2-3 ドレスに着替え!
「はぁ……、いよいよか……」
日も傾き、空が少しずつ赤く染まっていくのを、オレは貴賓室のテーブルに頬杖つきながらぼんやり眺めていた。
昼食が終わってから、オレたちは再び部屋でぐったりとしていたわけだが、しばらくしてメイドさんが何人かやってきた。いったい何かと思ったが、衣装の着替えを手伝いに来たらしい。
と言っても、オレはこのまま特に着替える必要はないのでそのまま部屋に居残り、リアとステラは持参した衣装を持って着替えのために部屋から出て行く。多分ドレスルームみたいな所に行くんだろう。大変だな、女ってのは。
しっかし、こんな立派な部屋に一人残されると、いよいよ落ち着かないぜ……。まあ、部屋には栗毛のメイドさんもいるんだが、てか、それはそれで気まずいモノがあるんだが……。はぁ、あいつら早く戻ってこないかな……。
そんな感じで結構長い事待ってると、後ろからノックの音が聞こえた。そっちに振り返ると同時にドアが開かれる。
「じゃーん。どう?」
「おお、いいじゃん」
そこに立っていたのは、肩が大胆に露出した、薄い水色のドレスを身にまとったリアだった。なんだかピアノの発表会にでも出るみたいなカッコだな。頭のカチューシャが女の子っぽくてかわいらしい。コイツ、こういう所は結構気合入れるんだよな……。
不覚にもちょっとかわいいかも、と思ってしまったオレだったが、そこはコイツの事、見事にだいなしにしてくれるような一言を発してくれる。
「これで私も、逆タマに乗れるかな?」
「やっぱり狙ってたのかよ」
式典であんなザマだったってのに、いいタマしてんな、コイツは。
「相手はちゃんと選べよ、ヘタすると援交に見えかねないから」
「エンコー?」
「あんま年寄りとくっつくなよって事」
「ふーん、じゃあギュス様ならおっけーだね」
「なんだ、お前ああいうのが趣味なのかよ」
「おや~? もしかしてルイ、ちょっと妬いてる~?」
ニヤニヤしながらリアがこっちに寄って来る。ちっ、なんかムカつくな。
「いんや、全然」
痛っっ! バカ、そんな尖った靴でスネ蹴んなよ! クソ、この男女! しかもコイツ、頭の後ろで手ぇ組みながらあっち向いて口笛吹いてやがる! コイツホントムカつくな!
にらみつけるオレを完全にスルーし、リアがオレの向かい側の席に座る。てか、もうすっかりいつもの調子に戻ってんな。
「ステラはどんな風になるんだろうね~」
こっちも無視で返したい所だが、確かに気になるな、ステラのドレス姿。お返しとばかりに言ってやった。
「そうだな、大層サマになるだろうな。リアみたいなペチャンコのチンチクリンと違って」
「はぁ!? 私のどこがペチャンコのチンチクリンなのさ!?」
「おいおい、ドレスで暴れんじゃねーぞ。さらに『ガサツ』まで追加されたいか?」
「ぐっ……ルイのくせに……」
そのまま、オレたちはテーブルをはさんで向かい合い、しばしにらみ合いを続けるのだった。
「ステラ、遅いね……」
にらみ合いにも飽きたのか、リアが話しかけてくる。あーあ、オレからは見えないけど、姿勢から察するにコイツ今絶対テーブルの下で足ぶらぶらさせてるよ……。
「そうだな……」
気のない風な返事をするが、内心オレは楽しみでしょうがなかったりする。どんなだろうな、ステラのドレス……。
そんな事を思っていると、ドアがノックされた。お、ステラかな? オレとリアの視線がドアへと向かう。
「失礼します……」
控えめな言葉とともにドアが開く。
そしてメイドさんを伴い部屋に入ってきたのは……だ、誰だこの人ぉ! 金髪を結い上げた、薄緑色のドレス姿の超美人なお姉さんなんだけど! 誰、この貴族のお姉さん!?
てか、メチャクチャ乳デケぇ! なんかうつむきがちにもじもじしてるし! もしかしてファンか!? ファンなのか!? もう貴族のお姉さんのファンがつくほど、オレって有名人なのか!?
「あ、あの、私どこか変ですか……?」
「いえ! 滅相もない!」
慌ててクビを振るオレ。てか、オレはどうすればいいの? リアに聞こうにも、さっきからコイツはアホみたいに大口開けっ放しだし。
とまどうオレに、お姉さんが不安げな視線を向ける。
「あの、ルイさん……!?」
「はい! オレになんの用すか!?」
「どうしたんですか? その、なんだかさっきまでと様子が違いますよ……?」
いや、オレはいたっていつも通り……ん? さっきまで? 式典かどこかでお会いしましたっけ? てか、そういやそのお顔といい、デカ乳といい、よく見知っているような……?
「……もしかして、ステラさん?」
「え? そうですよ? やっぱりルイさん、どこか具合が悪いんじゃないですか……?」
マ、マジか! ステラって、髪アップにするとこんなに美人になるのか! いや、いつも美人だけど! あれか、普段はツインテールだからなおさらギャップが大きいのか! メチャメチャ大人のお姉さんじゃん!
「てゆーかルイ、誰だと思ってたのさ……」
呆れたようにリアが言う。なんだよ、お前気づいてたのかよ! てかどう見たって別人だろコレ!
「うっせ! リアだって大口開けてポカンとしてただろ!」
「あれはステラが別人みたいだったからびっくりしてただけ! てゆーか、大口とか開けてない!」
そう言うと、プイっとオレから顔をそむける。あーあ、コイツなら何着たって見間違える事もないってのによ……。
そんなオレには構わず、リアはさっそくステラを褒めまくり始める。
「スゴいよステラ! 超キレイ! どっかの貴族のお嬢様みたい!」
「そんな事ありません……。リアさんこそ、とっても似合ってますよ?」
「えへへ~、ありがと。でも本当、ステラなら貴族からプロポーズされてもおかしくないよ?」
「もう、からかうのはやめてください……」
「ホントだって! さっきだって王様に口説かれてたじゃん!」
なんだ、オマエあれ聞こえてたのかよ! てっきりパニくってなんにも耳に入ってないと思ってたよ! ベタ褒めするリアに、ステラの顔が赤くなる。
「ま、立ち話もなんだし、ステラも座って座って!」
そう言ってテーブルの空いた席を勧める。こうして見ると、外見だけじゃなくなんか席につく動作すら優雅に見えてくるな……。ヤバい、うちのパーティー内ですら格差が生まれつつある……。
三人そろった所で、メイドさんの注いでくれた水を片手にまた雑談を始める。てか、しゃべってないと気が紛れねえ……。刻一刻と迫りつつある晩餐会に、オレのストレスもその水位を徐々に増していくのであった。




