1-7 式典、もうメチャクチャだよ……
拍手が収まり、再び静寂が支配する謁見の間。思い出したかのように、王様が一つ手を打った。
「あ、そうだ。そろそろルイ君たちにご褒美あげないとね」
そうだ、そう言えばそのために来たんだった。さっきからずっとお偉いさんたちの前で羞恥プレイ受けまくっててそれどころじゃなかったけど! もう、さっさと貰うもの貰って家に帰りたいよ……。
「それじゃ、準備よろしく~」
「御意」
サイモンさんがうなずくと、壁際に控えていた役人さんに指示を飛ばす。ほとんど間をおかず、小さな箱を持った人が前の方に出てきて、壇の下からサイモンさんに箱を手渡した。王様も玉座から立ち上がり、一段降りてサイモンさんの隣に並ぶ。
「それじゃ、これから勲章とメダルをあげます。順番に一人ずつ呼ぶので、呼ばれたら前に出てきてね」
なんか、もうこの王様の軽い口調にも驚かなくなってきたな。口調に反して、声はわりと渋いおじさまボイスだから、慣れるのはずい分先の話になりそうだけど。
その王様は、白っぽくなった金髪の頭を左右に振りながら何やら悩んでいるようだ。
「うーん、誰からにしようかな……。よし、そこの美人のお姉さんからにしよう! えっと、名前は……」
「ステラ殿です、陛下」
「お、ありがと! それではステラさん、前に出てきてください!」
よかった、オレが最初じゃなくて……。トップバッターはステラか。よし、どうやって振舞えばいいか参考にさせてもらおう。
王様に呼ばれ、カチカチになりながらステラが前に出る。てか、なんか王様がやけにノリノリな気がするんだが……。
王様の前に立つと、そこでひざまずくステラ。お、なんだかサマになってるな。相変わらず服はビシャビシャだけど。てか、スカートがぴっちり張りついててエロすぎる……。
「え~、それでは……。汝、此度の功績により、勲二等聖光褒章を授ける。レムール王国国王、アンリ四世」
「へ、陛下より直々に賜り、恐悦至極に存じます……」
ああ、あの王様、ちゃんとそれっぽい事も言えるんだ。ま、そりゃ王様だもんな。てか、なんかステラもそれっぽい事言ってる……。オレもああいうの言わないといけないの?
ブルブルしながらご褒美を受け取るステラに、王様が優しい声をかける。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。それより……」
「は、はい。なんでしょう」
「君、僕とつきあってみない?」
「え……?」
なあにぃぃぃっ!? あのエロジジイ、ステラを口説きやがったぁぁぁっ! 何言ってやがんだ! こんな公衆の面前で! 見ろ、ステラが超困った顔してるじゃねーか! 王様の方向いてるから表情わかんないけど!
「ごほん、陛下……」
「あ、じょ、冗談だよサイモン! あ、あはは! い、いやだなあ!」
サイモンさんににらまれ、冷や汗を流し始める王様。ああ、あの人には弱いんだな……。てか、実はこの国の実権握ってんのはあの人なんじゃないか?
「あ、ステラちゃんはもう下がって大丈夫だよ、おめでとうございました!」
「は、はい、失礼いたします……」
そのまま後ろ歩きで下がってくるステラ。なるほど、王様に背中ってかケツを向けちゃいけないわけね。……って、ステラ、ぶつかる、ぶつかる! そのまま背中からオレの方に迫ってくるステラを、正面から抱きとめるような格好になる。
「あっ!? ご、ごめんなさい!」
「いや……ステラ、大丈夫?」
「は、はい!」
慌ててオレから離れると、顔を真っ赤にしてオレの右隣に並ぶ。その様子を見て、王様が何やらニヤニヤしている。
「なるほど、ステラちゃんはルイ君が好き好きなのかぁ~」
「ち、違います!」
「ひッ!?」
王様の冷やかしに、鋭い声で否定するステラ。その剣幕に、王様のノドから思わず悲鳴が漏れる。勢いに気圧されたのか、サイモンさんも特に何も注意しない。しばし、気まずい沈黙が周囲を包む。
やがて、王様が申し訳なさそうに口を開いた。
「ご、ごめんね、ステラちゃん……。じゃあ、次は……うん、リアさん、どうぞ」
サイモンさんに名前を確認し、王様がリアを呼ぶ。って、おい! リア、聞いてんのか!?
「おい、リア! お前呼ばれてんぞ!」
「ひゃ、ひゃい!? 今行きましゅ!」
コイツ、ホントに大丈夫なのか? っておいおい、よりによってロボット歩きかよ! やれやれ、なんとかひざまずいたか。
「リアちゃん、大丈夫? それじゃ……。汝、此度の功績により、勲二等聖光褒章を授ける。レムール王国国王、アンリ四世」
「へ、陛下より、直々に玉を割り、今日エッチ凄くぞんざいです……」
はぁァァァァ!? リア、お前バカか!? バカなのか!? それステラのマネのつもりか!? 全然原型留めてねーぞ!
てか、「今日エッチ凄くぞんざい」ってなんだよ! 殺されんぞ、マジで! お前ホントはワザと言ってんじゃねーのか!? 見ろ、王様一応笑顔だけど、こめかみがヒクついてんぞ! 周りもなんかザワついてるし!
「リアちゃん、無理しないで、いつも通りで大丈夫だからね……? どうぞ、おめでとうございました」
「はっ、はひ! ありがとうございましたぁ!」
そう言うや、くるりと回れ右してこっちに戻ってくるリア。あーあ、完全に王様にケツ向けちゃってるよ……。コイツがここまで緊張しいだとは、想像を遥かに超えてたわ……。
その後、オレが呼ばれてご褒美をいただく。なんか、二人を見てたらすっかり緊張の糸が切れたわ……。
「ルイ君、結構苦労してるんだねぇ……」
「あ、いや、その……」
なんか王様に気を遣われるオレ。いや、いつもはこんなんじゃないんすけどね……。
こうして式典は無事(?)終わり、オレたちは貴賓室へと移動するのであった。




