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サイドストーリー  中央ギルドのステラさん 3






 二十八階の岩を除去するクエストをこなしたのはいいものの、岩の向こうの冒険者たちをびっくりさせてしまったステラさん。ただ一人、震えながらも声をかけてきた女の子の次のセリフを緊張の面持ちで待っています。また泣かせてしまうのではないか……そういう展開に幾度も出くわしてきただけに、ステラさんの肩も徐々に下がっていきます。そんな彼女の耳に、槍兵の女の子のハスキーな声が入ってきました。

「あ、ありがとうございました……!」

「え……?」

 小さいながらもしっかりしたその言葉に、ステラさんの口から思わず気の抜けた声が漏れてしまいました。女の子は、恐る恐るといった様子でステラさんの顔をのぞきこんで話を続けます。

「みんな、こっち側まで回りこむのは大変だったらしいんです……。岩掃除のクエストは労力と報酬が釣り合ってないって誰もやろうとしないので……」

 確かにその通りでした。岩の除去というのは、そんなに簡単にできる作業ではありません。相当の筋力を持つ職業やレベルのプレイヤーでなければ大変なのです。例えばレベル32の斧兵のステラさんのような。女の子はペコリと思いっきり頭を下げました。

「だから、道を開けてくれて本当にありがとうございます……!」

「そ、そんな……! 頭を上げてください……!」

「そ、それでは、失礼します……!」

 そう言うと、女の子はもう一度ペコリと頭を下げて向こうへと駆け出していきました。声をかけようとしたステラさんでしたが、とっさには言葉が出ず、その間に女の子の背中はみるみる小さくなっていきました。結局声をかけられなかったステラさんは、複雑な表情を浮かべながら斧を持ち上げ作業の続きに取りかかるのでした。岩を砕く音のせいか、はたまた先ほどこの場から逃げ出した冒険者たちから話を聞いたのでしょうか、その後作業が終わるまで、この場に近づいてくる者はいませんでした。




 そんな調子でひとり岩掃除の作業を終えたステラさん、帰り道も特に苦労はなくギルドへと戻ってきました。受付に向かうと、無愛想なおじさんがステラさんに気づき、受付の奥から袋を取り出してきました。さっそく報告を行います。

「クエスト、終わりました……」

「ああ、そうか」

 ニコリともせずに応じると、おじさんは袋から銀貨を三枚取り出してステラさんに手渡しました。

「まずは300リルだ。この後役人がチェックしたら残りの500リルも渡す。次のクエストの時には渡せるはずだ」

「はい、ありがとうございます……」

 軽く頭を下げると、ステラさんは次のクエストを選び、言葉少なにギルドを後にしました。

 ギルドを出たステラさんは、真っ直ぐに家へと向かいました。お腹がすいたので、露店の焼き鳥を食べたいと思いましたが、この格好ではさすがにお店に寄るのははばかられます。後ろ髪を引かれながら、ステラさんは家路を急ぐのでした。














 岩掃除のクエストを終えてから数日後。ステラさんは再びクエストのためにギルドへと向かっていました。王国最古の歴史と最大の規模を持つ中央ギルド、そのメンバーも一定の敬意を払われる事が多いのですが、ステラさんはその例外なのでしょう。いつもの事ではありますが、道行く人たちの視線は冷たいものでした。右に左にと、避けるように道をゆずる人々に頭を下げながら、ステラさんは歩を進めます。

 ギルドに到着したステラさん、メンバーから声をかけられる事もなく、正門の大きな扉をくぐって中へと入ります。無愛想なおじさんの受付へと向かうと、並んでいた人たちがいつものように彼女に場所をゆずり、逃げるようにどこかへと行ってしまいます。申し訳なさそうにしながら、受付のおじさんに話しかけるステラさん。

「こ、こんにちは……」

「ああ」

「今日のクエストなんですが……」

「ああ、オオカミの毛皮集めだったな。二十六階ゲートを使え」

「はい、ありがとうございます……」

「それと、この前のクエストの残りの500リルだ。帰りに渡したほうがいいか?」

「はい、それでお願いします……」

「わかった。役人が驚いてたぞ、よくこんなに大きくキレイに道を開けたもんだってな」

「そ、そうですか……」

 少し恥ずかしそうにうつむくステラさん。そのままクエストに向かおうとした彼女に、おじさんが声をかけました。

「待て、もうひとつ渡すものがある」

「はい、何でしょう……」

「シティギルドの冒険者からの手紙だ。何でも感謝状らしい。宛先の名前がないんだが、どうやらお前さん宛てのものらしい。これは今渡しておく」

「感謝……? はい、ありがとうございます」

 他のギルドに感謝される心当たりがないステラさん、不思議に思いながらおじさんから手紙を受け取ります。挨拶してその場を離れ、手紙を見てみると、「二十八階の道を開けてくれた女斧兵さんへ」と書いてありました。確かにステラさん宛ての手紙のようです。ステラさんは恐る恐る、手紙を読んでみました。手紙にはびっしりと、かわいらしい字で文章が綴られていました。



 二十八階の道を開けてくれた女斧兵さんへ


 こんにちは、この前二十八階にいた槍兵の者です。セーラっていいます。この前は名前も名乗らず、お名前も聞かずに失礼な態度をとってしまってすみません。改めてお礼をさせてください。あの道はなかなか掃除してくれる人が現れなくて、困ってる人も多かったみたいなんです。斧兵さんのおかげで、たくさんの冒険者が助かりました。本当にありがとうございました。あたしはシティギルドですが、またお会いしたいなと思ってます。それでは、斧兵さんもがんばってくださいね。



 手紙を読み終えると、ステラさんはひとつ息をつきました。それから、その手紙を大事に、大事に包んで懐の袋へとしまいました。そして、ゲートの部屋へと歩いていくステラさん。その足取りは、ギルドの冒険者たちが見た事がないほどに軽やかなものでした。




 中央ギルドのステラさん  終





サイドストーリー、ご覧いただきありがとうございました。次回から本編に戻りますので、よろしくお願いします。

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