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4-7 モンベールで大立ち回り





 大貴族のお嬢サマ・エリザベートの手下たち四人が、店の事などお構いナシにオレたちへと突っこんでくる。鼻息荒くイヤらしいツラで突進してくる男たち。狙いは……あ~あ、やっぱりみんなステラの方に向かっていったわ……。お子ちゃまよりも巨乳で美人のお姉さんを襲いたいんだろうな。気持ちはわかるが、よりによってステラの方か……。なんて言うか、ご愁傷様……。

 四人のうち、まず二人がステラへと迫る。さっさと押し倒そうとでも思っているのか、構える事もなくバンザイのようなカッコで飛びかかろうとする。そんな男どもに、ステラはわずかに腰を落とすと――一瞬でふところに潜りこんだ! は、えぇ! その低い姿勢のまま、右、左と男の腹部に拳を叩きこむ! 連中は変な液を吐きながらそのまま倒れこんだ。周りの連中には、消えたステラが腰を落とした姿勢で現れると同時に男どもが倒れたように見えてるんじゃないか?

 後ろの二人が怒声を上げる。

「こ、このアマぁ!?」

「痛い目見ねぇとわかんねぇか!」

 男どもがステラへと殴りかかる。ゴロつきみたいな連中とはいえさすがはCランク上位プレイヤー、ストレートにもキレがあるぜ。そんな凶悪な拳が左右からステラに襲いかかる。

 その辺のプレイヤーなら目で追う事もできずに即昏倒しそうな強烈なストレートを、しかしステラは左右の手のひらでハイタッチでもするかのように易々と受け止めると、その拳を握りしめ……二人をブンブンと振り回し始めた! おい! ソイツら武器じゃないんだぞ!? 

「大事な誕生会を台無しにしてくれた……報いを」

 そうつぶやくと、ステラが男どもを地面へと叩きつける! ドシャァアッ! とエラい音を立てて、男どもが完全にノビてしまった。その光景を、お嬢サマと隊長が呆然と見つめている。いや……正直悪夢のような光景だよな……。大の男二人が、美人のお姉さんにボロ雑巾のように振り回されるとか……。

 我に返ったお嬢サマが、金切り声で絶叫する。

「な、何をやっているのです!? は、早くあの者どもをなんとかしなさい!」

「は、はっ!」

 慌てて隊長が剣を抜き放つ。おいおい、それはさすがにマズいんじゃないのか……?

 リアが一歩前に出て、隊長と向き合う。

「おとなしくしろ、娘。今ならまだ痛い目を見ずにすむぞ」

「あ~あ、いい大人が物騒なモノ抜いちゃって、恥ずかしくないのかねぇ……」

 一つため息をつきながら、リアが首を振る。

「それともう一つ。あんた、Bランクらしいけどさ……」

 そう言うや、5メートルくらいある距離を一気に詰めて、男の手から剣をあっさりとはたき落とす。いやいや、いくらなんでも速すぎだろ!

 何が起こっているのか理解が追いつかない様子の男に足払いをかけると、男はなすすべもなく派手にすっ転んだ。その左手首に足を乗せ、すました顔でリアが冷たく言い放つ。

「私たちもBランクなんだ。あんまりナメないでくれるかな?」

 そう言って脇腹のあたりを軽く蹴ると、隊長はくぐもった声を上げて気絶した。気絶……だよな? あっという間のできごとに、お嬢サマはもちろん壁際の店のお客さんたちも声も出ない。

「お、お前たち……。こんな事をして、ただですむと思っているの……?」

 やがて、お嬢サマが身体をわななかせながら、震える声でスゴんできた。声が震えてるのは怒りのためか、それとも恐怖のためか……ま、どっちもだろ。

 お嬢サマのすぐそばに立つリアが、怒りのこもった目でにらみ返す。

「アンタこそ、お貴族サマだからってこんな事していいとでも思ってんの? 私たち、これでも王様に一目置かれてるんだよ?」

 そう言いながら、懐から無造作にメダルを取り出してお嬢サマに示した。あ、そう言えばそんなモン王様にもらったっけな……。それを見たお嬢サマの顔が、みるみる青ざめていく。

「そのメダルは……我がベルフォール家をはじめ、国家に大功ある者のみが陛下より賜る事のできるもの……! なぜお前たちのような下賎なやからが、それを……」

 そこまで言って、お嬢サマが何かを思い出したかのような顔をした。そしてオレの方を憎々しげににらみつける。こ、えぇ!

「思い出しましたわ……。お前、この前の晩餐会で余興に駆り出されていた道化ですわね……?」

 え? 道化って……オレたちそんなヒドい扱いだったっけ?

「卑しい詩人風情が、陛下の御前で下種げすな歌など……。分というものをわきまえなさい! 耳が腐るかと思いましたわ!」

「ちょっと待て! オレの歌メチャクチャ大好評だったじゃねーか! みんな拍手喝采だったんだぞ!」

「そんなもの、陛下の御前だからに決まっておりましょう! あれが我が屋敷でのパーティーであれば、我々高貴なる者たちの怒りに触れ、石に打たれて三日三晩吊るされているところですわ!」

「ウ、ウソ!?」

 マジで!? みんな王様の前だから気を遣っててくれただけ!? だって、王様やギュス様たちもめっちゃ褒めててくれたじゃん! みんなもスタンディングオベーションで応えてくれて大成功だと思ってたのに! がーん、がーん……。

「ルイさん、あんなのは全部ウソですよ。皆さん本当に喜んでらっしゃいましたから」

 ステラがすかさずフォローしてくれる。うう、ステラさんはやさしいよぉ。

 なんとか立ち直ったオレに、興奮して歯止めがきかないといった様子でお嬢サマがさらに噛みついてくる。半分意地になってるのか、目尻には涙がたまっているようにも見える。

「ふん、ヘボ詩人はその取り巻きも卑しい者ばかりなのですね! 誕生会を邪魔された? はっ、笑わせてくれますわ! お前たち、そんなものがお祝いのつもりなのですか? なんですかそれは! ずい分と貧相なお祝いですこと!」

 ……今、なんて言った?

「そこにあるのは、もしかしてバースデーケーキのつもりですか? あはははははっ! なんですのソレ! お祝いのケーキなのにたったの一段? せめて三段重ねくらいにはしたらいかがです? そんなお祝い、わたくしにはとても考えられませんわ!」

 もうしゃべんなよ、お前。

「どのように陛下に取り入ったかは知りませんが、所詮下種は下種。わたくしたちのような高貴な存在とは異なる生き物という事です! お前たちにはそこでそうやって家畜のエサのような食卓を囲んで喜んでいるのがお似合いですわ! あははははっ!」

 半ば泣いているかのようなその甲高い笑い声に、オレの堪忍袋の緒は完全にブチ切れた。






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