3-9 ホントにレベル上がってんの?
「ねえ、私たちそろそろ次のクエスト選びたいんだけど……」
しばらくの間、浮かれて仕事どころじゃないといった様子のアンジェラだったが、リアの言葉に正気に返る。てか、リアのテンションが下限を振り切りそうだな……。いい加減立ち直れよ、別にレベルが低いからってバカにしたりしないからさ……。
「あら、ごめんなさい! さっそく持って来るわね!」
そう言うと、アンジェラが奥の方の棚から依頼書を引っ張り出してくる。あれ、依頼書ならそこにもう準備してあるんじゃ……?
「さあ、どれでも選んでちょうだい! パーティーランクももちろんBランクに昇格したから、これからはお仕事もよりどりみどりよ!」
ああ、Bランク向けの依頼を持ってきたのか。まあそりゃ、まさか今日オレらがBランクに上がるなんて夢にも思ってなかっただろうしねぇ……。どれどれ……。
「ウソ! 何この依頼! 3500リルだって!」
「こっちは4800リルだぞ!? どうなってんだよこれ!」
「こちらの依頼も、凄いです……」
あまりの高額報酬に驚きを隠せないオレたち。おいおい、ちょっと待てよ! オレ、ついこないだまでリアと二人でちまちまと300リルくらいの仕事ばっか受けてたんだぞ!?
「私たちも、ついにここまで来たんだねえ……」
なんかつい最近も聞いた気がするぞ、そのセリフ! てか、ペース速ええよ! いきなりBランクにはなるし、王様やらなんやらに目ぇつけられるし!
「本当、こんなに立派になっちゃって、シャルル君も浮かばれるわねぇ……」
アンジェラが遠い目でつぶやく。ああ、やっぱ死んじゃってるのね、シャルル君。てか、相変わらず成長した実感は皆無なんだけどな。
「さて、それでどうする?」
ひとしきり依頼書をわいわいと眺めた後、アンジェラから少し離れた所でみんなに聞いてみる。
「う~ん……。この展開は、さすがに想定外だったからねえ……」
「どうしましょう……」
いつもなら調子こいて真っ先に高額報酬に飛びつくはずのリアが、珍しく慎重に考えこむ。ま、さすがに今回はリアにとっても未知の領域だもんな。
「正直言って、オレまだホントにレベルアップしてんのか疑ってんだよな……」
「実を言うと、私もそうなんだ……」
「やっぱり皆さん、そう思いますよね……」
この件に関しては三人の見解が一致する。ま、普通の感覚の持ち主ならそうなるよな。
「だからよ、今回は四十階より少し手前くらいの階で様子見ないか? その辺なら多分、オレたちでもなんとかなるだろ? Cランク向けの依頼なんだし」
「そうだね。仮にレベルアップしてなかったとしても、ステラはレベル37なわけだし」
「私も、それに賛成です」
「よし、じゃあその方向で……」
三十六階から四十階の間の仕事を選ぶと決まったので、依頼書の山から条件に当てはまるものを物色していく。なるほど、このあたりになると2000リルを超える依頼が出始めるのか……。やがて、ステラが一枚の依頼書を差し出した。
「こちらなど、いかがでしょう……?」
「ん~、どれどれ……。三十七階で、キノコと薬草の採集……? いいじゃん、これ! 報酬も1800リルだし!」
「おお、いいじゃん」
石集めじゃないからオレも苦労しなくて済むしな! てかステラ、ホント仕事選びのセンスいいぜ! これからは仕事選びはステラの担当で!
「アンジェラ、今回はこれにするね~」
「はいはい、それじゃ……あら? せっかくBランクになったのに、このお仕事でいいの?」
「え、え~と……少し、肩慣らししたいかな~、なんて、思っちゃって……」
「あら、リアにしては珍しいわね。わかったわ、それじゃ手続きしておくわね」
「うん、よろしく……」
ずい分と歯切れの悪いしゃべりだったが、特に気にする風でもなくアンジェラが依頼書を受け取る。さすがにさっきの腕輪が信用できないとか言えないもんな……。アンジェラのチェックが信用できないって言ってるようなモンだし……。
「はい、OKよ。三日後に三十七階で、キノコと薬草の採集ね。しばらくぶりのクエストでしょうから、ゆっくり勘を取り戻すといいわ」
「うん、わかった。それじゃよろしくね」
そう言って、アンジェラにあいさつをする。そしてオレたちが振り返ると……。
「なんか、みんなオレらの事見てない……?」
「見てるね……」
「ど、どうしましょう……」
どんな風に話が広まったのか、受付のあたりには明らかに野次馬な連中で人だかりができていた。ウソだろ、もしかして、コイツら相手にしないといけないのかよ……。あれだけ大声でアンジェラがしゃべってたから、さすがにもう言い逃れできそうにもないし……。
それからしばらく、オレたちはギルドの連中に囲まれて事情の説明に追われた。




