2-6 晩餐会で一曲披露!
「ほう、君は中央ギルドで働いてたのかね?」
「は、はい……」
皇太子様の質問に、顔を強ばらせながらも丁寧に受け答えするステラ。うん、こうして見てるとホントどっかのお姫様みたいだ。まったく、一国の王族相手に堂々としたモンだよ。出会った頃からは想像もつかんね……。
オレもこの空気に慣れてきたのか、ようやく食い物がノドを通るようになってきた。てかスゲえよ、このステーキ……。牛肉のステーキとか、あっちでも滅多に食った事ないもんな。しかも、塩コショウが利いてる! コショウマジうめえ! 褒美くれるんだったら、勲章とかいらないからコショウを一袋くれよ!
リアもようやくこっちの世界へ戻ってきたみたいだ。よっぽど珍しいんだろうか、巻き貝の中身をフォークでツンツンしてる。コイツ、マナーはいったいどこに行った……。
まったく、豪勢な料理だよ。スープも味がしっかりしてるし、焼き魚とかもあるし。オムレツも玉子いっぱい使ってるし。てか、バターや玉子をケチってないだけでこんなにも違うもんなんだな……。今のうちに、食えるだけ食っとかないと……。
メシを食うのに必死なオレに、だが王様は容赦なく声をかけてきた。
「ねえルイ君! 君、一曲歌ってよ!」
「ぶっ!?」
なんだよ王様! やぶからぼうに! なんの脈絡もなくそう言う事言うのやめてくれよ!
「いや王様、オレの歌なんて、食事中に聴くようなモンじゃないっすよ……」
「またまた~。そう謙遜しないで。皆さ~ん、これからルイ君が、一曲披露してくれるそうですよ~!」
おいコラ王様! いきなりムチャ振りすぎんだろ! 謙遜なんかしてねえよ! てか、何勝手にみんなに聴かせるみたいな話にしてんだよ! そういうのはもっと打ち合わせとかしてやるモンだろ!
とは言うものの、王様の妄言を聞いたお客さんたちが、みんなしてこっちを見てる。う……、なんだよ、その妙に期待のこもった目は……。ウソ、この空気で歌わなきゃなんないの? ムダにハードル上げるの、マジでやめてくれよ……。仕方ない、やるしかないか……。
「じゃ、じゃあ王様、なんかリクエストとかありますか?」
「う~ん、そうだな~」
眉間にしわを寄せると、腕を組んでうんうんと首をひねる王様。どうでもいいけどこの王様、精神年齢低すぎね?
やがて、ひらめいたとばかりに王様が手のひらをポンと打つ。
「そうだ、ラブソング! ラブソングにしよう! ルイ君、そういうのは歌える?」
「はい、それなら結構得意っすよ」
「ホント!? よかった~。じゃあ、うちのマリに向けて歌ってあげてよ。よかったね~マリちゃん、ルイ君がマリちゃんのために歌ってくれるんだって~」
「お、お父様!? 何を勝手な事をおっしゃいますの!?」
だから勝手に話進めんなよ! 王女様も顔真っ赤にして困ってんじゃねーか!
「はいは~い、皆さん注目~。これからルイ君が、うちのマリのために熱々のラブソングを歌ってくれま~す。皆さん、うっかりルイ君に惚れて横取りしないでくださいね~?」
いいかげんにしろジジイ! それじゃオレと王女様がもう公認の仲みたいじゃねーか! 逆恨みされて後ろから刺されでもしたらどうしてくれんだよ!
そんなオレの内心とは裏腹に、会場からは期待の目が注がれる。てか、ざっと二百人はいるんじゃないか……? マジかよ……学祭のライブの比じゃねえぞ……。し、仕方ねえ! いっちょやってやるか!
