1-6 ギュス様、もうカンベンして!
レムール王国の王城、謁見の間。玉座からオレたちを見下ろしているのは、五十代くらいのちょっと恰幅のいいおっさんだった。この人が王様か……。ちょっとした会社の社長さんみたいな感じだな。
とりあえず、見た目で爆笑するような容姿じゃなくてよかったわ……。もっとも、この空気の中で笑える勇気なんてこれっぽちも持ち合わせちゃいないけど。
緊張の面持ちでひざまずくオレたちに、王様が声をかける。
「ああ、もう立って楽にしていいよ。その姿勢じゃつらいでしょ?」
おお、王様優しっ! てか、なんかこの王様、ずい分と軽いな……。こんなんで大丈夫なのか? そんな余計な心配をしていると、神経質そうな方のおっさんが口を開く。
「陛下のお言葉である。各々方、どうぞ楽になされよ」
こっちは親しみのカケラもありゃしないなオイ! また緊張してきたよ! でも、もう立っていいんだよな……? リアやステラとアイコンタクトをとりながら、恐る恐る立ち上がる。
「では、あらためてこんにちは。僕が国王のアンリです。今回は皆さんがクエストで素晴らしい働きを見せたという事で、ご褒美をあげるためにこうしてお城まで来てもらいました。なんせギュスターヴ君がずい分と君たちの事を褒めるものでねぇ……。ギュスターヴ君、ちょっとこっちに来てよ」
「御意」
王様に呼ばれて、ギュスターヴさんがオレたちの隣にまでやってくる。やっぱアンタの仕業ですよね、これ……。
「いや~、あの日のギュスターヴ君の興奮っぷりったらなかったよね~、サイモン」
「御意。臣もあのようなギュスターヴ卿を見るのは久方ぶりでございました」
そう言いながらうんうんとうなずき合う二人。なんか同じ言葉を話してるようには聞こえないんだけど、これ、ホントに意思疎通できてるのか……?
「彼ら、スゴかったんでしょ? あのギュスターヴ君でさえ苦戦した魔物をやっつけちゃったそうじゃない」
「おそれながら陛下。臣はあの魔物に苦戦したのではなく、まったく太刀打ちできなかったのです。こちらのルイ殿は、そのような魔物を造作もなく一蹴してのけたのでございます」
ちょっ!? 案の定というべきか、めっちゃ話が盛りまくられてる!? しかも今のギュス様の言葉に、並んでる人たちからもどよめきの声が上がってるよ! 違うよ、違うんだって!
「すっ、すいません! それはちょっと大げさ過ぎ……」
「弁えられよ、ルイ殿。陛下は貴殿に発言を許されてはおられぬ」
「ひッ!? す、すいません!」
恐えぇっ! このサイモンって人、超恐えぇ! てか死刑!? もしかして、勝手に王様の話に割りこんだら死刑!?
縮こまるオレを気の毒に思ったのか、王様がサイモンさんをたしなめる。
「ダメだよサイモン、ルイ君はお客様なんだから」
「出過ぎた事を申しました。どうかお赦しください」
「ごめんねルイ君、気にしないでしゃべってくれていいんだよ」
王様マジいい人! でもこんな空気で気軽にしゃべれるわけがねえ! サイモンさん超恐いし、周りの人たちもオレたちの一挙手一投足を見てるみたいだし!
そんなオレの気を知ってか知らずか、王様がさらに話を続ける。
「いや~、ルイ君がいてくれてホントによかったよ。ギュスターヴ君ほどの逸材を失うわけにはいかないし、犠牲者も一人も出なかったっていうし。冒険者のみんなは国の宝だからね」
「御意。もしあの場にルイ殿がいなければ、臣をはじめ多くの冒険者が命を落としていた事でしょう。そのような事態となれば、陛下の御心を騒がせ奉るのみならず、王国の威信をも揺るがしかねない一大事。無論、戦場に散華した冒険者やその遺族の悲しみも計り知れませぬ。かかる国難を回避できたのもルイ殿のおかげ。まさに救国の英雄にふさわしい御仁にございます!」
やめて! ホントもうマジでやめて! てか、救国の英雄とか言い出したのもアンタだったのかよ! お願いだから、もうこれ以上ハードル上げないで!
なんか周りの人たちも「ふむ……」とか「あのギュスターヴ卿が、そこまで言うのなら……」とか言ってるし! アンタ、少しは自分の発言力を自覚してくれよ!
「と言うわけで、みんな、ルイ君のスゴさはわかってくれたかな~?」
エラい軽いノリで言う王様に、列席者から大きな拍手が沸きあがる。ああ、もうダメ、早く帰らせて……。オレにはちょっと女の子にウケそうな歌を歌っていい気になってる、しがない詩人くらいがお似合いなんだよ……。




