4-2 スゲえな、モンベールのディナー!
もうすっかりおなじみになった感のある喫茶モンベール。緑を基調にした店内は清潔感があり、店内の装飾も森林や葉っぱを思わせるものがある。夜はランプでライトアップされて、またずい分とフインキが違うな。店内のカップルたちも、なんていうか、本気度が違う気がするぜ。
リアが予約の旨を伝えると、緑に白の制服がかわいい店員さんが店の真ん中の席へと案内してくれる。おお!? なんかあの席だけスゲえ飾りつけられてないか? てか、あれがオレらの席? いやいや、なんでだよ!
「おい! お前、一番安いコース頼んだんじゃなかったのかよ! 席が立派すぎんぞ!」
「ああ、あれは誕生日だと飾ってくれるんだよ。ルイ、証明書ちゃんと持ってきてる?」
ああ、そういう事なのか。だから証明書もらえとか言ってたんだな。冒険者証明書には生年月日も書かれてるし。はいよ、と店員のお姉ちゃんに証明書を見せる。
「はい、確かに。それでは皆さん、素敵なお誕生日をお楽しみください」
そう言うと、店員さんはカウンターへと戻っていく。じゃあオレたちも席に着くか。オレの右にはリア、左にステラが座る。いわゆる「両手に花」ってやつだな。イヤでも目立つお誕生日仕様なのと相まって、なんか少し周りの目が気になるぜ……。
オレらが座ると、店員さんがドリンクを持ってきてくれる。今日は至れり尽くせりだな。
リアがカップを持ち上げる。
「よーし、それじゃルイの誕生日を祝って、かんぱーい!」
「おう」
「ルイさん、おめでとうございます」
あー、女の子ふたりにはさまれて誕生日祝われるなんて、なんか感慨深いものがあるぜ……。
「ルイも十七かぁ~。ついこないだまで、こんなちんちくりんだったってのにね~」
そう言いながら、リアがテーブルの高さに手をかざす。
「いや、お前オレと年変わんねえだろ」
「まあそうだけどさ~。私の時はどのコースで祝ってもらおっかな~。やっぱ500リル?」
「高けぇよ! 出せるわけねーだろそんなモン!」
「はぁ!? 私たちがこうして祝ってあげてんのに、そんなモンって何さ!」
「まあまあ、お二人とも……」
今にもつかみかかりそうな勢いのオレとリアを、ステラが困ったような顔でなだめる。
「まあそれは置いといて、リアの誕生日はいつなんだよ」
「えー、憶えてないのー? てゆーか四ヶ月前に祝ったじゃん」
「ああ、そうだっけか」
女と違って、男はいちいち他人の誕生日なんか憶えちゃいねーんだよ。多分。
「ねえ、ステラはいつなの? 誕生日」
「私はあと四ヶ月くらいです」
「よし、じゃあその時はこの一番高い1000リルのコースでお祝いするか」
「ええっ!? そんな、もったいないです……」
「ちょっと、ルイ! なんで私には500リルでブーたれて、ステラには1000リルのコースなのさ!」
恐縮するステラをよそに、リアが食ってかかる。へっ、お子ちゃまにコース料理なんて百年早いからだよ。
「なんだよリア、ステラに1000リルのコースはもったいないって言いたいのかよ?」
「そ、そんな事言ってないから! なんで私は500リルでもダメなのかって言ってんの!」
ステラがおろおろしながら言う。
「あ、あの、私は皆さんといっしょなら、いつもの居酒屋で十分ですから……」
「え、いや! そうじゃなくて! ステラにはこんなのよりもっと立派なお祝いするから!」
「そ、そうそう! 1000リルは冗談だけど、500リルのコースならオレも食いたいなーって思ってたところだから!」
二人で慌ててフォローする。それにしてもさすがステラさん、慎ましいぜ……。てかリア、コイツ今サラッと「こんなの」とか言わなかったか?
そんな感じでわいわいやってると、店員さんが最初の料理を持ってきてくれた。
「こちら、前菜の盛り合わせになります。右から、自家製ハムとチーズ、とうきびのスープ、フレッシュサラダです」
「おお~っ」
「素敵ですね」
前菜の登場に早くもテンションが上がる女性陣。確かに自家製ハムはうまそうだな……。てか、とうきびってとうもろこしの事だよな。なんで北海道弁なんだ? 『デモグラ』の制作スタッフに北海道民でもいたのか?
パンの入ったカゴを置くと、店員さんが下がっていく。このパンってもちろん食い放題なんだよな? 300リルも払ってんだから、それくらいは頼むぞ?
「そしたらルイのヤツ、一生懸命ひーこら逃げ回ってんの。あれはケッサクだったなぁ~。ステラにも見せてあげたかったよ」
「そんな、ルイさんがかわいそうですよ」
オレの黒歴史、初クエスト逃げ回り事件を嬉々として話すリアに、たしなめながらも笑いが漏れるステラ。Bランクの昇格祝いをしていたら、どうやらリアがオレにレベル追い抜かれた事を思い出して腹が立ってきたらしい。おい、おかしいだろ! 今日くらいオレを祝えよ!
「初めてと言えば、私も皆さんには醜態を晒してしまいましたし……」
「いやいや! あれは仕方ないって!」
「そうそう! おかげでステラがオレたちのパーティーに入ってくれたんだし!」
「そう考えると、人の縁って不思議だよねー」
そう言いながら、リアがカップの中の紅茶を一気に飲み干す。ステラがオレらの顔をうかがうようにしながら聞いてくる。ん? どした?
「ルイさんとリアさんは、いつ頃からお知り合いなんですか?」
ああ、それはオレも微妙に気になってた。なんか記憶も断片的にしか再生されないんだよな。どうせただの腐れ縁なんだろうけど。
「ああ、私たちは昔からの幼なじみなんだよ。だから生まれた頃からつきあいはあるね」
え、そうなの? てっきりギルドでコイツに捕まってパシられるハメになったんだとばかり思ってたわ。
「そうだね、あの頃は楽しかったね……」
なぜか遠い目になるリア。あれ、なんかこの話、長くなりそうな予感がするぞ……。頼むから、オレも知らないような黒歴史だけは披露してくれるなよ。




