2-4 いよいよ、晩餐会!
窓の向こうは夕日で赤く染まり、部屋にはランプが灯される。話のネタも尽きたオレたちは、栗毛のメイドさんが見守る中、無言で晩餐会の迎えが来るのを待つ。
リアはさっきまで冷蔵庫を覗いたり棚の中の食器やらなにやらをチェックしたりとちょろちょろしていたが、それも飽きたのか今はテーブルの上を指でなぞっている。またしょうこりもなく、人類には理解不能な絵でも描いてるんだろうか。ステラはうつむいてずっと黙ってる。やっぱ緊張してるのかね。
やる事も特になかったので二人の様子をしばらく観察していると、力強いノック音が部屋に響いた。来た! 緊張のゲージが一気に上昇する。
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのは、今日ずっとお世話になっている騎士のウェインさんだった。彼も晩餐会に出るのか、立派な服に着替えている。王国の騎士としか自己紹介してなかったけど、もしかしてこの人も名のある貴族なのかね……。そんな、どう見ても庶民とは思えない容貌のイケメン騎士が、オレたちにうやうやしく一礼する。
「皆様、お待たせいたしました。これより晩餐会場へとご案内いたします」
その言葉に、オレたちは互いの顔を見合わせる。その表情は皆一様に、「ついに来たか……」って感じに満ち満ちていた。ヤベえ、また緊張してきたぜ……。てか、オレは今日いったい何度このイヤな冷や汗をかいてるんだ?
オレたちが返事すると、ウェインさんと、いっしょに来た二人のメイドさんがオレたちを会場へと案内していく。ああ、緊張する……。オレもそうだが、特にリアがなんかやらかさないかと内心気が気でない。
チラリと見ると、あ、よかった、まだロボット歩きにはなってないわ。しかし履き慣れないハイヒールなんか履いてるせいか、足元がいかにも危なっかしい。ああ、こりゃきっと転ぶな、大事な場面で……。
とりあえず、心の中で転倒フラグが折れる事を願っておく。
結構な幅のある渡り廊下を通り、隣の豪華な建物の奥へと進んでいく。なるほど、会場は別の建物なのね。でもさっきから警備の人しかいなくて、なんかすっごい不安なんだけど……。
ひたすら無言のオレたちに、緊張をほぐそうと思ったのかウェインさんが笑顔で語りかけてくる。
「もう少しで会場です。国王陛下も、皆様の武勇伝を楽しみに待っておられますよ」
だからやめてくれよそういうの! 頼むから! 武勇伝なんてありゃしねえよ! 特にオレの場合は!
見ろ! リアの歩き方が怪しくなってきたじゃねーか! ステラも顔色真っ青だよ!
しかし無情にも、角を曲がるとウェインさんが通路の前方を指し示す。
「あちらが入り口になります。今、扉を開けるよう伝えてきますね」
そう言って、オレたちを残し扉へと向かうイケメン騎士。てか、デカいよ! なんだよあの扉! なんか王家の紋章っぽい絵が彫られてるし! てか、オレたちを最悪のコンディションに叩きこんだ上にさっさといなくなるんじゃねえ!
とりあえずメイドさんに連れられて、扉までやってくる。やがて、中に入っていたウェインさんが扉を少しだけ開いて出てきた。なんかめっちゃザワザワしてるのが聞こえてくるんだけど、気のせいか……?
「お待たせいたしました。これから扉が開きますので、私に続いて入ってください」
了解っす。てか、別にちゃっちゃと入っちゃえばいいじゃんと思うんだが、高貴な方々ってのはそういうのこだわるのかね。
そんな事を思いつつ待っていると、大きな扉がゆっくりと開いていった。と、扉の脇に立っていたおっさんが大声を張り上げる。
「皆様、大変お待たせいたしました! 我がレムール王国を救った英雄ルイと、そのご一行です! 皆様、盛大な拍手を!」
な、なんじゃこりゃあああぁぁぁ! めっちゃ人いるよ! みんな拍手してるし! 何コレ!? オレたち、この中を入ってくの!?
パパーン! パン! パン! パパーン!
だからファンファーレとかいらねえよ! 余計入りにくいじゃねーか! あ、ウェインさん、ちょっと待って!
扉の向こうには、すでに立派な服やドレスを着た人たちが大勢集まってた。真ん中の道は開いていて、赤いカーペットが敷かれたその先には王様の座るテーブルがある。もしかして、あそこまで行くのか!? カンベンしてくれよ、いきなりハードル高すぎだろ! オレらは端っこでひっそりうまい料理食っていたいんだよ……。
リアは……もう隣を見るまでもないな。ドレスにハイヒールなのもあって、もはや前に進めている事が不思議なレベルだ。これ、完全に晒し者だろ……。
意外なのがステラで、ヒールの高い靴を履いての歩き方がとてもサマになっている。なんか中年の貴族どもが好色な目で見ている気もするが、正直オレもそれどころじゃない。あーあ、人の気も知らないで、王様お気楽に手ぇ振ってるよ……。
扉から王様のテーブルまではおよそ50メートル。オレの人生の中で、これが最も長い50メートルとなった。




