5-1 恩師との再会
「いや~、今日も働いたねぇ」
クエストを終え、詰所へと戻るリアが手ぶらで大声を上げる。
「ついに私たちも、Bランクのクエストを任されるようになったんだねぇ」
「そうだな、Bランクだけあってホント大変だよ。主に荷を運ぶのが」
オレが袋一杯のサーベルタイガーの牙をリアに見せつけてやろうとしても、ちっともこっちを向きやしねえ。
レベルアップがウソじゃないとわかったオレたちは、今回初めてBランク領域である四十二階のクエストに挑戦していた。さすがに未知の領域という事で最初は緊張していたが、フタを開ければわりとサクサク敵を倒す事ができた。
サクサク進まなかったのはこの牙集めで、一本がちょっとした剣くらいの大きさなのでリュックも袋もどんどん重くなる……。ステラにも持ってもらってるけど、さすがに重い……。こんなモン、こんなに集めていったい何に使うつもりなんだ、依頼主……。
「ステラ、それ重くない? 片方持とうか?」
「いえ、私は大丈夫です。できればルイさんの方を……」
「ああダメダメ、ルイはこうやって少しでも鍛えていかないと。それじゃ早く帰りましょっか」
持てよ! どうせオレは戦わないんだから鍛える必要ないだろ! だいたいステラに声かけるのだって遅せえよ! もう詰所見えてきてんだろが!
そうこう思ってる間に四十一階の詰所に着いた。手ぶらのリアが扉を開ける。四十一階の詰所ともなるとさすがにリアの知り合いもほとんどいないらしく、行きの時はさすがのコイツも緊張ぎみだった。てか、コイツだけ手ぶらで入ったら詰所の皆さんはどう思うんだろうねえ……。
詰所では五人の当番がテーブルで何やら話しこんでいた。あれ? 行きは四人だったような……。
「あー! 先生!」
リアが痩せぎみのお兄さんを見るや目を丸くして驚く。あ、オレも思い出した。この人、冒険者養成学校の先生か。
「おや、リアとルイじゃないか。久しぶりだね」
「こっちこそ久しぶりです。先生、さっきはいなかったですよね?」
「ああ、私は交代で来たからね。それよりお前たち、最近はずい分活躍してるそうじゃないか」
「えー、それは先生のおかげですよぉ」
普段あまり見る事のないキャピキャピした調子でリアがしゃべる。てか、リアがまともに敬語使ってるところも初めて見るような気がするんだけど。コイツちゃんと敬語使えたんだ。王城じゃあのザマだったのに。
オレの方に視線を移すと、先生が苦笑混じりに言う。
「ルイはあいかわらずリアに頭が上がらないようだね」
「ま、まあ……」
やっぱ昔からこうだったのかよ! てか先生、アンタからもなんか言ってやれよ!
「しかしお前たちももうBランクか。これは私を抜くのも時間の問題だな」
「え~、そんな、私たちなんてまだまだですよぉ」
さっきからなんでコイツこんなにキャピキャピしてるんだ? リアってこういう優男タイプが好みなのか? この兄ちゃん、それなりに年いってるように見えるんだけど。
「ところでそちらの方は、リアのパーティーなのかな?」
「は、はい、ステラです、はじめまして」
「はじめまして。ワルターです。冒険者養成学校で彼らを指導していました。ステラさんは……斧兵なのですか?」
「は、はい」
「あ、これは失礼。高ランクの斧兵の方などそうそうお会いできませんから、つい珍しくて。彼らとはどのようなご縁で?」
「い、以前私がモンスターに襲われていたところを助けていただいて、その時に誘っていただきました」
「そうでしたか。まだまだ未熟だとは思いますが、これからもどうか彼らの力になってあげてください」
「は、はい、こちらこそ」
「え~、私もう子供じゃないんですよ~?」
「ははは、そうだったね。これからもがんばるんだよ」
そう言って、ワルター先生が他の人たちにオレたちを紹介する。ひととおり話し終えたところで、オレたちはあいさつをすませゲートへと向かった。
「ただいま~、アンジェラ」
「あら、お帰りなさい、おつかれさま。意外と早かったわね」
ゲートを通り、ギルドの受付へと戻る。いつものように、赤毛の美人が労をねぎらってくれた。
「ルイ君もおつかれさま。今日は重かったでしょう?」
「ああ、おかげで明日は身体が動きそうにないぜ……」
「まったく、ルイったら運動不足なんじゃないのー?」
いや、どう考えてもオマエのせいだよ! 少しは持てよ!
アンジェラにリュックとカバンを渡しながら、リアを思いっきりにらみつける。もちろんリアはオレの目など見ようともしない。
「はい、はい、はい……はい、OKよ。それじゃ報酬の3200リルね。ステラちゃんが1200リルで、二人が1000リルでいいのよね?」
「うん、それでお願い」
「す、すみません……」
「何言ってるのさ。今まで安いお金で働いてもらってたんだから、これからはしっかり渡さないとね」
まったくだ、今までよくつきあってくれたもんだよ。しかしようやくステラに前稼いでた以上の報酬渡せる日が来たんだな。正直、もっとずっと先の話になるかと思ってたんだけど。
恒例のレベルチェックもちゃっちゃとすます。今回はオレとリアが1レベルずつ上がって、オレ46、リア42、ステラ44になった。ステラももうすぐ上がりそうな感じだ。でもオレ、いまだにその辺のDランクくらいの剣士にも勝てる気がしないんだよなあ……。
次のクエストを決めようとアンジェラに依頼書をお願いすると、その前にと一枚の紙を取り出した。
「あなたたちに王様からお話があるそうよ」
「お、王様!?」
オレたちの、特にリアの手がピタリと止まる。コイツ、あいかわらず権威に弱いなあ……。てか、どっちかって言うとフインキに飲まれるタイプなのか?
「来週、このうちのどれかの時間に来てほしいって事なんだけど、都合のいい日時はあるかしら」
「都合が悪くても合わせるしかないでしょ、王様の呼び出しなんだし……」
えらく弱々しい口調で、リアが軽く毒づく。覇気はまったくない。
「お話って、何を話すの……?」
「私も詳しい事は知らないわ。その書類によると、この前のゾンビ退治の件でって事みたいね」
「ああ、思い出したくない……」
さっきまでの陽気さはどこへ消えたのか、リアのテンションが限界まで落ちていく。代わってステラが日取りなどを指定していった。
「服装はこの前の式典のものでいいみたいです」
「ああ、そう……」
「今回は馬車なしという事でいいですよね?」
「ああ、それはもうカンベンしてくれ。すでにオレ、ご近所歩くのキツくなってるしな」
「それでは、朝にモンベール前で待ち合わせて、それから王城へ向かうという事で……」
さすがステラ、サクサク処理していくな。
こんな調子で予定を調整し、書類をアンジェラへと返す。
「はい、わかったわ。それじゃこれで、ギルドを通して役所に提出するわね」
そう言ったところで、
「でも、これってなんの事なのかしら……?」
アンジェラが首をかしげる。
「なんか気になる事でも書いてあるのか?」
問いかけるオレに、困惑しながらアンジェラが答えた。
「ええ、ここの所に書いてあるのよ、『今回は絶対に泊まっていってね! 帰っちゃダメだよ!』って……。誰かのイタズラかしら……?」
ああ……。それ、きっと王様だ……。前すっげーしょんぼりしてたもんな……。それを聞いて口からエクトプラズムを吐き出したリアを抱えながら、オレたちはギルドを後にした。




