4-1 今日は誕生パーティー!
夕焼けで空が真っ赤なある日の夕方。オレとリアは、王城前の大通りの人込みの中を歩いていた。そう、今日は例のオレの誕生日パーティーの日だ。リアとステラが、わざわざオレのために喫茶モンベールの夜の予約を取ってくれたんだ。
「つ、ついに夜のモンベール、ああ、全ての女の子の憧れだよっ……」
あ、どうやらオレはついでのようだわ。なんかさっきからリアの瞳に星がまたたいてる。夢いっぱいでいいっすねえ……。
「夜のモンベールって、そんなに変わるモンなのかよ」
「トーゼンだよ! 夜だよ! モンベールの! ステキな男性といっしょに過ごすってだけで、もうドキドキが止まんないじゃん!」
猛然とオレに詰め寄るリア。なんでこんなにテンション高いんだよ?
「は~ぁ……。現実は、隣にいるのは腐れ縁の幼なじみだもんね……」
そう言って、露骨にため息などつきやがる。あー、へいへい。素敵な王子サマじゃなくてすいませんでしたねー。
あと言っとくけど、腐れ縁の幼なじみってのはこっちにして見れば完全な敗北フラグなんだからな。幼なじみキャラなんて、メインヒロインの引き立て役にしかならねえっつーの。
「ま、いっか。夜のコース料理も頼んだ事だし。一番安いコースだけど、ルイにはそれくらいがちょうどいいでしょ」
カチン。コイツ、なめやがって。
「調子に乗るなよリア。今じゃオレはお前よりレベル上なんだ。そんな安い男じゃねえ」
「あー、ちょっとレベル上がったからってすぐに調子に乗っちゃって。だいたいアンタ、今日はちゃんとお金持ってきたの? 大口叩いておいていざお会計になったらお金が足りませんでした、とかはナシだよ? 私たちが恥ずかしいから」
「なめんなよ。そんなの余裕で払えるっつーの。で、一人いくらなんだよ。お前が予約したコース」
「300リル」
「高っか!」
高けぇよ! 高すぎんだろ! もはやボッタクリなんじゃないか!? モンベール!
「お前、何そんな高いコース予約してんだよ! 300リルとかおかしいだろ!」
「あっれ~? ルイ君、さっきの威勢はどうしたのかな~? そんな安い男じゃないんだよねぇ?」
「ぐっ……」
鬼の首を取ったかのように、ねっとりとオレを挑発してくるリア。くっそ、コイツホントにオレの誕生日を祝う気があるのか……?
それにしても今日はまた一段と気合入れてるな、リア。少し露出多めの、薄い青のワンピースか。リアにはこの前みたいなドレスより、こういうワンピースの方が年相応でよく似合うな。これで口を開かなきゃ美少女で通るんだけどなあ……。
「ルイ、今失礼な事考えてたでしょ」
「え!? べ、別に!?」
いつも思うけど、コイツの勘鋭すぎだろ! エスパーかよコイツ!
そんなやり取りを続けながら歩いていると、モンベールの前についた。お、入り口のあたりでオレたちに手を振ってる人がいる。ステラか……な……?
「だ、誰、あの美人……?」
「ス、ステラに決まってんでしょ……」
オレとリアが二人で顔を見合わせる。手を振る女性は、ゆったりとしたブラウスと長めのスカートをはいて、髪を下ろしている。そうか、髪を下ろしてるから誰かわからなかったのか……。
いや、だって大人っぽくなりすぎてんだもん。ブラウスもゆったり目のはずなのに、胸元が弾け飛びそうになってるし! そこはわかる、オレにもステラだとわかるぞ!
てか、夕日を浴びて輝く金髪や赤く色づく体がハンパじゃなくキレイなんだけど! 何コレ、なんかの名画?
そんなオレを差し置いて、リアがステラへと駆け寄っていく。
「こんばんは、ステラ」
「リアさん、こんばんは。ルイさんも、こんばんは」
「よう」
やっぱりステラさんの笑顔は癒されるね! これだけでもう十分誕生日プレゼントだぜ!
リアがステラをじろじろ見ながら言う。
「ステラ、ロングもスゴい似合うんだね! すっごい大人の女性って感じ! いいなぁ、私もステラみたいになりた~い……」
「そんな、ありがとうございます……。リアさんもそのワンピース、とっても可愛らしくて似合ってますよ」
「そ、そう? でへへ……」
あー、まーた始まったよ、ガールズトークが。こんな所で立ち話とか、カンベンしてくれないかねえ……。
てか、なーにが「私もステラみたいになりた~い☆」だよ。お前がステラみたいに育つわけねーだろ。特に胸が。
「ルーイー?」
「ひっ!?」
ウッソ、また読まれてる!? マジでコイツなんなんだよ!? 盗賊の固有スキルかなんかなのか!? 怯えるオレに、リアが「まったく、しょうがないヤツー」とため息をつく。
ん? ステラがなんかもじもじしてる。トイレ?
「ルイさんも、そのスーツ、その、とっても素敵です……」
ちょっとうつむきがちに言うステラ。おお、カワイイ! 前に王城に着てったヤツだけど、さすがにえらい時間かけて女性陣に選んでもらっただけあって、評判は上々だな。
「ルイはこれで口さえ開かなければ、そこそこイケてるんだけどねぇ……」
オマエがそれを言うか! それはこっちのセリフだ!
ニラみあうオレたちに、おろおろしながらステラが言う。
「そ、そろそろ中に入りませんか?」
「あ、そうだね。いつまでもこんなバカ相手にしてられないし」
「おい! 今日はオレを祝うんじゃなかったのかよ!」
「え~、そんなの口実に決まってんじゃん。ルイはオマケだよ、オ・マ・ケ」
腹立つなコイツ! 言いたい事を言うと、リアが先頭きって店内に入っていく。困り顔で笑うステラといっしょに、オレも後に続いた。




