5-5 あの女幽霊の正体!?
王様の言葉に、オレもすぐに思い出す。あー、あのマッパの美人幽霊の事か! てか、なんで今さらあの美人すぎる幽霊の話なんか聞きたがるんだ? とぼけたフリして、王様って実は相当なムッツリなのかもな。
「現場で見てたのは、ギュス君の部隊とルイ君たちくらいだったそうだからさ。ねえみんな、見た目で何か憶えている事はある?」
「えーと、そうっすね、とりあえずマッパで美人で……」
「変な事ばっかり思い出すな!」
「イッ――!?」
痛ってぇぇぇぇえええぇっ!! 思いっきり足踏むんじゃねえぇぇぇぇええっ! だいたい、オレ一言もおかしな事言ってねえだろうが!
痛みに黙りこむオレを尻目に、リアが口を開く。
「あの、髪は黒くて長かったと思います。肌はすっごい青白くて……」
「ふんふん、それから?」
「後は……え~っと……」
だんだんと声が小さくなっていくリア。背中も徐々に丸まっていく。なんか怒られてるネコみたいだな。
てかお前、オレにあんな事言っておきながら、憶えてんのはそんだけなのかよ。そのくらいは見てたヤツならみんな憶えてるだろ。
「あ、憶えてないからって別にそんなに気にしなくてもいいからね? ギュス君たちの話とも一致してるし」
お、王様がフォローしてる……。てか、王様にフォローさせるとか、ある意味スゲえなコイツ。
「あ、あの、確か瞳の色がきれいな緑色だった気がします」
おお、さすがステラ! なんかそれっぽい事言ってるぞ!
「瞳が緑? ギュス君、やっぱりそうみたいだよ!」
「はい、私の見間違いではなかったようです」
王様も食いついてるよ。言われてみればそんな色だった気もするな……。
「他に何か身体的な特徴はあった?」
そうだな、まだ出てない特徴と言えば……。
「あの幽霊、おっぱいかなりデカかったっすよ」
言った途端にリアがすんごい目で睨んでくる! 怖ええ! てか、もう足踏むなよ!?
「え、ホント!? そんなにおっぱい大きかった!?」
王様食いつくのかよ! てか、前のめりになんな! とんだエロキングだなおい!
「ねえ、どのくらい!? ステラちゃんと比べて、どう!?」
そんなに興奮しながらステラの胸指さすな! ガン見しすぎだろ! それはオレのモンだ!
でも、ステラと比べてって言われたんだから仕方ないよな、王様の命令だし……。などと自分に言い訳しつつ、オレもステラの胸をまじまじと見つめながら真剣に幽霊ちゃんと比較する。ステラの恥ずかしそうな顔がまたたまんないぜ。隣ではリアがオレの事じ~っとジト目で見てるけど、そんなモン無視だ無視。
「えーっと、そうっすねぇ……。ステラよりは一回り小さいかな?」
そう言いながら王様の方へと向き直る。どんだけ鼻の下伸ばしながら聞いてるのかと思いきや、なんかめっちゃシリアスな顔でギュス様と話し合っている。やたらとイケボで「これは……やはり……」とか妙に思わせぶりな事言ってるよ。これで単にギュス様と乳の事話し合ってるだけだったら、一発ぶん殴ってもいいっすかね?
やがてこちらを向いた王様は、いつもの調子で口を開いた。
「えー、皆さん、お話ありがとうございました。おかげさまで幽霊の正体にある程度確信が持てました」
え、マジで? あの幽霊、誰か有名人だったりするの? てか、今の流れだと乳のデカさが決定打っぽいんだけど!?
オレたち三人がポカンとする中、王様がさらに言った。
「多分、その幽霊は僕のお姉ちゃんです」
数瞬の間、『夏の間』は静まり返った。
「え、えええ――――っっっ!?」
静寂を突き破ったのは、リアのバカデカい大声だった。うっせえよ! マジで!
「どどど、どーゆー事ですかあ!? 王様のお姉さんって!?」
興奮を隠そうともせずリアが聞く。いやホント、どういう事なんだ? どう見てもあの幽霊二十代だったし、そもそもなんでそんなエラい人が幽霊になって出てくるんだ!?
