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2-1 やっと、終わった……




「もう、ダメぇ~」

 高そうなイスに座るや、これまた高そうなテーブルに突っ伏すリア。おいおい、メイドっぽい人が見てんぞ……。

 もっとも疲れたのはリアだけではないらしく、ステラも席につくと背中を丸めてぐったりしてる。もちろんオレもクタクタだ。

 式典を終え、騎士のウェインさんに連れられて客人用の貴賓室に通されたオレたち。ここに来るまでも、通路には立派なカーペットが敷かれ5メートルごとに銅像があったりと、映画でしか見た事のないようなゴージャスさだったんだけど、この部屋もスゴいな……。金持ちの家にしかなさそうなシャンデリアが吊るされてるし、でっかい鏡もあるし。置いてある家具や小物も、いちいち金ピカだったりする。

 しかしそんな豪華な部屋にも関わらず、オシャレに敏感な女性陣はすっかりお疲れの様子。いつもならモンベールの店内でいちいち「これカワい~」とか「素敵です~」とかキャーキャー言ってるってのによ。

 オレもテーブルに頬杖をつきながら、学生が居眠りするような格好のリアに話しかける。

「リアって、権威に弱いタイプだったんだな」

「私も、今日初めて知った……」

 意外にも素直に認めるリア。いろいろとショックだったんだろうな。

「お前のあのセリフ、みんながざわついてたぞ」

「ごめん、何言ったか憶えてない……」

 こりゃ、だいぶまいってるな……。もちろん例の「今日エッチ凄くぞんざいです」の事を言ってるんだが、まあ確かに、忘れた方が幸せかもしれないね……。

「ステラも、ずい分疲れてるよな」

「すみません、こういう場には慣れていなくて……」

 そりゃこんな場に慣れてる奴なんて普通いないよな。オレだって、こんな所に来るとか考えた事もなかったし。てか、日本に王様とかいないし。ああ、日本だと天皇陛下とかになるのか? いや、それにしたってオレなんか呼ばれるわけないじゃん。



 それにしても、ホントスーパー金持ちが住む部屋だよな……。うっかり壊しちゃったらと思うと、その辺の物にうかつに触れないぜ……。あの壺とかあの絵とか、いったいいくらするんだろうな……。あーあ、オレもこんな家に住んでみたいよ。これでネットやスマホ、いや、せめて冷蔵庫があればなあ……。

 そんなオレたちに、栗毛のメイドさんが戸棚の中から持ってきた水差しで水を注いでくれる。水が注がれたガラスのコップもなんだかずい分高そうだ。メイドさんにお礼を言うと、ぐいっと一気にコップをあおる。

「――!」

 冷てっ! 何コレ!? こんな冷たい水飲むのマジで久しぶりなんだけど!? いや、井戸から汲みたての水は結構冷たいけどさ!

 大いに驚いたオレは、メイドさんに声をかける。リアが「なに~、ナンパ~?」と非難の目でこちらを見ているが、どうやら止める気力はないらしく「お盛んなこって~」とかアホな事つぶやいている。

 それにはお構いなしに、モノクロのメイド服がかわいらしいメイドさんに質問する。

「あの~、メイドさん」

「はい、なんでしょう?」

「この水、メチャクチャ冷たいっすね」

「あら、ルイ様は冷蔵庫のお水を飲まれるのは初めてなのですか?」

「冷蔵庫!?」

 メイドさんの口から出たまさかの言葉に、思わず大声で叫んでしまう。マジか、あれって冷蔵庫なのかよ! てかどう見ても木製なんだけど、どうやって冷やしてるんだ?

 心の奥底にわずかに残されていた好奇心を刺激されたオレは、立ち上がるとメイドさんに聞いてみる。

「あの、それ開けてもいいっすか?」

「ええ、もちろんですよ。どうぞご覧になってください」

 そう言ってにっこりとほほえむメイドさん。くっ、かわいいじゃないか……。よーし、それじゃオレも冷蔵庫開けてみよっと。わくわく……。

「さて、中はどうなってるんでしょうね……」

 久々の文明の香りに、期待を込めて扉を開く。と、中からひんやりとした空気が……。おお……懐かしいぜ、この感覚……。

 って、あ、なんだ。上にっきい氷があるのね。上の方に電車の荷物置きのように何本か棒を通して、その上にでっかい氷の乗った、これまたでっかい皿が乗っかってる。ま、そりゃそうだよな、こんな所に電気が通ってるわけないし……。

 あ、水の他にも果物も置いてあるな。さすが貴賓室、至れり尽くせりだぜ。

「わ、凄いですね。こんな氷が入ってるなんて」

「あ、ステラも気になったのか?」

 いつの間にかステラもオレの後ろに来て冷蔵庫を覗きこんでいる。一通り冷蔵庫の中を見物したオレたちは、扉をを閉めると席へと戻る。水滴がいっぱいついたコップを手に取りながら、ステラが口を開く。

「やっぱり凄いですね、お城は。あんな氷があるんですから」

「え、氷? そんなに珍しいモンなの?」

「もちろんです。だって今はもう夏になろうかって時期ですよ? あんな大きな氷、遠くの山まで行くか、ダンジョンから持って来るかしないと手に入りません」

「あ、そうか。冷凍庫ないんだもんな」

「レイトーコ、ですか? 氷が取れるのは四十階より先らしいですから、普通の人では手に入れる事はできませんよ」

「四十階……マジか……」

 オレたちなんかお呼びじゃないエリアだな、それは……。なるほど、モンベールのシャーベットがクソ高かったのもそのせいか……。じゃあ、この冷たい水もスゴいぜいたくって事だな。そう考えると途端にありがたみが湧いてきたぜ。

 ちびちびと水を飲んでいると、突っ伏したままのリアがうめき声に近い声を上げる。

「ねえ……もう帰ろうよお……。用事は終わったでしょぉ……?」

「ああ、そうだな。オレも疲れたし、一服したら帰るとするか」

「ダメですよ、まだ晩餐会があるんですから」

「あ……」

 ステラの言葉に、オレもリアもハッとする。そうだ、晩餐会があるんだった……。てか、晩餐会っていつやるんだ……? メイドさんに聞いておかないと。

「あの~、メイドさん。晩餐会っていつですか?」

「はい、晩餐会は夜の鐘が鳴った後になります」

おそっ!」

 リアが思わず頭を上げて叫ぶ。てか夜かよ! 今まだ昼だぞ!?

「この後昼食をお持ちします。その後は皆様、ごゆるりとおくつろぎください」

 サラッと言ってのけるメイドさん。いや、無理だよ! オレらがこういう所でくつろげるような人種じゃない事くらい、アンタだってわかるだろ!? マジか、カンベンしてくれよ……。リアも、力尽きたかのように再びテーブルに突っ伏す。




 オレたちの試練は、まだまだ終わりそうにない。







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