2-2 さすがお城の食事!
「ホント、落ち着かないな……」
久しぶりの冷たい水をすすりながら、オレはぼんやりと部屋の中を眺めた。
日は高く昇り、窓から差しこむ日の光が屋内を明るく照らしている。これだけ日が入ってくるとは、さすが貴賓室。リアもノドが乾いたのか、起き上がってコップに口をつけている。
さっきまで部屋についていたメイドさんは、昼食の準備のために部屋を出て行った。いや、ずっとメイドさんに見られているのも緊張したけど、オレたちだけ部屋に残されるとそれはそれで気まずいな……。
三人、無言で水を飲んでいると、重厚な造りのドアをノックする音が聞こえてきた。
「失礼いたします。昼食をお持ちいたしました」
そう断ると、メイドさんが四人、フタのついたお盆を持って入ってきた。高級な店でよく見る、ボールをひっくりかえしたみたいなヤツだ。オレたちの方に来ると、テーブルに手際よく料理を並べていく。
おお、サンドイッチにフレッシュなサラダ、チーズにスモークチキンのスライスか……。コップにはなんか柑橘系の匂いのする飲み物が注がれていく。
「お、おいしそう……」
料理が並べられるのを見ていたリアが、思わずノドをゴクリと鳴らす。確かにウマそうだな……。こんなシャキシャキ野菜のサラダとか、久しぶりに見たぞ。
「ね、ね、早く食べよ?」
いつのまにかフォークとナイフを両手に持って、リアが今か今かと待ち構えている。おいおい、食い物が来た途端に元気になったなコイツは。
まあ、でもこりゃ元気にもなるわ……。
「よっし、それじゃ食うか!」
「そうですね!」
「いっただっきまーす!」
あいさつを済ませると、リアが我先にとサンドイッチに手を伸ばす。おい! だったらフォークとナイフ持つ必要なかっただろ!
でも、ホントウマそうだな……。オレもサンドイッチを一つ手に取ると、一口かじってみる。
「ウメぇ!」
「おいしいよ、これ!」
「本当、おいしいです……」
サンドイッチのあまりのウマさに、次々に賞賛の言葉を口にするオレたち。
いや、これは元の世界で食ってたサンドイッチに負けず劣らずウマいぞ……? こんなウマいモン、こっち来てから初めて食ったかも……。野菜シャキシャキだし、ドレッシングもいい味だし、パンもほどよい食感だし!
食欲が湧いてきたオレは、皿に盛ったチーズやスモークチキンもつまんでいく。ヤベぇ……スゲぇウメぇ……。
「あ、このジュースもすごいおいしい!」
「本当ですね! それにとっても冷えてます!」
あまりの料理のウマさに、珍しくステラまで上機嫌になっている。この二人、食べ方も対照的だな。小さく口を開けてちびちびと食べていくステラに対して、リアは大口開けてばくばく食いついちゃってるし。さっきまであんなに疲れてたってのに、ホントにゲンキンなヤツだよ。なんかサンドイッチ開いてチーズとスモークサーモンはさんでるし。それを口に運んでガブリと食らいつく。
「うーん、うまいっ!」
自作のアレンジ料理に、大層ご満悦な様子のリア。あーあ、やりたい放題だよ、もう……。
しばし我を忘れて昼食を堪能するオレたち。ふと気になった事があり、メイドさんに声をかける。
「メイドさん、晩餐会もこんなおいしい物が出てくるの?」
「もちろんでございます。晩餐会ではこのような軽食より素敵なお料理が供されますよ」
「マジで!?」
オレと、そしてリアが異口同音に声を上げる。おいおい、これ軽食なのかよ! てか、これ以上にいいモンが出てくるって! どうせこの世界の事だからしょうもないモンしか出ないんだろと思ってたけど、もしかしてフレンチのフルコースみたいなの期待していいのか? ヤバい、テンション上がってきたぜ! ステラもずい分嬉しそうな顔してる!
目を輝かせるオレたちに、しかしメイドさんが非情な一言をつけ加える。
「それに、国王陛下をはじめ重臣、大貴族の皆様が勢ぞろいされますから。それはそれは楽しいお食事になりますよ」
「あ~……」
メイドさんの笑顔に、オレとリア、そしてステラまでもが手を止めてうつむく。そうだ、またお偉いさんたちが集まってくるんだった……。
てか、席とかどういう風に決まるんだ……? オレ、あのサイモンさんと席同じだったりしたら、料理の味なんかわかんねえよきっと……。
「どうしよ、食器カチャカチャ鳴らしたら……」
サラダを食べようとするリアが、緊張からかさっそく食器とフォークをカチャカチャ鳴らし始める。おいおい、今からそんなんでどうするんだよ……。とりあえず、さっきみたいなアレンジ料理とかは確実にアウトだからな。
しっかしこの食器も、よく見るとずい分高そうだな……。やべ、なんかオレまで緊張してきた……。
せっかくのおいしい食事だったが、後半はほとんど味がわからず、ただ腹に詰めこむだけのミッションと化してしまった。だから、今からこんな調子で大丈夫なのかよオレたち……。




