3-1 やっと日常に帰ってきたよ……
よく晴れた日の昼下がり。オレとリアは、久しぶりに喫茶モンベールへと向かっていた。
王城での式典から二日。すっかりリフレッシュしたオレたちは、減らず口を叩きあいながら人ごみの中を歩いていく。
「しっかしリア、あの歩き方はなんだったんだよ。あれはケッサクだったぜ」
「うっさい! ルイのクセに! てゆーかマネすんな! こんな所で!」
リアの蹴りを、間一髪でかわす。ふっ、お前がオレのスネを狙ってる事はもうわかっているのだよ。
「ルイの方こそ、女の子にチヤホヤされてずい分鼻の下伸びてたよね~。その後みんなギュスターヴさんに持ってかれてさ。あの時の顔ったらなかったよ」
「あ、あれは別に、そんなんじゃねえよ」
「あんなの、考えなくたってわかるよねー。王様が褒めてたから、仕方なく相手してあげただけに決まってんじゃん」
あー、ムカつく! やっぱコイツは口開かない方が百倍いいわ!
「ひがんでんじゃねーよ。みんなステラの方ばっか見て、お前を相手にしてくれる奴がいなかったからってさ」
「はぁ!? 何言ってんのさ! 私リシュリュー様に声かけてもらったんですけどぉー!」
「そんなの、ステラのついでに決まってんだろ。ステラだけ口説いたらお前があまりにも惨めだから、仕方なく声かけてやったんだよ。それくらい察しろよ」
「違うもん! 私、ちゃんとナンパされたもん!」
イテ! イテテ! 背中叩くな! てかお前、そんなにナンパされたかったのかよ!
そんな調子でギャースカやってるうちに、モンベールの看板が見えてきた。あ、ステラが待ってる。オレらが駆け寄っていくと、ステラが笑顔で手を振ってきた。かわいい。
「おまたせ~」
「よう」
「こんにちは」
今日のステラは少し薄手のセーターを着てる。ちょっと暑くなってきたもんな。リアはいつもの短パンだから涼しそうだ。そういやジャケットは薄地になってるな。オレもぼちぼち夏物を用意しようかね……。
「それじゃ、入ろっか」
そう言うと、リアが先頭きって店内へと入っていく。オレたちも、その後に続いた。
店内はお昼時という事もあり、ずい分と混んでいる。相変わらずオシャレなカップルが多いが、それでもいつもの世界に戻ってきたなって感じがするぜ。もう感覚が大分マヒしてんな……。窓際は埋まっているので、店の真ん中あたりの席に通される。
「はぁ~、落ち着くねぇ~」
「本当、ほっとします……」
「なんかずい分久しぶりな感じがするよな」
モンベールには四日前に来たばっかなんだけどな。てか、あのクエストからまだ一週間しか経ってないのか……。なんだか遥か遠い日の事のように思えるよ……。
「ステラ、あの後ちゃんと家に帰れた?」
「はい、ウェインさんに送っていただきました」
「なんか話とかしたりした?」
「はい、クエストの時の話などを……」
そんな話をしながら、メニューを眺めていく。
「で、どうだった?」
「とても驚いていました……。Bランクのプレイヤーでさえ苦戦した敵と、一人で互角に渡り合うとは凄いとか……」
「あ~……」
やっぱそういう反応になるのね……。いや、ステラは確かにスゴいんだけどさ。リアがコップの水を飲みながら言う。
「冷蔵庫の水、スゴかったね。貴賓室の」
「ああ、あんなキンキンに冷えた水、久しぶりに飲んだよ」
「またぁ、なんでキミは飲んだ事もないのにそうやってミエを張りたがるのかねぇ……」
ミエじゃねーよ! と言いたかったが、あれは元の世界の話だったな。くっ、なんだかもどかしいぜ。
「一応メニューにもあるんですね、冷えたお水……」
「え、ホント?」
ステラの言葉に、オレとリアが同時にメニューを手に取りお品書きを探し始める。ほぼ同時に見つけたオレたちは、その金額に思わずうめき声を漏らした。
「さ、30リル……」
「ウソだろ……オレの食費何日分だよ……」
腹壊すまで飲んどけばよかったな、冷蔵庫の水。




