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1-8 女盗賊、駆ける






 そんなこんなで、今オレたちはダンジョンを突き進んでいるわけだが。

 なぜか、バトルにならない。わりとすぐ近くをモンスターが通り過ぎても、なんか全然気づかれないんだけど。オレらそんなに特別な回避行動とってるわけでもないのに。そもそもこのフロアは背の低い石ばっかりで、ちょっとした神殿とか宮殿の廃墟みたいな造りだから、隠れる場所なんてほとんどないんだが。

「すごいな、お前の隠密スキル」

「隠密スキル? 何それ?」

「全然敵に見つからないなって事」

「ああ、今スイッチオンしてるからね」

「スイッチオン?」

 何だよ、その世界観ガン無視した単語は!? もうこの世界わかんねえわ!

「ほら、これだよこれ」

 そう言うと、リアが片足を上げながら足元を指差す。そこには足輪がはめられていて、赤いボタンのようなものがついていた。

「これをカチッ、とね」

 おい、こんなお手軽システムなのかよ! だったら日常生活ももっと楽チンにしてくれよ!

「てわけで、十三階まではモンスターとはエンカウントしないと思うよ。私、超絶ハイスペック美少女盗賊だし」

「……まあ、そいつはありがたいわ」

 もう、あんまり考えないようにしよう……。考えたら負けだわこりゃ。






「さーて、この辺りだよー」

 結局、ここに来るまで一度も戦闘にはならなかったな。盗賊すげえわ。十三階は地面が土で、ところどころ沼や池っぽいものがある。いかにもトカゲが出そうなエリアだな。

「いきなり囲まれたりしないだろうな」

「大丈夫だよ、大体一、二匹でしか出てこないから」

「それなら心配ないな」

「むしろ、獲物がなかなか見つからない事を心配した方がいいんじゃない?」

 なるほどな。じゃあもう少し奥の方行ってみるか。



 そしてオレたちは無事ツインリザードを発見する事ができた。それも一度に四匹も。

「おい! 一匹か二匹で出るんじゃなかったのかよ!」

「あらら……」

 意外にもリアはマジな顔で一言こぼし、オレの前に歩み出た。そのままこちらを振り返らずにつぶやく。

「今さら言っても遅いんだけど……」

「うん?」 

「ケガさせちゃったら、ごめんね」

 おいおい、なんかトーンがスゲーマジなんですけど? ちょっと茶化せるムードじゃないぞ。ここはがんばって、ちょっといい事言うべきか?

「大丈夫さ、リアがオレを守ってくれるんだろ?」

 お? 今のセリフ、かっこよくね? オレはお前の事信じてるぜ的な?

「そうだね……うん、ルイは絶対に私が守る」

 いや、なんて言うか……シリアスすぎて空気が重いわ。これ、マジでがんばんないとヤバいんじゃね?

「ねえ、お願い」

 リアの瞳は、決意に満ちている。

「私の応援歌、歌って」

 だから、オレも。

「ああ、最高のヤツを聴かせてやるさ」

 リアの願いに、全力で応える事にした。




「それじゃ、いくよっ!」

 かけ声とともに、リアがトカゲの群れに突っ込んでいった。オレも竪琴を構える。

「いくぜ! オレの歌!」

 そう叫ぶや否やイントロを刻み始めるオレ。デデデデーデーデデデデデーデーデ……。

 ん? リアの速さが増したように思えるのは気のせいか? すでに先頭のツインリザードに肉薄している。さあ、ここからがオレの歌だ! かぜとなってー、だいちかけぬけー……。

 っておい! スゲえ剣さばきでトカゲの首二つともぶったぎったぞ! 速過ぎて動きがよくわかんねえ! コイツこんなに強かったのか!? ってヤベえ、一匹こっちに突進してきたぞ! はなつやいばー、やみをきりさくー……。

「行かせはしない!」

 うおぉぉぉい! 投げつけた短剣がキリモミしながらトカゲをぶち抜いたぞ! 飛び道具で一撃かよ! 「放つ刃」の威力おかしいだろ! コイツどんだけ化けモンなんだよ! リアー、うつくしきー、リアー、なぞのせんしー……。

