1-2 ど、どうしよう……
家に帰るや再び泥のように眠り、あっという間に次の日の朝。
まだ体中がダルい中、がんばって粗末な布団を畳んでいると、家のドアをノックする音が聞こえてきた。おいおい、誰だよこんな朝っぱらから……。リアの奴か? あいつどんだけヒマなんだよ。あ、でもリアならもっと乱暴にドア叩いてるか。
そんな事を考えながら、ドアへと向かう。
「はいはい、どちら様~?」
無愛想に言いながらドアを開け、そのまま硬直する。目の前に立っていたのはリアではなく、鎧を身にまとった頑丈そうな兵士だった。腰には剣を携えている。
って、えぇぇぇえ!? 何コレ!? この国の兵士って警察の役割もあるんだろ? まさかオレ、捕まっちゃうの? ウソだろ、オレなんか悪い事したか!?
身に覚えなど何もありはしないが、身体中冷や汗流しまくりながら、それでも震える声で兵隊さんに尋ねる。
「あ、あの、兵隊さんがオレに何の御用で……?」
「失礼いたします! あなたがルイ様でよろしいでしょうか!」
「ひゃ、ひゃい! オレがルイ様で合ってまひゅ!」
こ、声デケえぇぇっ! 思わずこっちもヘンな声が出ちまったじゃねーか! てか、つられてオレまで自分を様付けで呼んじゃったよ! ん? 様付け?
「あの、すいません……。様って、なんすか?」
「これは失礼いたしました! 自分は王宮の衛兵を務めるトムと申します! 本日はルイ様に王宮での褒章授与式及び晩餐会の日程をお伝えするために参上いたしました!」
だから声デカいって! ……はい? なんか今、いろいろとわけわからん単語が並んでた気がするぞ……?
「あのー、今、王宮がなんとかって……」
「はい! ルイ様のパーティーの皆様は、先日のゾンビ掃討戦における多大な功績が認められ、国王陛下より褒章を下賜される事が決定いたしました! 式典の後、晩餐会にて皆様の労を労われるとの事です!」
は……はあぁぁぁぁあ!? なんだそりゃぁぁぁあっ! メチャクチャ大事になってるじゃねーか! てか、昨日の今日だぞ!? いくらなんでも展開速すぎんだろ! いや、そもそもそんな話、冗談としか思えないんだけど!
「あの、それは何かの間違いなんじゃ……?」
「いえ、でもあなたがルイ様で間違いないんですよね?」
「あ、そうじゃなくて、ホントにオレで合ってるんですか? てか、それ絶対勘違いっすよ?」
「そんな事はありません! 昨日はギュスターヴ様が緊急に会議を招集した後自ら陛下に奏上されてましたし、シティギルドからも皆様の活躍ぶりが報告されましたから! 万が一にも間違いなどという事はありません!」
おいおいマジかよ!? そんな所まで話が進んでんのか! ギュス様どんだけ張り切ったんだよ!
混乱するオレを気にかける事もなく、兵隊さんが話を続ける。
「式典は明後日行われます! その日は王城よりお迎えにあがりますので! それまでに、皆様との打ち合わせや衣装のご準備などをお済ませください!」
「ええええ!? 準備って、何をやればいいんすか!?」
「大丈夫です、ルイ様はいつも通りで問題ありません! 何せあのギュスターヴ様でさえ敵わなかった強敵を一蹴してしまうほどの勇者なのですから!」
ギュス様ぁぁぁぁあ! いくらなんでも、話盛りすぎてんよおぉぉぉお! なんかオレ、超スゴい人みたいになってるうぅぅぅっ!
いや、確かにギュス様が倒せなかった敵を倒したわけではあるけどさ!
「それでは、私はこれで! 救国の英雄にお会いできて光栄です! 失礼いたします!」
大声でそう言うと、兵隊さんはバシッと敬礼らしきポーズをとってそのまま立ち去っていった。あ、外の人たちがめっちゃこっち見てる……。
てか、あんな大声でしゃべってたんだから、会話が筒抜けだよな……。マジかよ、もうご近所歩けねぇ……。てか、オレ別に国は救ってないし。なんかこれ、伝言ゲーム方式で話がデカくなってってないか……?
