コインはありますか?
パカッパカッパカッパカッ
さっきから、革靴の音しかならない。
新) 「……なんか、自分から誘っといてだけどさ、こうやって帰るとか初めてだし、照れるな」
高) 「そ、そだね!なんせ3年半も会ってなかったからねー(笑)あ、そういえば、みんな元気にしてるの?」
新) 「だーれも変わってないよ(笑)あーでも、ようやくみんな、丸くなったかなあ…今思えば、全部高咲のおかげだな。高咲いなかったらさ、ずっと喧嘩ばっかだったと思うし。高咲は嫌な思いとかいっぱいさせられたかもしれないけど、本当にありがとう。みんなそう言ってる。」
高) 「い、いやあ私なんて何にもしてないよ!みんなが穏やかになったのも、それぞれが丸くなったからじゃん!」
新) 「そんなことねーよ。ずっとあれからクラス代表してたけどさ、やっぱみんな、高咲が違う学校行ったってわかったら落ち込んでたし、それでもいつか会えるかもとか自分を信じこませてた奴もいた。あの時なんで高咲が怒ったのかとか考えて、自分の間違いに気付いて、反省してた奴もいた。俺の言葉なんて、まーったく聞いてくれなくて困ったけどなー(笑)文化祭やら体育祭やら、とにかく高咲が好きだったものとか言って、猫カフェやったり、クラスの旗にパンダ書いたり。水泳大会も毎年優勝してたんだぞ。クラス対抗リレーは、いっつも高咲が言ってたこと思い出したりさ(笑)お前のおかげでクラス、団結してたんだ。」
高) 「そ、そうだったんだ…なんか、照れちゃう(笑)」
まさかの告白だった。だって私は、生意気な転校生だったし、言いたいことばっか言っていたせいで友達もできなくて。女子には毎日小言言われたり、男子にはリコーダーとかを隠されたり。自分も悪かったとはいえ、ここまでする?ってずっと思ってた。だから、小学生最後の登校日ー卒業式の日ー、みんな来年から私がいなくて喜ぶんだろうな、嬉しいんだろうな、って思ってた。すっごく悔しかったのに…そうじゃなかったんだ。
そんな風に思ってたら、すーっと、一筋の涙が頬をつたった。
新) 「え、た、高咲?大丈夫か?俺なんか変なこと言っちゃった?昔の辛い思い出、思い出させちゃった?それなら本当に謝る、ごめん。でもさ、高咲には知って欲しくて。みんな、高咲のことが好きなのに、言えないまんま別れちゃって、後悔してたからさ。」
高) 「な、なんか泣いちゃってごめんね。でもね、私は、そうやって教えてくれてとっても嬉しかったし、辛いこと思い出して泣いてるんじゃないの。嬉しいの。みんな、私のことを嫌いだと思ってると思ってたからさ。ありがとう、新山。なんか、元気出た。新山のおかげだよっ!」
そうやって伝えるのが精一杯だった。これ以上言ってしまうと、新山に告白してしまいそうだ。あー、ようやくわかった。昔から私にだけ優しくて、そういうところがずっと好きだったんだ。だから、新山に会えて、不覚にも喜んじゃったんだ。動揺してると思い込ませていたけど、本当は好きだったんだ。でも、今の新山との関係を壊したくない。今よりも、もっと上の関係になるのは簡単だ。でも、それは同時に、今よりもっと下の関係になるかもしれない。まだ、1/2の成功確率のゲームに挑戦するには、私のコインは足りない。本当は、隠し持っているけれど、まだ使う時じゃない。焦らずゆっくり、関係を壊さないままでいつか伝えられたらいいな。そう思いながら、霜が降りた小道の上を、2人で交互にサクッ、サクッ、と踏みつけた。