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4-3 ルイとリアの昔話





「私たちは、元々ロニアンじゃなくてもっと東の村に住んでたんだよ」

 リアが、オレとの幼少期を語りだす。ロニアンって、この街の名前か。てか、生まれはここじゃなかったんだな。

「昔はさ、シャルルと三人でよく遊んだもんだよね、私たち」

「え? あ、ああ」

 話を振られ、あいまいに返事する。いや、オレに振らないでくれる? オレほとんど憶えてないんだから。

「まあ、実際にはおりに近かったんだろうね。シャルルは私たちより十歳年上だし、あの頃は私たちまだこんなちっちゃかったし」

 そう言って、またテーブルの高さのあたりに手をかざす。

「シャルルさんって、あの伝説の槍兵のシャルルさんなんですよね。どんな方だったんですか?」

 ステラが興味深そうに聞く。なんかスゴいヤツだったみたいだもんな、シャルル氏。

「そうだね。ホントに強かったし、カッコよかったよ……」

 あー、これ惚れてたわ~。絶対惚れてたわ~。てか、どっちかって言うと子供の憧れって感じかね……。目が完全に乙女モードだわ……。

「私らが四歳か五歳の頃かな? シャルルが冒険者になってね。時々帰ってきてるシャルルによく二人で槍さばきを見せてもらってたよね」

「ああ、そうだな」

 言われれば記憶が再生するわ。てか、記憶の中のシャルル氏が時を経るごとにバケモノじみた強さになっていくんだけど……。

「そんなシャルルの成長していく姿を見るたびに、幼いリアは淡い思いにその薄い胸をときめかせるのであった」

「はぇ!? そ、そんなんじゃないもん! てゆーか、今聞き捨てならない事言ったでしょ!」

「ぎいぃぃっ!?」

 ってぇぇぇぇ! バカ、その靴でスネんな! テーブルの下の出来事が見えていないステラが、怪訝そうにオレの顔を見る。

 痛みに耐えるオレをよそに、リアが思い出話を続ける。

「そうそう、そのバカの竪琴も、シャルルがダンジョンで拾ってきたものなんだよ」

「え? そうなんですか?」

「うん。シャルルいわく、これはただの竪琴じゃない、きっと魔法の竪琴だってさ。まあ、彼がそういうのがわかる目の持ち主だったとも思えないんだけどねー」

 へぇ、そうなのか。今日も一応持ってきてるけどさ。てっきりその辺で売ってる安物なのかと思ってたぜ。

「あの頃は全然弾けなかったのに、今じゃずい分上達したもんだよね、まったく」

「そりゃどうも」

 言って水を一杯飲む。

「でもさ、ついこないだまでそんなにうまくなかったよね? 隠れて練習でもしてたの?」

「さ、さあ? そ、それは教えられないなあ」

 リアの問いに、あからさまにキョドりながら答えるオレ。やっぱ言えないよな、今のオレがお前の言っているルイとは別人だとは。

「ルイさんって、見えないところで努力されてたんですね」

 ほほえみながらステラが言う。まったく、ステラは素直でかわいいなあ。せっかくそう思っててくれるなら、そういう事にしておこう。全然違うけど。







 食事を楽しみながら思い出話を続けるオレたち。ステラが聞いてくる。

「お二人が冒険者になろうと思ったのは、どうしてなんですか?」

「ああ、それはね……先に言っておくけど、暗くならないでね?」

「はい? ええ……」

 ポケッと不思議そうな顔をするステラ。かわいい。

「私がギルドに入ろうと思ったのは、シャルルがいなくなってからなんだ」

「あっ……」

「はいストーップ。暗くならないよーに。ルイも大丈夫だよね?」

「ああ」

 なんとなくそんな気はしたけどな、流れ的に。てか、動機なんてそんなもんだろ。あれだけ露骨にシャルル君しゅきしゅき光線を発した後だとねえ……。

「元々私はひとりで家を飛び出すつもりだったんだけどさ、ルイもついていくって言い出したんだよね」

「そうなんですか」

「そう。あの竪琴持って、『オレは歌で世界を変える』みたいな事言ってね」

 へぇ、そうだったんだ。てか、本物のルイって相当アホだったんだな。「世界を変える」とか、今時小学生でも言わねっつーの。

「やっぱルイはさー、あの頃からアホ丸出しだよねー。今も全然進歩してないよ」

「おい! オレもソイツと同レベルなのかよ!」

 全然げーよ! そんなアホといっしょにすんな!

 って、あれ? なんか様子がおかしいぞ?

「え?」

「は? ソイツって、あんたの話でしょ?」

「え? あ、そうそう! アホはオレでしたー、あはははは!」

 ヤバい、声に出ちまった! 必死に取りつくろったはいいが、勢いでバカな事を口走ってしまう! くっそ、これじゃホントにただのアホじゃねーか!

「さて、アホはほっといて……」

 うっせ! 何度アホアホ言えば気が済むんだオマエ!

「そんな感じで地元を飛び出して、王都で一人暮らしするようになったんだよ。シャルルはシティギルドだったから、仲良くしてたっていう受付さんのところに転がりこんでね……それがアンジェラ」

「そうだったんですね……」

 うん、オレも初めて知ったわ。シャルルとアンジェラって、やっぱデキてたのかな?

「ルイ、今すっごいゲスな事考えてたでしょう」

「え!? いや別に!?」

「ふ~ん……」

 なんなんだよコイツ! こうも思考読まれてちゃ、おちおち考え事もしてらんねえよ! てか色恋は別にゲスではないだろ!

「そんなこんなで早三年、まさかこんな早くBランクになるとはね……」

 感慨深げにリアが水をあおる。まったくだよ、天才のシャルル君より出世早いんじゃね?




 そんな事を話していると、店員さんが料理を持ってきた。

「本日のメイン、鹿肉のぶどう酒ソースです」

「おお!」

「おいしそう!」

「ですね!」

 なんともお上品な鹿肉のステーキに、オレたちのテンションも急上昇する。オレ鹿なんて食った事ないけど、どんななんだろな……。ナイフとフォークで切り分けて、ソースをつけて、さて一口……。

「ウメぇ!」

「何これ! おいしい!」

「す、凄いです!」

 三者三様に驚きの声を上げるオレたち。ウメぇ! 味を表現する言葉が出てこないけど、ウメぇ! お上品なビジュアルなのになんかワイルドな感じっていうか! スゲぇ! 夜のモンベール、スゲぇ!

「私、王都に来てよかったぁ……」

「私もです……」

 三人そろって感極まるオレたち。うん、やっぱりオレたちにはこのくらいの事で感動してるのがお似合いだよ……。







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