地球最後の日
「さて、今日が地球最後の日なのだが、あと数時間で日付が変わり、明日になる。」
とある3人家族の父親が渋い声でそう言った。
「そうね。ついに明日を迎えてしまうのね・・・。」母親が夕日が沈む海を見ながら返事をする。父親には、母親の横顔が現実を受け入れられないと言わんばかりに寂しい顔に写った。
「えー!やだやだやだ!もっと遊びたい!」両親の息子がぐずり始める。父親はやれやれといった顔で息子を抱っこした。それでも息子は駄々をこねるのを辞めない。
「身体はいっちょ前に大きくなったのに、まだまだ子どもね。ま、しょうがないわよね・・・。そうだわ!あなた、今日は最後の晩餐になるんだしこの子の食べたいものを食べさせてあげましょうよ。」母親はこう提案した。
「えっ!?僕が好きなもの食べていいの!?じゃあ○×牛が食べたい!」息子がすかさずリクエストをする。
「○×牛!?この前食べたばかりじゃないか。他のものにしないか?」
「だって美味しいし、また食べたくなったんだもん。」
「あなた、いいじゃない・・・。この子の食べたいものなんだし、○×牛にしましょ。」
母親からの後押しもあり、最後の晩餐は○×牛を食べることに決定した。
最後の晩餐として食べる○×牛は特別美味く感じるな。父親は一旦は否定した○×牛だが、格別な美味さに舌鼓を打つ。
「ちょー美味い!やっぱりこれにしてよかったでしょ!」息子が自画自賛する。
「そうね。最後の晩餐、○×牛にしてよかったわ。」母親も幸せそうに肉をほおばる。
他愛のない家族の団欒。地球最後の晩餐を楽しみながら、会話は思い出話となっていた。
「さて、地球で一番の思い出はなんだい?」父親は息子に質問する。
「やっぱり海を見られたことかな!空から見る海は大きくてめちゃめちゃきれいだった!普段めったに見られないからね。僕ん家の近くにもあればいいのに。」息子は楽しそうにそう話す。
「あなたはどの出来事が一番思い出深い?」今度は母親が父親に質問する。
「俺はアメリカの大統領の演説を見に行ったことかな。あの時うっかりテレビに映っちゃって、連日大騒ぎになったしな。ははは。」父親は笑いながらそう答える。
「ほんと。あの時のあなたったらドジよねえ。私みたいに映らないような技術を磨かないと。」
「まあ過ぎたことだし、いいじゃないか。今日は地球最後の日なんだし、もう関係ないよ。」父親は寂しそうにそう答え、時計を見た。時刻は23時50分を指している。日付が変わるまでほとんど時間がない。
「さてもうすぐ日付が変わる。もうやり残したことはないよな。」父親が二人に向けて聞いた。
「私は大丈夫よ。決心はついた。」
「僕も大丈夫!もう泣かないよ!」
「よし!じゃ、火星へ帰ろうか。」
三人は円盤型の飛行物体に乗り込み、地球を後にした。