1-5 王様、登場!
そんなわけで、今オレたちは謁見の間の一番前の方で、王様の登場を待っている。
赤いカーペットの両サイドには立派な服を着た人たちがズラッと並んでるんだけど、この人たちって多分この国の超エラい人たちなんだよな……。
パッと見た感じ、左の列にはガタイのいい人とか、なんかやたら強そうな人たちが並んでる気がする。ギュス様も左の列に並んでたし。リアなら並んでる人たちが誰なのか少しはわかるのかもしれないが、さすがにこんな所、こんな場面で聞くわけにもいかないか……。
てかこういうのってさ、前の方ほどエラい人が来るんだろ? て事はつまり、オレたちの両脇に並んでるこの人たちは、この国でも最高にエラい人たちって事か? ヤベえ、オレたち超ガン見されてるよ……。あ、でも多分、玉座の一つ下の段に立ってオレたちを見下ろしてる人は別格なんだろうな。
(ねえルイ、もう帰ろうよぉ……)
(ここまで来て帰れるわけねーだろ! てか、こんな時に話しかけんな! 前の人めっちゃニラんでるじゃねーか!)
(だってぇ……)
だって~、じゃねえ! オレまで怒られちまうだろうが! なんか高校とかの全校集会で、先頭に並んでて隣の女子に話しかけられて壇上の教頭先生にニラまれてる気分だなオイ!
(少しはステラを見習え! 見ろ、全然雑念……が……?)
そう言いながらステラの方を見ると……あの……ステラさん……? 歯のカタカタが全身に波及して、めっちゃブルってる……。冷や汗でぐっしょりなのか、シャツやスカートが身体にぴったりくっついてる。
てか、シャツが微妙に透けてないか? 顔も耳まで真っ赤になってるし。ヤバい、これはエロい……。もしかして、周りのおっさんたちはオレたちに怒ってるんじゃなく、単にステラのこのエロエロな姿をガン見してるだけなんじゃないか……?
そうしてしばらく待っていると、オレたちの前、ひな壇の下あたりにおっさんが一人やってきた。小太りで頭がハゲかかったそのおっさんは、こちらを向くと、手に持った紙を広げて大声を張り上げた。
「大陸東部の覇者にして我等臣民の偉大なる庇護者、母なる女神ファーマシルの加護を授かりし聖王、レムール王国国王アンリ四世陛下、ご入来!」
な、何!? 何言ってんの!? 今のホントに日本語か? いや、ここの言語は異世界語だけど!
おっさん、大声でわけわからん事絶叫するや、一仕事終えたとばかりにさっさと去っていったぞ? いったいなんだったんだ今の? 謎の展開に戸惑うオレ。
そんなオレを、さらなる衝撃が襲う。
パーン! パパーン!
うおっ!? なんだこのバカでかいラッパの音は!? ああ、壁際にラッパ隊が控えてたのか! 学校集会で校歌を演奏する吹奏楽部みたいだな!
てかこれ、もしかして王様入場のファンファーレなのか!? さっきのおっさんの口上といい、演出過剰にもほどがあるだろ!
ユニゾンで演奏される、ただ音がデカいだけのファンファーレに合わせるかのように、壇の左側から一際立派な服を着たおっさんが登場する。その姿をぼけーっと突っ立って見てると、リアが慌ててオレの頭を鷲づかんで地面に押しつける、いて、痛てぇよ!
(バカ! 頭が高いでしょ! 死刑になりたいの!?)
(わかった、わかったから! 放せよ!)
リアのバカ力から解放されたオレは、リアのマネをして片膝ついて頭を下げる。そういやこういうマナーも、昨日練習したんだっけな……。ムダに派手すぎる演出に気をとられてすっかり忘れてたわ。
いつまで下を向いていればいいのかわからずにいると、頭上から声をかけられる。
「ああ、いいよいいよ。もう頭上げても」
軽っ! ノリ軽っ! さっきまでの仰々しさはどこに行ったんだよ!
お言葉に甘えて頭を上げると、そこにはニコニコしながら玉座に腰かける気の良さそうなおっさんと、その一段下で相変わらずオレたちをにらみ続けている神経質そうなおっさんの姿があった。




