5-8 いよいよ、討伐開始!
こうして三十五階の探索が始まった。ステラによればこのフロアは中央にひらけた場所があるそうで、どうやらそこらへんが怪しいのではないかとの事。途中の小道なども調べながら、一団は徐々に中央に近づいていく。うう、なんか緊張してきたぜ……。
しばらく歩いていたその時、前のヤツがこちらに振り返り、ステラに何かをささやく。それを聞いたステラがオレたちに告げる。
「鼻栓、装着指示だそうです」
「――!」
途端に緊張が走る。伝言という事らしく、リアが後ろのパーティーに伝えていく。鼻栓を詰めながら、ステラに声をかける。
「ゾンビ、見つけたのか」
「多分先発隊が向かっていたんでしょう。かなりの数が集まっているようです」
「うそ、ホントに集合してんじゃん」
鼻栓をつけているので、当たり前だがみんな鼻声だ。なんか急に緊張感がどっかにいっちまったな……。
「広場はもうすぐです。皆さん、がんばりましょう」
「おう」
「もっちろん」
できればあまり戦いたくなかったが、こうなった以上そんな事も言ってられないな。よーし、いっちょやってやるぜ!
先発隊のゾンビ発見の報を受け、一気に緊迫するゾンビ討伐隊。中央の広間に近づくにつれ、緊張感が増していく。さすがにオレたちの口数も少なくならざるを得ない。
「いよいよだな……」
「そうだね……」
「がんばりましょう」
と、その時、前方で手が挙がるのが見えた。どうやらこの先にいやがるようだ。行軍も慎重になる。よぉし、やるぞぉ……。
そこから少し進むと、周りが一気にひらけてくる。ここがウワサの広場か……。奥のほうには深い霧が立ち込めてて、その中から……出てきやがったよ、ゾンビどもが! リザードマン、一角イノシシ、オーガにビッグフロッグ……。次から次へと湧いてきやがる! コイツはもう、やるっきゃねえな!
「作戦開始!」
前方で声が上がる。それを合図に、前方の冒険者たちが次々とゾンビの群れへと突っこんでいく。オレたちも後に続くぜ!
開戦から間もなく、オレたちの周りにもゾンビが押し寄せてくる。オレは歌いなれた応援歌でリアたちをサポート。迫り来るゾンビどもを前衛のステラが倒していくんだが……正直、一方的な虐殺にしか見えん。ステラの斧の一撃がゾンビを容赦なく肉の塊へと変えていく。ステラが斧で脳天から一気にぶった切っていくと、ホントにミンチみたいになってくんですけど。ゾンビってどこを狙えば倒せるのかイマイチわからんけど、これはもう弱点うんぬん以前に、どんな魔法かけたって蘇生(?)しようがないんじゃないか? いや、ステラさんホント頼もしいわ。
リアの方を見ると……おい! それ石コロじゃねーか! その辺の石拾ってポイポイ投げてるよ! しかもそれが頭や足を的確に捉えてどんどん粉砕してるし! コイツはコイツでどんだけチートなんだよ!
先頭の方はだいぶ前進したらしく、霧で見えにくくなってきている。と、その先頭の方から悲鳴や怒号が聞こえてきた。
「な、なんだコイツら!」
「こんなの見た事ねえぞ!」
「つ、強い!」
霧から後退しはじめる先頭集団。そして霧の中からは……出たよ! オレたちが見た甲冑野郎! それも五体十体とゾロゾロ出てきやがる!
突然の強敵出現に恐慌状態に陥る前線部隊。一人の槍兵が今にも斬られそうになる。ヤバい!
ザシュッ。
首が一つ、高々と飛んでいく。槍兵のじゃない。甲冑野郎のだ。首を失った甲冑の前には、一人の剣士が立ちはだかっていた。
「ギュスターヴ!」
「うおおおおおお!」
「すげええぇぇぇえ!」
後方に控えていたギュスターヴとBランクプレイヤーたちが異変に気づき、救援に駆けつけたみたいだ。そのまま甲冑野郎どもへと突っこんでいく。
先頭に立つギュスターヴに、五体のバケモノが襲いかかる。おいおい、ヤバいんじゃないか!? だがしかし、包囲が完成する前にギュスターヴは右側の奴に飛びこんでいく。と、次の瞬間にはそいつの首が飛んでいた! は、速ええ!?
あれ、もう姿が消えてるぞ……って、今度は正面の二体の首が飛んでる!? まさかと思い左を向くと、ギュスターヴの剣はすでに最後の一体の首を刎ねている所だった。
…………。
「す、すっげえええええ!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉおおっ!」
「マジで速えぇぇぇぇぇええっ!」
まさに神業とでも言うべきその剣技に、冒険者たちの歓声が爆発する。見ればBランクの面々も甲冑野郎を一体ずつ片づけていた。ギュスターヴ隊の圧倒的なまでの強さを目の当たりにし、討伐隊のテンションが一気に上がる。
「オレたちも続くぞぉぉぉ!」
「うおおおおっ、やるぜえぇぇえ!」
「ギュス様、抱いてえぇぇぇぇ!」
その様子を見て、石つぶてを投げていたリアもつぶやく。
「さっすがギュスターヴ、今の戦いだけで士気もドーンと上がったね」
ホントだよ、まったく。オレは歌ってるから、リアに対してうなずく事しかできないけどな。
霧の向こうからはなおも甲冑野郎どもが湧いてきてやがるが、ギュスターヴたちが圧倒的な強さで始末していく。討伐隊も、後に続けとばかりにゾンビどもをどんどん蹴散らしてるし、こりゃ勝負あったな。よっし、オレたちもこの調子でガンガンいくぜ!




