2-5 王様ファミリーとご対面
上流階級の皆さんの拍手と視線を一身に浴びながら、なんとか王様の下までたどりついたオレたち。リアが転ばなかったのは、もはや奇跡だな……。
冷や汗でぐっしょりのオレたちに、王様が渋い声で手招きする。
「ようこそみんな。さあ、そこ空いてるから、座って座って」
言われるままに席につく。テーブルにはなんかデカい鳥の丸焼きやら酒やらいろんな食い物が置かれている。スゲぇな、王様のパーティー……。
さっきまであまりの緊張でわからなかったが、この会場もメチャクチャゴージャスだ。てか、テレビで見た事あるよオレ、こういう所。豪華客船のホールとか、映画のシーンで出てくる城の舞踏会とか。金持ちってなんでシャンデリア好きなんだろうな?
オレたちが入ってきた扉から見て右側には、うねうね曲がった階段とちょっとしたコンサートができそうな踊り場がある。ああ、多分あそこからお姫様とかが現れて降りてくるんだろ? ホント映画とマンガくらいでしか見た事ない造りだわ。
テーブルには、王様の他に、多分嫁さんだろう派手なメイクのおばさんと、二十代半ばくらいのカップル、二十歳手前くらいの女の子が座っていた。あ、夫婦の間にちっちゃい子がちょこんと座ってる。
「なあリア、お前あの人たち誰だか知って……」
そう言って右隣を見たオレだったが、質問を諦めた。だってコイツ、目がぐるぐる回ってんだもん。もう酔っ払ってんのかよ?
うん、これはしばらく使い物にならないね。さっさと切り替えて、左隣のステラに聞いてみる。
「ステラはわかる?」
「はい、陛下のお隣にいらっしゃるのが王妃様、あちらにいらっしゃるのがフィリップ皇太子殿下ご夫妻とピピン王子様、そしてあちらの方がマリ王女様です」
「へー、サンキュ」
そうか、あのお姉さんは王女様か……。なんとも控えめそうなお姫様だぜ。金髪を結い上げてるから、キレイなお顔がよく見える。もっとも、美人さで言えばうちのステラさんも負けちゃいないぜ。王妃様と皇太子様は……ま、別にいいか。
「ねえ、ルイ君!」
「は、はい!? な、なんでございますでしょう!?」
急に王様にデカい声で呼ばれ、慌てて怪しげな敬語で返す。この人、マイペース過ぎんだよ! びっくりするな、もう!
「せっかくだから、僕のファミリーたちにも自己紹介してあげてよ! うちのマリちゃんも、ルイ君の事気になってるみたいだしさ!」
「お、お父様!? 誤解を招くようなご発言はお控えください!」
王女様が顔を赤らめて抗議する。か、カワイイぜ……。てか、この子オレに興味あんの? ヤベえ、オレ逆タマに乗れそうじゃん!
ん? そういや逆タマって男の場合に使う言葉だよな? さっきリアが逆タマとか連呼してたけど、女の場合は普通に玉の輿じゃん。コイツ、意外とアホなのか? ……ま、今のコイツにはそんな事考える余裕なんてなさそうだけど。
「じゃあ決まり! それじゃマリちゃんのリクエストに応えて、ルイ君からどうぞ!」
「お、お父様!?」
ちょっ、だから自由すぎんだろこの王様! 王女様、チョー困ってんじゃん! わかったよ、やりますよ! 立ち上がって背筋を伸ばす。
「こ、こんばんは! ルイって言います! 職業は、し、詩人です!」
そこまで言って、早くもしゃべる内容に詰まるオレ。ヤ、ヤバい! 皇太子夫妻が、めっちゃ怪訝そうに見てる! だ、誰か助けて! そんなオレに、王女様が質問してくる。
「あの、ルイ様はどちらのギルドの方なんですか?」
「は、はい! シティギルドです! リアとステラも、同じギルドの仲間です!」
ナ、ナイス! 助かった! 助け舟出してくれるとか、王女様マジで天使すぎる! 最後は「これからよろしくお願いします!」とかわけわからん事言って席につく。「これからよろしく」って、もうこんな所に呼ばれる事はねえよ……。
ともあれなんとか無事に自己紹介を終え、コップの中のものを一気に飲み干す。って、ぐへっ!? これ白ワインじゃねーか! ヤバい、目が……。
密かにダメージを受けるオレをよそに、ステラが自己紹介を始める。むむう、見た目といい、話し方といい、やや緊張ぎみではあるがこの場にマッチしているぜ……。そういやあんま詳しく聞いた事なかったっけど、実はステラさんって結構いいとこの出だったりするのか……?
ステラの自己紹介も終わり、最後はリアなんだが……おーい? 生きてるかー? 今までの流れを見てたんだかどうなんだか、なんかもう頭がフラフラしてきてる。こりゃダメだな、もう……。
「おい! 次、お前の番だぞ!」
「ふぇっ!? 何、何が?」
「何がじゃねぇよ。自己紹介だよ、もうオレとステラは終わったぞ」
「えーっ!? そんな、急に言われてもぉ……」
「急じゃねーよ! さっきからやってたろうが! ホラ、皆さんを待たせんな!」
「ひッ!? ご、ごめんなさい!」
皆さん、と言われて王様たちの視線に気づき、狼狽を露わにするリア。あー、コイツは間違っても貴族の出って事はないわ……。
慌てて立ち上がると、直立不動で斜め上を見上げる。せっかくのドレスも台無しだな……。
「リ、リアです! 十六歳です! シティギルドで盗賊やってます! で、でも、ホントに泥棒した事はありません! 彼氏はいません! でも、別に寂しくはないです!」
……。なんか、言わなくていい事や、どーでもいい情報が入ってる……。ほら、皇太子様や王女様がクスクス笑って……って、王様、アンタ笑いすぎだよ! いくらなんでもデリカシーってモンがあるだろ!
……あ、王妃様が笑顔で王様の腕つねってる……。なんか超痛そう……。王様、めっちゃ頭下げてるし。そうか、この国で一番エラいの、王妃様なんだな……。
リアはと言えば、致命的な失言だけはする事なく、なんとか自己紹介を終える事ができた。てか、マジで命落としかねんからな……。
極度の緊張で早くも目まいすら覚えるが、晩餐会という名の試練はまだ始まったばかりだ。




