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4-9 今日はとんでもない誕生日だったぜ……





「はぁ~、食った食ったぁ~」

 もうすっかり暗くなった王城前の大通り。モンベールを出たリアが、開口一番オッサン臭い事を言う。お前、それどう考えても年頃の女の子のセリフじゃねえぞ。

「満腹満腹、もうおなかいっぱいだよ~」

 さほど出てるわけでもない腹をポンポン叩くリア。

「お前、少しは羞恥心ってものはないのかよ」

「いいのいいの、もう誰も見てないんだし」

 ああ、オレは勘定に入っていないのね。

「それにしてもあのお姫サマ、意外といい所あるんじゃん。追加注文全部持ってくれるとかさ」

 店内でにらみ合っていたときにあれだけむき出しにしていた敵意はどこへやら、ずい分ゴキゲンな調子でリアが言う。てかコイツ、ケーキ食い終わった後にまたコース頼みなおすのかって勢いで料理注文しまくってたからな……。あれってもしかして、お嬢サマへのささやかな仕返しだったのか?

「でもあのお嬢サマ、ホントにモンベールに代金払うのか? あの調子だと『そんな約束したかしら?』とか『庶民が貴族と対等な契約を結べると思っちゃいけません事よ?』とか言ったりしないか?」

「それ、あの人のマネ? 言い回しが全然似てないし、キモいよ?」

 うっせ! マネの精度なんてどうでもいいだろが!

「まあ、その心配はないと思うよ」

「そうなん?」

「あの人、店長さんに高そうな指輪渡してたしさ。払わなかったらあの指輪でチャラって事でしょ、多分」

「でもお客さん結構それなりに追加注文してたぞ。あんな指輪一個で足りるのか?」

 さすがにリアみたいにガンガン頼んだヤツはひとりもいなかったけどな。

「全然足りるでしょ。盗賊の私が見たところ、あの指輪ざっと10万リルくらいしそうだし」

「10万リル!?」

 なんだよその別次元の金額! オレらの稼ぎより一ケタも二ケタも上じゃねーか! さっすが貴族のお姫サマは身につけてるモノからしてげえな! そりゃオレらの食事がわびしくも見えるわけだわ!

「あの方は誇りは高そうに見えましたから、約束は違えないのではないでしょうか」

「そうだねー。でも今日はなんであんな事したんだろ? イヤな事でもあったのかな?」

「え、あのお嬢サマっていっつもあんな感じなんじゃないのか?」

「いや、ワガママなお嬢サマってのは私ら庶民の間でも有名なんだけどさ。いっつもあんな事してたらいくら大貴族の娘だからって言ってもただじゃすまないでしょ。ずい分貴族たちの抵抗にあっているみたいだけど、王様も貴族の横暴をなんとかしようとしてるしさ。公爵様にしたって、たとえ大抵の事は力でもみ消せるとしても、娘がただのアホウ姫でしたとなりゃ立場上よろしくないわけ」

「エリザベート様といえば、王立中等学校を優秀な成績で卒業し武芸にも秀でた文武両道の才女として名高いお方です。私生活についてはあまりよく知りませんが……」

「そりゃそーだよ、わかるわけないじゃん。だって貴族なんだし。だいたい、こんな街中にやってくる事自体珍しいんじゃない? 家でムシャクシャする事があったから巷で有名な喫茶店でヤケ酒でも飲もうと思ったとか?」

 なんかだんだん頭が痛くなってきた……。貴族ってのもいろいろ大変なのね。

「ま、何があったとしても、私たちのパーティーを邪魔したんだから同情の余地はないけどね」

「それは私も同感です」

 うん、あの時すっごくおっかなかったもんね、二人とも……。なんであんなにキレてたんだ? やっぱ夜のモンベールってのは女には特別なもんなのか?

「あ、そう言えばよ」

「え、何?」

「あの時なんで泣き出したんだ?」

 オレに問われて思い出したのか、リアが顔を真っ赤にする。いや、暗いからよくわかんないけど。

「そ、それはその……」

「なんだよ、もじもじしやがって、気になるじゃねーか」

「だって……」

 小声でぼそぼそとつぶやくリア。

「ルイがお誕生会の事、あんな風に思ってくれてるとは思わなかったから……」

「え、何? よく聞こえな……」

「うっさい! このバカ! 鈍感!」

「ぐふぅ!?」

 リアの肘鉄が、オレのみぞおちに突き刺さる……。ヤバい、視界が……。

「ル、ルイさん!? 大丈夫ですか!?」

「あ、ああ、大丈夫だぜステラ……」

 崩れ落ちそうになるオレを、ステラがとっさに抱きかかえる。ああ、ステラさんがいろいろ柔らかい……。

 てかリアの野郎、完全にソッポ向いてやがる! 謝れよ!









「それでは、私はここで……」

「ずい分暗いけど、ステラひとりで大丈夫?」

「はい、ご心配なく。それでは皆さん、失礼いたします」

「おう、今日はサンキューな」

「またねー、ステラ」

 柔らかな笑顔を見せると、ステラは身をひるがえして向こうの方へと歩いていった。また髪下ろしてくれないかな……。そんな事を思いながら、オレたちはステラと反対側へ歩き出す。

 しばらくはやれ今日のメインはどうだのケーキの後に注文した燻製がどうだのと今日食った物の話ばっかしてたリアだったが、オレがよく使ってる八百屋を通りすぎたあたりで急に声のトーンが変わった。

「そ、それにしてもさ! ルイがあんな風に怒るなんて思わなかったよ。初めてじゃない? あんなの」

 微妙にわざとらしい調子でリアが言う。

「ま、まあそうかもな」

「いっつもしょうもない事でキレてはいるけどさ、あれは本気だったよね」

 ヤメて! マジヤメて! なんか恥ずかしいから!

 と、急にリアが黙りこむ。しばらくして、再び口を開いた。

「あれって、私たちのために怒ってくれたんでしょ?」

「え?」

「だってルイ、自分の事ならあんな顔しないじゃん」

 恥ずかしそうに顔を伏せながらリアが言う。いや、これオレも激しくハズいんですけど。

「ま、まあ? 珍しくお前らが祝ってくれるなんて言うもんだし? それジャマされて超ムカついたっていうか?」

 茶化した感じで言ってみたが、どう見ても照れ隠しにしか見えないかもな……。少し間を置いて、リアがオレを見上げてきた。

「今日はその、ちょ、ちょっと、その、男らしかった、かもよ?」

 かもよってなんだよと思いながらも、上目遣いのリアが思いのほか乙女でツッコむ言葉が出てこない。

「だから、今日は、その……ありがと」

 だんだん消え入りそうな声で、少しずつオレから目をそらしながら、それでもリアは何かお礼らしき言葉をつぶやいた。そして急にオレの方を振り向くと、

「そ、それじゃ私急ぐから! 誕生日おめでと! じゃ!」

 手刀をビシッと立てるや猛ダッシュで大通りを駆け抜けていった。な、なんだ今の……? でもまあ、今日の誕生会はオレも嬉しかったし、二人も楽しんでいたようだし、終わってみればすべてよし、か……。

 最後に一杯飲んでいたオレは、ほろ酔い気分で家へと帰っていった。リアのヤツ、結構飲んでた気がするけどあんなにダッシュして大丈夫なのか……?





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