「絶対に!」

 リアがツインリザードの二つの頭の間に剣をぶち込み、まるでバターでもカットするかのようにその体を容易く切り裂いていく。

「ルイは!」

 そのまま剣を引き抜き、オレの方に向かっていたトカゲに一気に迫る。

「私が守る!」

 空高く飛び上がったリアが着地と同時に剣を二振りすると、トカゲの頭が二つ、左右へと吹っ飛んでいった。

 全てが終わった後、そこには膝をつく少女と四体のトカゲの死体、そしてその光景を呆然と見つめるオレの姿があった。




「はあ、はあ……」

「あの……リアさん?」

 肩で息をするリアに、おそるおそる声をかける。

「アンタ、こんなに強かったんスか……?」

 リアは推定レベル30弱だから、たとえツインリザードが五匹や十匹出ようと負ける事はないんだが、四体のトカゲに全く何もさせずに瞬殺するとなると話は別だ。一体どうなってるんだ? 覚醒スキルとかか?

「それが、変なんだよねぇ……」

 オレの疑問をよそに、当のリア自身が首をひねっている。

「なんかめっちゃ体が動いちゃってさ」

「そうなん?」

「うん。ルイが竪琴弾き始めると、ちぎれるくらいに脚が動いて」

 確かに、イントロ弾いたらすごいスピードで敵に迫っていったもんな。あれは気のせいじゃなかったのか。

「剣を振るスピードもおかしかったし、私の筋力じゃ首を一発で刎ねるなんてできるわけないし」

 そうだよな。女の、しかも盗賊の力で首をはねるとか一体レベルいくつだよって話だ。

「何より投げナイフでツインリザードを一撃なんて、私のまわりで聞いた事ないよ」

 ホントだよ! 結局あれで全部倒せたって事じゃねーか! オレにはお前の方がよっぽど脅威だよ!

「まったく、お前はオレをおどかしすぎなんだよ……」

「だから、ホントはもっとピンチなはずだったんだって」

「ホントかよ。またからかっただけなんじゃねーの?」

「ウソじゃないってば。普通なら私が同時に相手にできるのはせいぜい三匹までだから、ルイは最低でも一匹は相手にしないといけなかったんだよ」

「ほう」

「そうなったらルイには戦闘能力ないんだから、ケガどころじゃ済まないかもしれなかったの」

「た、確かに……」

 レベル11で、しかも詩人のオレが13階のツインリザードとタイマン……ヤバい、わりとマジで死ぬかもしれない。

「それで、ルイは絶対守らなきゃと思って必死に戦ったんだよ」

「その結果がこれか……」

「ルイに何かあったら、彼にも合わせる顔がないし……」

「ん? 彼って?」

「え? ……あ! ううん、何でもない! こっちの話!」

 慌ててリアが首を横に振る。そういう否定の仕方されるとかえって気になるが、しかし別にコイツの男関係に興味などないのでほっておこう。リア充うぜえ。

「とにかく、危険な目に遭わせちゃってごめんね」

「いいよ、別に全然平気だったし」

「それと……」

 少しうつむいて頬を染める。

「応援してくれて、ありがと」

 ぐうっ!? なんかクッソかわいいんだけど? コイツ、オレがDTなの知っててからかってるのか?

「いや、それは元々オレの仕事だしな」

「そうだね」

 なんかだんだん変な空気になってきたんだけど? だまされねえぞ、どうせこれも罠だろ。危ない危ない、ここでオレも気がある風な態度見せたら、それこそ何言われるかわからんとこだった。話題変えないと。

「さ、さて、皮剥いていかないとな」

「え、あ、そうだね」

 一瞬ポカンとした後、リアがうなづく。おいおい、オレをからかうのに夢中になりすぎなんじゃないか?

「と言っても、オレは何にもできないんだけどな」

「大丈夫、私が全部やるから。ルイはなんか曲でも弾いててよ」

 そう言うとリアはさっそく皮剥きにとりかかる。てか、すげえ手際いいな。スーッとナイフを入れて、ビーッと剥いでいく。こりゃすぐ終わりそうだわ。せっかくだから、オレも一曲弾いてみるか。きーらーきーらーひーかーるー……。

「その歌、なんかかわいいね」

「そうだろ、子供の時によく聞いた曲だ」

「へー。なんだか私、のってきたよ」

 その言葉通り、リアの動きが速まっていく。てか、速ええ!? さっきより一段と速いぞ? そんなに速くさばけるもんなのかよ!



 トカゲの処理は『きらきら星』を四回くらいループしたところで片付いた。早っ! その後もオレたちは狩りを続け、十匹狩ったところでもう皮を持ち切れなくなってきたので帰ることにした。







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