ただ、オレもめっちゃ驚いてんだけど、リアが驚きすぎるもんでかえって冷静になっちゃったわ。
「説明すると長くなっちゃうんだけどね」
王様が何から話そうかと首をかしげる。
「僕のお姉さんって、三十年くらい前に行方不明になってるんだ」
「行方不明!?」
「そう。内部からの手引きがあったようなんだけどね。その手引きをしたらしきメイドさんも遺体で発見されて、僕らも必死で探したんだけど結局見つかってないんだ……」
「そのお話なら私も聞いた事があります。私が生まれた頃はまだその事件で大騒ぎだったとか」
「そうか、ステラちゃんが生まれるちょっと前の事件になるんだね。ともかくそんな感じで全然手がかりもつかめず、こうして三十年が過ぎちゃったんだ」
なるほどね……。三十年も昔の事件となると、そうそう情報も残ってないだろうしな。てか、日本だと時効とかになりそうだけど、こっちって時効とかあるんかな……。
「あ、でも」
「どうしたの? ルイ君」
「あの幽霊、王様に全然似てなかったっすよ。ホントにお姉さんなんですか?」
そんなオレの疑問に、王様があっけらかんとした顔で言う。
「ああ、僕とお姉ちゃんはママが違うんだ」
サラッと言う王様。って、ちょっ!? 重いぞそれ! これ、実はあんま触れちゃいけない話じゃないか!?
「お姉ちゃんはママに似たらしくてね。生まれてすぐにママが死んじゃって、あんまり外にも出られなかったらしいんだ。僕とはよく遊んでくれたんだけどね」
ヤバい、なんかすっごくヤバい香りがする。裏で血みどろの権力闘争とかがありそう。オレそういうのよくわかんないけど。とりあえず話の方向を変えようぜ。なんかないかな、なんかもっと気の利いた話。
と、ステラが疑問を口にする。
「でも、そんなお優しいお方がどうして幽霊になんてなってしまわれたんでしょうか」
「なんかこの世に恨みでも残ったんじゃないか? 結局オレたちが退治しちゃったけどさ」
うんうん、あれはもったいない事をしたよ。せっかく美人だったってのに……ん、退治?
「あれ、もしかしてオレたち、王様のお姉さんを退治しちゃったって事……?」
「あ……」
自分で言いながら、血の気が一気に引いていく。え、オレ、ひょっとして王族をやっちゃったって事になるの……?
「あ――――――っ!」
その事に気づいたのか、またしてもリアが絶叫する。うっせえよとは思いながらも、それどころじゃないオレは慌ててテーブルに額をすりつける。
「ごごご、ごめんなさい王様! オレ知らなかったんです! あの幽霊がそんなにエラいお方だとは! どうか、どうかお赦しを!」
「すみませんすみません! コイツに悪気はないんです! どうか死刑だけはカンベンしてあげてください!」
「ルイさんの罪は私の罪です! ルイさんのかわりに私の首を!」
三者三様に赦しを乞うオレたち。土下座か!? ここは土下座しかないのか!?
そんなオレたちにギュス様やウェインさんが呆然とする中、王様が困ったように声をかけてくる。
「もー、みんな、考えすぎだよー。そんなの罪になんかならないから、顔上げてよ」
ホ、ホントに……? おそるおそる顔を上げて、王様の表情をうかがう。いつも通りのニコニコ顔だ。
「それに、そもそもそれが本当にお姉ちゃんの幽霊なのかもまだわからないしね」
「え?」
どういう事っすか? 王様。
「まず、お姉ちゃんの生死がまだわかってない。たとえば実はまだお姉ちゃんは生きていて、ルイ君が戦ったのはその生霊だった可能性もあるしね。もっともその場合は、もっとおばあちゃんになって出てきそうな気はするけど。他にも、残留思念が実体化したとか、誰か他の者がお姉ちゃんを模したモンスターを作り上げたとか、いろいろ可能性は考えられるよ」
「あ、そっか」
「第一、もしお姉ちゃんの幽霊だったなら、ルイ君のおかげで成仏できたのかもしれないんだから、それこそお礼を言わなきゃならないところだよ」
「その通りですよ、ルイさん。私の命を救っていただいたのみならず、殿下の御霊までお救いなさるとは。私からも深く感謝の意を申し上げます」
いやいや、そんな持ち上げるような話じゃないっすよ! てか、こっちでも「成仏」って言うのね……。
オレがとまどっていると、一つ咳ばらいをして王様が口を開く。
「そんなわけで、事態に進展が見られた一方で、まだまだわからない事もいっぱいなのが現状なのです。そこで……」
そう言うと、王様がオレたちの顔を見た。
「これからは、ルイ君たちにも調査隊のメンバーとしてお手伝いしてもらいたいのです」
その言葉に、オレたち三人は再び固まった。




