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夏へむけて

挿絵(By みてみん)

今年も綺麗に咲いてくれました。

 今年もこの季節がやってきた。何も変わらない春。命が芽吹き始める季節だ。そしてそれが終われば夏がやってくる。今年の夏の意気込みはいつもとは違う。この夏はきっと暑くなる。

「もうすぐ夏だね」

「そうだな」

 ここは僕の心の中。そこで百鬼と会話をしている。

「いつ植えるの?」

「今日にでも」

「今日!? まぁ早い方がいいとは思うけどさ。まだ四月だよ? そういえば種ってどれぐらいあるの?」

「十二粒だな。まぁ少ないとは思う。問題はこれを一気にまくか、それとも別けてまくか、なんだが」

 たしかにそうだ。この種に全てがかかっているけど、必ずしも発芽する保障はどこにもない。そう考えると保険をもっていた方が無難ということだ。

 僕たちがさっきから何を話しているのかいうと、話は一年前に遡る。

 【アサガオ】という花を知っているだろうか? 知らない人の方が少ないと思うけど、それほどメジャーな花だ。夏には必ずといっていいほど見かける花。

 そして去年の夏に、出会った。出会ったのは僕じゃないけど。もう一人の僕、百鬼が出会った。

【アサガオ】の妖精、アサガオと。

 しかし【アサガオ】という花は一年草だ。一年草というのは一年以内で発芽して成長、開花、結実、種子を残し枯死する植物の事を言う。それは変えることの出来ない事だった。

 どう誰が抗っても無理だ。

 短い時間を過ごしたアサガオはそれが自分の業だと言って枯れていった。しかしただ枯れただけじゃなかった。さっきも言ったけど、【アサガオ】は一年草だ。枯れたあとには種子を残していた。

 それを百鬼は一年後の夏に植えて、また【アサガオ】を咲かせようと考えた。

 実際問題、一年前のアサガオは既に枯れている。そのアサガオが残した種といっても、同じアサガオが生まれるという確信はどこにもない。

 そもそも妖精になるかもわからない。そんな奇跡がそうそう起こるはずもない。でも期待をしてしまう。アサガオならきっと、と。

 そう望むことはいけないことなのかな。たった一つの奇跡を望むことはいけない? 答えはわからない。

 でもわからなくていいんだと思う。

 全てが全てわかっても仕方がない。分からないことがあるからこそ、人は頑張れるものだと僕たちは思っているのだから。

「どっちがいいと思う?」

 百鬼は僕にそう聞いてくる。正直なところわからない。しかしこればっかりは分からなくちゃいけない。矛盾してるけど、世の中そういうものだよ。

「僕もわからないよ。ここはもう一人の妖精に聞いてみよう」

 僕の家にはもう一人の妖精がいる。

 名前をヘヴン。天真爛漫で元気いっぱいの犬のような妖精だ。ヘヴンは青い薔薇【ブルーヘヴン】の妖精だ。

 ヘヴンとも去年の夏の前に出会った。ただの偶然だったけどね。

 妖精のことは妖精が一番わかっているはず。そう思ってヘヴンに聞いてみた。

「え? 知らないよ、そんなこと」

 うん、前言撤回だね。

「ワタシに聞くよりさ、ちゃんと調べた方がいいと思うよ」

 うん、真っ当な意見を頂戴しました。確かにその通りだ。でも調べた方がいいと言われても、誰か園芸に詳しい人……あ、いた。僕はある人物を思い出した。園芸のスペシャリストだと勝手に思っている。

 その人の名前は桜井さん。園芸で働いている爽やかなお兄さんだ。僕はそこに向かい、桜井さんに携帯を見せた。

 前までは紙に書いてたんだけど、要領悪し最近では携帯を使っている。決して、決して漢字が苦手とかそういうんじゃないよ?

 桜井さんは僕が喋れない事を知っているので気兼ねなくやりとりができる数少ない人だ。

『【アサガオ】の種まきやら育て方を教えてほしいんですが』

「それなら簡単だよ。種まいて待っていればいいのさ」

 僕は目を細めた。

「あーごめんごめん冗談だよ冗談」

 この人、最近よく冗談を言う。爽やかなお兄さんといっても、歳はそれなりにけっこういっているのかもしれない。そうなるとオヤジギャグを言い出したくなるお年頃なんだろう。

 まったくやっかいだ。こっちは真面目に聞いているのに。まぁそこが親しみやすいとこでもあるんだけど。

「でもさ、【アサガオ】って本当に簡単なんだよ。さっき言ったことは間違いじゃないよ。【アサガオ】は生命力の強い花だ。それこそ土の上にポンと種をおいていたら生えたってことも聞いたことがある」

 本当かな? この人けっこう真顔でも冗談を言うしなぁ。そんなことを思っていたら桜井さんはさらに続けた。

「でもしっかりと手順を踏みたいなら教えるよ?」

 是非もない。僕は素早く携帯に文字を打ち込んだ。

『教えてください!』


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