王様のテーブルから少し離れた所にイスを置いてもらうと、王女様の方を向いて竪琴を構える。ほとんどのお客さんには背を向ける格好になるが、王女様のために歌えって言われたんだから仕方ない。てか、二百人の客を見ないで済むのはいいんだけど、後ろから見られるってのもなんかそれはそれで不安が……。
王女様はと言うと、少し恥ずかしそうにうつむいていらっしゃる。カ、カワイイ! その様子を冷やかしてるっぽい王様の態度は超ムカつくけどな! てか絶対おもしろがってんだろアンタ!
ええい、あのジジイの事はもう忘れろ! 集中だ、集中……。曲はやっぱ、日本が生んだスーパーバンド・シスターヤングメンでいくか。リアたちにも評判いいし。
一つせき払いをすると、王女様に曲目を説明する。
「えーと、それでは、シスターヤングメンの名曲、『クレセントフィールド』を歌いたいと思います。心情を月の満ち欠けに例えた歌です。それじゃ、歌います……」
王女様が控えめに拍手をし、続いて王様たちも拍手する。さて、それじゃ……。
パチパチパチパチパチパチ!
うおおおぉぉっ!? ビックリした! 後ろからめっちゃ拍手が聞こえてくるよ! そういや後ろにも客がいるんだった! 二百人以上!
緊張に手元が少しブルってくるが、意を決してイントロを弾き始める。ジャーンジャジャジャジャジャジャジャーン……。
「まあ……」
「おお……」
「……」
イントロを聴くや、王妃様に王様、そして王女様が三者三様のリアクションを見せる。うん、ここでもツカミはオッケーらしいな。さすがシスヤンだぜ。オレとしては、地味にピピン王子様が騒ぎ出さないか不安で仕方ないんだが……。どう見ても四歳かそこらのガキンチョだし……。
さて、ここからAメロ、と……。うんうん、オレの声もちゃんと出てるな。この調子でBメロ、と……。
「欠けた僕の、こっころ~。まるで三日月の、よっおに~」
「……素敵な歌詞……」
おお、王女様が口元を両手で押さえてらっしゃる! マジでカワイイ! 惚れそう! ま、素敵なのは歌詞であって、オレではないんだけどな! さあ、盛り上がるパートを経て、いよいよサビだ!
「どーこーまでーもーひろーがるぅー、このーひーろーいーだーいちぃ~」
「…………!」
テンションを増す竪琴の伴奏と、オレの渾身の熱唱に、声もなく驚く王様ファミリー。あれ、王女様、ちょっと目がうるうるじゃないか? もしかしてマジでもう落ちてる? 王女様のハートまで打ち抜くとか、マジでスゲえなシスターヤングメン!
その後二番も歌い、無事に一曲歌い終わる。ふう、王女様に気に入ってもらえたようでよかったぜ……。竪琴を下ろして一息つく。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
「おおおおおおおおお!」
「きゃあああああああああああ!」
「ブラヴォォォォォォォ!」
うおおぉぉぉっ!? なんじゃこの大声援はぁ!? 驚いて振り向くと、会場のお偉いさんたちが……めっちゃスタンディングオベーションしてる!? ウソだろ、マジか!? オレら学祭の時、まともに聴いてたの他のバンド仲間くらいだったんだぞ!?
「ル、ルイ様、私のためにありがとうございます……」
「えっ、ええ!? ど、どういたしまして!」
王女様の言葉に、動転ぎみに答える。てか、「様」とかおそれ多すぎるからやめて!
「スゴい! スゴいよルイ君! ウワサ以上だよ! うんうん、これなら今すぐにでもマリの婿になってほしいよ!」
「まったくですな、父上! ルイ君、私の事も『お義兄さん』と呼んでくれても構わないよ?」
「お、お父様!? いいかげんに……って、お兄様まで!?」
そのネタはもういいよ! マジで危ないから! てか、皇太子様まで乗っかってくるのかよ! この人もやっぱこのおっさんの息子だな! 間違いなく!
会場もまだ興奮冷めやらぬといった様子で、あちこちから「まさかこれほどとは……」とか「陛下がお気に召されるのもうなずける……」とか聞こえてくる。いやマジで、これ以上持ち上げるのはやめてくれよ……。




