2-11 オレ(?)の兄ちゃんって、そんなに強かったの!?
晩餐会も後半戦なのか、楽隊の演奏なんかが始まっている。それに合わせて踊りだす人たちも増えてきてる。そんなお祭り気分の中、オレたちは軍人のナンバー2と3、チョイ悪オヤジのリシュリューさんと「剣聖」レナードさんの席におじゃましていた。
「だからな、嬢ちゃん。幼なじみポジってのは、相当がんばらないと大変なんだぜ」
「は、はぁ……」
隣では、リアがチョイ悪からレクチャーを受けている。おいおい、幼なじみってオレの事か? リアはリアで、そのレクチャーをカチコチになりながら聞いている。いつもなら癇癪起こして否定しそうなモンだが、さすがにナンバー2サマにはそんな事言えないみたいだ。そういや、ステラは式典で王様相手に思いっきり否定してたな……。オレ、そんなに問題外なのかよ……。
「ところでよ、ギュスターヴがあんま騒ぐモンだから、ちょいと調べてみたんだが」
チョイ悪がオレの方に向き直り声をかけてくる。まーた余計な事話さないでくれよ……?
「ルイ。お前さん、あのシャルルの弟だそうじゃねぇか」
その名を聞いて、リアが一瞬ぴくんとする。シャルル? 誰だそれ? と思ってたら、おお、久々に来たよ、例の記憶再生! そういや兄ちゃんがいるんだっけ、このルイってヤツ。でもディテールが思い出せないな。
「なんと、シャルル殿の弟君だったのですか! 言われてみれば、確かに面影があるような……」
え、ギュス様も知ってんの? てかそいつ、そんなにスゴいヤツだったの?
「あの~、皆さん兄を知ってるんすか……?」
「もちろんです! シャルル殿には調査隊にも何度か参加していただきましたから! 私も年が近かったので、仲よくさせてもらったものです」
「あ~、お前とは仲よかったな。ま、役に立つヤツだったからな、よく調査隊に呼びつけてこき使ってやったモンさ。なんせ槍の腕だけは抜群だったしな。このオレを差し置いて、槍兵で最もSランクに近い男とか言われてやがったもんな」
えええ――――っ!? 何ソレ!? メチャクチャスゴいじゃん! このオヤジより強かったのかよ! 軍のナンバー2なんだろ!? この人!
「私も何度も手合わせ願いましたが、結局五本に一本も取る事ができませんでした」
「バケモンだったよな、アイツ。オレも三本に一本が精一杯だったよ」
「リシュリュー卿が、ですか? それは私も手合わせしたいですな」
「ああそうだな、剣聖サマの練習相手にはちょうどいいんじゃないか? 今のお前さんとマトモにやりあえる奴なんて、テンプルの聖騎士サマくらいしかいないんだろ?」
「私としては、教会まで出向くよりもリシュリュー卿にお相手していただける方がありがたいんですがね」
「ハッ! 冗談キツいぜ! 十本に一本取れるかもあやしい相手となんて、誰がやるかよ」
おいおい、聞けば聞くほどヤバいヤツじゃないかよシャルル! あのギュス様が、五回戦って一回も勝てないレベル? 人間じゃねーだろ、それ! てか、剣聖様はマジで人間やめてるレベルなんだな……。
ん? リアの奴、なんで目がキラキラしてるんだ……? 小声で話しかける。
「なあ、オレの兄ちゃんってそんなにスゴい奴だったのか?」
「アンタ、自分のお兄さんの事ぐらいちゃんと知っておきなさいよ。どんだけ兄弟仲悪かったのさ」
そうは言ってもさ……。そんなに進んで思い出すような話でもなかったし。てか、才能全部そっちに持ってかれちまってるじゃねーか! 少しはこのルイって奴にも才能残してやってくれよ!
そんな調子でしばらくシャルルって奴の話が続いたが、やがてチョイ悪がしんみりした調子で一言つぶやいた。
「それだけに、あの事件は残念だったな……」
その一言に、ギュス様と、そしてリアが口を閉じる。ん? なんかあったのか? いや、この流れ、普通に想像はつくけど……。
「すまんなルイ、あの件についてはオレにも責任がある。この場を借りて謝らせてくれ」
「い、いえ……」
こんな所で、それも事情もわからないオレに謝られても困るんだけど……。なんせ事情がよくわからないから、うかつに「気にしないで」とか言えないし。オレに頭を下げるリシュリューさんとギュスターヴさんに、レナードさんが言う。
「二人とも、その辺にしておきなさい。ルイ君も困っているようだし」
た、助かった! 剣聖様、恩に着ます! こんなエラい人たちに頭下げられたら、生きた心地しないって!
「そ、そろそろ帰らないか? ほら、あんまり暗くなったらあれだろ? 女の子の夜道は心配だし!」
「そ、そうだね! そろそろ帰ろうか!」
「そ、そうですね、そうしましょう!」
引き上げるにはこのあたりがいいタイミングだと判断したオレは、そろそろ帰ろうと提案する。どうやらみんなも同じ気持ちだったようだ。
「そ、それではオレたちはこの辺で失礼しようと思います」
「ああ、そうか。今日はおつかれさん。女の事なら、いつでも聞きに来いよ」
「君たちとまた会える時を楽しみにしているよ」
「皆さん、おつかれさまでした」
三者三様の返事が返ってくる。やっぱ個性的な人たちが多いのね、エラくなると……。
「ああ、そうそう」
あいさつをしてテーブルを離れようとしたオレに、チョイ悪が近づいて声をかける。
「お前、いつでもオレを頼っていいからな。調査隊か文化科学庁の受付にメダル見せれば、いつでも話通るようにしとくからよ」
「は、はい、ありがとうございまっす!」
「おう、それじゃまたな!」
そう言うと、右手を挙げて笑いながら、別のテーブルまで行ってしまった。これからナンパにでも行くのか……?
しっかし、いきなりすっげえコネができちまったぜ……。さっきの言葉、ホントに真に受けていいのか……?
周りを見れば、どうやら晩餐会もそろそろ終盤に近づいてきたようだ。オレたちの試練も、ようやく終わりを迎えようとしていた。




