5-3 『夏の間』で王様とご対面!
王様の呼び出しで再び王城を訪れたオレたちは、ウェインさんに連れられて城の中を案内されていた。てか、ついこないだ来たばっかだよな。
城の中って、結構暗いんだよな。前の客室は窓もそこそこ大きくて明るかったけど、廊下はあんまり光が入ってこない。
そんな暗い廊下を歩きながら、オレはリアに話しかけた。
「今日は前のデカい部屋じゃないんだな」
「謁見の間? さすがに今日はないでしょ」
「よかった、またあんなラッパやおっさんの口上あるんじゃたまったもんじゃないもんな」
「私だってヤだよ、あんなに偉い人たちに囲まれるのは。ステラもヤだよね?」
「は、はい……。イヤというか、苦手です……」
「まあ、あれが得意なヤツなんていないよな」
「何をおっしゃる。これからは皆さんも、あのように表彰されたり式典に招かれたりする機会が格段に増えるでしょう。今から慣れていただかないと困ります!」
マジで!? カンベンしてくれよ! あっはっはと笑うウェインさんに、オレたちがそろってげんなりした顔をする。ま、ウェインさん先頭だから、オレらの顔は見えてないだろ。
「今日は陛下の私室のひとつ、『夏の間』にお通しするように仰せつかっております。私もお招きいただいた事がありますが、日の光が降り注いで素敵なお部屋ですよ」
おお、そりゃいいね。さっさと明るい所に出ないとなんか気がめいってくるわ。てか、王様の私室に招かれるなんて、ウェインさんてやっぱエラい貴族サマなのかね……。てか、そもそもそんな所にオレらなんか招いちゃっていいのか?
「『夏の間』での謁見という事は、おそらく陛下は皆さんにかき氷を振舞うおつもりなのでしょう」
「かき氷!?」
リアがひっくり返りそうな声で食いつく。うおっ、どうしたんだ急に。かき氷に食いつくとか、どんだけお子ちゃまなんだよ。
「お前そんなにかき氷好きなの?」
「好きとか嫌いってレベルの話じゃないでしょ!? ただでさえ貴重品なのに、この季節にかき氷なんて、食べられるもんじゃないじゃん!」
ああ、そうだった。そう言えばモンベールでもべらぼうに高かったっけか。うう、そう言えばオレもアイス系は長い事食ってないんだった。なんか無性に食いたくなってきたぞ。
「そうですか、リア殿はそんなにかき氷がお好きでしたか。それではたっぷりと召し上がるといい。でも、食べ過ぎてお腹を壊さないように気をつけてくださいよ?」
まるで子供に言うような注意をしながらウェインさんがはっはっはと笑う。さすがのリアも恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてうつむいてしまった。悪気はないんだろうけど、てかむしろ親切心なんだろうけど、ウェインさん怖いもの知らずだなあ……。
城内をしばらく歩いていると、ウェインさんがこちらを振り向いた。
「こちらが『夏の間』になります」
お、着いたか。てか、ちょうど城の入り口の反対側まで来た感じか。扉も王家の紋章が描かれていて、エラく立派だ。この中で王様が待ってるのか……。ああ、また妙なテンションなんだろうな……。
そんな事を考えていると、ウェインさんが扉をノックする。内側から話しかけてきた人に、ただいま皆さんをお連れいたしましたとか言ってる。なんだか緊張してきたぜ……。リアもステラも、表情が固いな……。でも、リアはこの前よりかはよっぽどマシか。
その時、部屋の内側から扉がゆっくりと開いていった。そっか、私室と言えど中には何人か人がいるのね。てか、うおっ、まぶしい! 今まで暗い所に目が慣れてたから、いきなり光が入ってくると軽く立ちくらみみたいになっちまうぜ。
「それでは皆さん、中へどうぞ」
ウェインさんにうながされ、恐る恐る中へと入る。うっわ、めっちゃ日が差してんな。っと、王様は……。
「皆さん、いらっしゃーい!」
うおっ、予想通りだけどテンション高っ! 相変わらず元気そうだな、王様! って、あいさつ、あいさつ……。まずはひざまづいて、この前三人で打ち合わせた通りに……。
「へ、陛下におかれましては、ご、ゴキゲンうるわしゅう……」
「いーよいーよ、そういうのは。ここ公式の場でもないし、サイモンもいないし、ね?」
「は、はあ……」
ね? とか言われましても……。「おう、それじゃあよろしく!」とか言えるわけないじゃん。てか、この前リアたちにこの王様がスゴい人だって聞いたせいか、今日はヤケに緊張が……。
とりあえず立ち上がって改めて前を見ると、立派なイスに腰かけた王様のそばに、栗毛のメイドさんと、よく見知った人が立っていた。
「お久しぶりですね、皆さん」
「あ、ギュスターヴさん」
そこに立っていたのは、王国調査隊副隊長を務めるAランクプレイヤーのギュスターヴさんだった。相変わらず涼しげな顔してんな、この人。
「ギュスターヴさんもいたんですね」
「今日はこの前のクエストについてという事で、私もお招きにあずかっているのですよ」
そ、そうなんすか。ギュス様がいるなら、少しは話しやすそうだな。これが王様だけだったらと思うと……。
「今日は来てくれてありがとー! 立ち話もなんだし、みんな、適当に座ってよ!」
「は、はい、それじゃ失礼します……」
王様にうながされ、とりあえずイスが三つ並んでる席に座る。デカいテーブルを囲んで王様が窓際に座り、王様の右手側にギュス様とウェインさん、左手側にオレたちが座る。
「難しい話の前に、まずはおやつでも食べましょー! ハルミさん、例のモノをカモン!」
王様に言われて、その隣に立っていた栗毛のメイドさんが他のメイドさんにも指示を出して何やらいろいろと準備を始める。てかハルミさんて、妙に和風な名前だな……。
「今日はごくごく私的な集まりだから、みんな楽しんでいってね!」
丸っこい顔をニコニコさせている王様。この人、ホント楽しそうだよな……。オレも腹をくくって、今日はがんばって楽しむ事にしますよっと。




