5-4 かき氷を王様と
「失礼いたします」
王様にうながされて席に着いたオレたちの前に、メイドさんたちが皿を置いていく。おお、ホントにかき氷だ。リアとステラの目が輝いてる。リアは予想通りとして、そういやステラさんも食にはどん欲だったな……。
「みんなそろったかな? それではいただきまーす! おかわりもあるからね!」
そう言うや、シャクシャクとかき氷を食べ始める王様。これ、もてなすってか、単にこの人が食いたかっただけじゃね?
さて、それじゃオレもいただきます……冷たっ! 当たり前だけど冷たっ! 久しぶりのかき氷、マジでウマいぜ! 初めは遠慮ぎみだったリアとステラも、すぐにシャクシャクと氷をかきこみ始める。
あ、リアのヤツ、キーンが来たな。頭押さえて、それでもスプーンを手放そうとしない。ホントお子ちゃまだな、アイツ。
「どう? おいしいでしょ、かき氷!」
「はい、素晴らしいです!」
頭を押さえてうんうんうなずくリアの隣で、ステラが大きくうなずいた。ステラが大声を出したのが予想外だったのか、王様が一瞬ビクリとする。
「お口の中で、氷がまるで春の雪解けのように柔らかに融けて、後にはさわやかな冷気と蜜の風味が口内に心地よく残る……。氷の粗さ加減といい、素晴らしいお味です!」
「そ、そうなの……? とりあえず喜んでもらえたようでよかった、かな……」
かき氷の素晴らしさを伝えるべく熱弁を振るうステラに、あれ、あの王様がちょっと引いてないか……? その隣では、強く同意といった感じでリアが頭を縦に振っている。まだキンキンきてるのか、顔が「><」になってる。
「おかわりもあるから、遠慮なく言ってね」
「はい、お願いします!」
「え、ステラちゃん、もう食べ終わったの……?」
そのスピードに驚く王様。てか、ステラ微妙にキャラ崩壊してないか……? 前の晩餐会じゃここまでじゃなかったはずなのに、それだけ緊張もとけたって事なのかね……。
「ルイ君はどう? かき氷」
「は、はい、スゲえウマいっす」
「おー、それはよかった! リアちゃんは?」
「はぃ、おいひいれふ……」
「あー、そんなに慌てなくてもおかわりはあるからね?」
「はぃ……」
「この前はあんまりお話できなかったからねー。今日はゆっくり話せるね!」
頭を押さえてるリアを、王様がニコニコしながら見つめてる。そのまま世間話が始まった。
「ルイ君とリアちゃんは、いっしょに冒険者養成学校に入ったんだよね?」
「は、はい」
かき氷のおかわりを食べながら、王様がオレたちに話を振る。その辺の話はリアにまかせるとしよう。
「リアちゃん、成績よかったそうじゃない。校長先生もほめてたよ?」
「そ、そんな事ないですよ……」
なんか受け答え方がステラみたいになってるな……。やっぱりリアが一番緊張してる気がするな、前よりはよっぽどマシだけど。
「またまたー。リアちゃんは学校首席で卒業したそうじゃない。そんな謙遜しなくてもいいよー。シティギルド期待の若手って聞いてるよ?」
「は、はい……」
え!? 学校首席で卒業したってホントだったの!? てっきりお嬢サマとのケンカで売り言葉に買い言葉でミエはっただけかと思ってたわ。てか、ちょっとかわいいからチヤホヤされてるわけじゃなかったのね……。
「ステラちゃんもスゴいよね。レベル44だっけ? 今この国で、レベル40以上の斧兵ってステラちゃんを含めて三人しかいないんじゃないかな?」
「そ、そうなんですか?」
「今は現役のAランク斧兵もいないんだよね。ステラちゃん、もしかしたら女斧兵史上初めてのAランクになれるんじゃないかな?」
「そんな、私なんかが……」
「期待してるよ、ステラちゃん」
ニコニコしながら言う王様に、ステラが困ったように黙りこむ。でもステラならホントにやれちゃいそうだな、今の調子なら。てか、二人ともスゲえな。オレは特に何もないから、この流れで話振らないでほしいな……。
「ルイ君ってスゴいよねー! こんな優秀なプレイヤーたちとパーティー組んでるなんてさ! やっぱりルイ君も昔からスゴかったの?」
言ったソバから話振らないでくれよ! オレなんか全然大したことないからさ!
「いえいえ、コイツは昔から私の後ろについてばかりで全然だったんですよ。陛下が思ってる……思ってらっしゃるようなヤツじゃないです」
オマエが言うな! てか、急に元気になりやがったな! 確かにそうだけどさ!
「でも、だったらルイ君にリアちゃんやステラちゃんがついていくのはなんでなんだろうね? やっぱりルイ君に何かがあるからなんじゃない? ね、ルイ君?」
「は、はあ……」
あんま持ち上げないで! 王様の発言、地味に重みがあるし真に受ける人もいるから! ほら、二人ともなんか顔赤くしてうつむいてるし!
「ギュス君もウェイン君もお気に入りだもんね、ルイ君の事」
「おそれながら陛下、ルイ殿……ルイさんはお気に入りなどではなく、臣のれっきとした盟友にございます」
「臣も、ルイ殿の事は尊敬申し上げております」
「もー、二人ともこんなところでまで『臣』はないでしょ? プライベートで呼んでるんだから、フツーにしなよ、フツーにさ」
「は、申し訳ございません」
「はぁ、ギュス君はきまじめすぎるのがタマにキズだなあ。だからまだ結婚できないんじゃないの?」
「へ、陛下!? それは関係ないのでは!?」
あ、ギュス様が顔赤くして動揺してる。珍しいな、あのさわやかイケメンがこんな風に狼狽してるの。ウェインさん、横で笑いを押し殺してるし……。結構いい性格してんだな、この人……。
「みんなも別に『陛下』とか言わなくていいからね? 彼らはもうクセになってるから仕方ないけど。だからって『おいアンリ』とか呼び捨てにするのはナシだよ? 僕の方が年上なんだからね」
わかってるよそんな事! てか、言うわけねーだろ! いくらなんでもオレだってそこまで常識知らずじゃねーよ! 年うんぬん以前に、王様呼び捨てにするわけねーだろうがよ!
「ぷはー。さて、それじゃそろそろ本題に入ろっか」
皿に残っていたかき氷を一気に口にかきこむと、王様はオレたちの顔を見回しながら言った。
「今日みんなを呼んだのは、ゾンビ討伐クエストの時に現れたという女の幽霊について話を聞きたかったからです」




