであった。
それだけで済んで良かったね!!