モンベールの店内。今日もおしゃれな女子やカップルで賑わっている。もしかすると、オレも女の子を二人もはべらせているリア充野郎と思われているのかもしれない。
昨日の約束どおりモンベールに集まったオレたちはしかし、とてもじゃないが祝勝会気分にはなれなかった。てか、それどころじゃない。
「そっかぁ……、じゃあ、みんなお知らせが来たんだね……」
ため息をつきながら、リアがつぶやく。頬杖ついて、心ここにあらずといった様子だ。
「本当に、大変な事になってきましたね……」
ステラも深刻そうな表情でつぶやく。まあそうだよな、あまりに急な話だもん。しかしステラが憂鬱になるのはわかるんだけど、リアまでこんなになるとは意外だな。
「これだけ持ち上げられたら、リアなら調子に乗って舞い上がるんじゃないかと思ってたんだけどな」
「はぁ? そんなわけないでしょ。お気楽なアンタと違って、私はとーってもナイーブで細やかな神経の持ち主なの」
どの口が言うんだよオイ! 繊細な人間がそんな事言うわけあるか!
「でもさ、本当にどうしよう? もしホントにお城に行く事になったら、マナーとかわかる?」
「いや、全然……」
「私も、自信ないです……」
「てか、マナーがなってないくらいで済めばいいけどよ、うっかり無礼な事しちゃったらどうする? この国ってやっぱいきなり死刑とかになんのか?」
「ヤダ、やめてよ! 物騒な事言わないで!」
「でも実際問題よ、王様が出てきたとして、その王様がメチャクチャ笑える髪型だったり鼻毛生えてたりさ、セリフ噛んだりしてうっかり笑っちゃったらヤバいだろ?」
「ちょっ! マジでやめてってば! そんな事言われたらホントに笑いそうじゃない!」
リアが手を伸ばしてオレをバシバシ叩く。痛い、痛いって!
「ところで皆さん、衣装はどうしますか?」
「あ、それもあるよな。ボロボロの着てくわけにもいけないし……」
「ルイはちゃんとした服買ってよ? 変な服着てたら、私たちも同類だと思われちゃうんだし」
「類だけに?」
「うっさい! こんな時にダジャレ言うな! オッサン!」
痛ってぇ! 今度はスネ蹴りやがった、この女! てか、なんで日本語のダジャレが通じるんだよ!
椅子を引いてうずくまるオレをスルーし、リアが話を続ける。
「私聞いてみたんだけど、式典はいつものクエストに近い服で出て、晩餐会はドレスに着替えるのがいいんじゃないかってさ。ま、だから私式典は動きやすい服を準備するつもり」
「じゃあ、私も何か買わないとですね……」
「ま、ステラはな……」
まさかビキニアーマーやマントで王様の前に出るわけにもいかないだろうしな。
「じゃあこの後、式典用の服と晩餐会用のドレスを買いに行こっか」
「はい、ごいっしょします」
「わかった、じゃあ二人はがんばってな」
「はぁ? 何言ってんの? アンタも行くんだよ」
「なんでだよ!? オレはドレス必要ないだろ?」
「さっき言ったじゃん、ボロいの着てこられたら困るって。ルイの服は私たちが選ぶから、おとなしくついてきなさい」
「えー……」
ウソだろ……。女の買い物なんてつきあってたら、時間がいくらあっても足りないだろうによ……。特にコイツは、オレのチョイスにあーだこーだ文句つけて全然話が進まなそうなんだよな……。
「だ、大丈夫です! 私、がんばってルイさんに似合う服を選びますから!」
マジっすか! さすがステラさん! 両手の拳を握って両腕を胸の前に出し、拳を口元に寄せながら二の腕で胸をはさみこむ、ボクサーのファイティングポーズのようなポーズが最高にカワイイ! いいや、オレもう全部ステラに選んでもらお。
「なーんでキミはそんなに顔がゆるんでるんでしょうねぇ……」
イタ! イタタ! 腕つねんなバカ! コイツのスイッチ相変わらずどこにあるのかわかんねえな!
こんな調子で打ち合わせを終えた後、オレたちはおしゃれショップのラビラビとかをあちこち巡って城に着ていく服を探し回った。案の定というか、それだけで一日が潰れちまったよ……。




