4-8 リアの葛藤
アンジェラの「いい仕事がある」という言葉に食いつくリア。結果的にこれが墓穴を掘る事になった。
「例のゾンビの退治クエストよ。十日後に四ギルド合同で討伐隊が編成されるのよ」
目を輝かせていたリアが、一気に硬直する。
「Cランクプレイヤー向けのクエストとして参加者を募集するみたい。うちのギルドには二十人分の枠が割り当てられているわ」
「そんなの王国が討伐すればいいじゃん」
「そこはそれ、よ。今ならまだ空きがあるけど?」
「え~……」
あからさまにイヤそうな顔をするリア。まあ、前回のあのビビりようからすればなあ……。
「それは別にいいかなあ……」
「あら、そう? でも報酬は凄いわよ。参加者一人あたり、それぞれ1000リルもらえるみたい」
「1000リル!?」
リアとオレが思わず声を上げる。一人1000リル!? そんなオイシイ仕事があんのかよ!
「ちょっ、それマジかよ!?」
「うう……1000リルかぁ……」
リアもかなり心を動かされてるようだ。今、内心じゃものスゴい葛藤してるんだろうな。
「でも、危険はないんですか?」
「ええ、ゾンビ自体はさほど強くないようね。実際にゾンビを倒したパーティーの話によれば、どうやら生きている時より弱体化してるみたい。Cランク向けダンジョンのクエストをこなしてるプレイヤーなら大丈夫よ」
「なるほど、じゃあ問題ないか」
「でも、女の人や甲冑オバケはどうなの?」
「それは私も気になったから報告したんだけど、今回は万一に備えて中央ギルドとテンプルギルドから数名Bランクプレイヤーが参加する事になったわ。中央からはAランクプレイヤーも一人参加するみたいね」
「Aランク!?」
リアが驚きの声を上げる。
「ん? そんなに驚く事なのか?」
「そりゃそうだよ! だってAランクなんて、四ギルド全体でも三十人くらいしかいないんだよ? 同じギルドなら顔くらい見かけるけど、クエストでごいっしょする機会なんてまずないよ!」
やや興奮ぎみにまくしたてるリア。なんだかんだ言っても、コイツもやっぱ冒険者なんだねえ。
「う~ん……」
高額報酬と高位プレイヤー参加に、リアもずい分と心が揺らいでる様子。話聞いてるとわりとラクそうな仕事だし、オレも1000リルはほしいしな。よし、ここはもう一押しするか。
「ステラ! ステラは参加するよな!」
「え? 私は……」
「オレは参加したいんだけど、いっしょに戦ってくれる人がいないと危ないからさ。だから行こうぜ!」
「で、でもリアさんは……」
「もちろんリアも行くよな?」
当然のように話を振られ、リアがやや混乱した様子で返事する。
「いや、ちょっと待って。う~ん……」
「あ、イヤか? 今回は報酬一人ずつだし、イヤならオレたちだけで行っても別にいいぜ?」
「え? いや、それはダメ!」
慌てて声を上げるリア。やっぱ仲間はずれはイヤか。お子サマだねえ。
「じゃあ行こうぜ。お前らなら楽勝な感じだし、さっさと稼いでモンベールでパーッとやろうぜ」
「う~……」
決めあぐねているのか、なおも唸り声をあげる。しばらくして、低い声がもれた。
「わかった、私も行く……」
結局、リアも参加する事に決めたのだった。やっぱ一人1000リルはデカいもんな。オレ、今でも一日の食費10リルくらいだし。
「はぁ……」
深いため息。お前、そんなにイヤなのかよ。
「それにしても、よくこんな気前よく報酬払えるもんだな」
オレの言葉に、リアがジト目で答える。
「はぁ? そんなの人気取りに決まってんじゃん」
「人気取り?」
「そ。こうやってたまに大盤振る舞いする事で、ギルドメンバーのご機嫌をうかがうんだよ」
「ああ、そういう事か」
そういやあっちの世界でも政治家とかがなんかそんな事やってた気がするな。オレ政治よくわからんけど。
「国としてはメンバーの好感度が高い方が陰で妙なマネされなくて安心だし、ギルドの運営側もその辺はわかってるから、この手のクエストは積極的に薦めるんだよ。ね、アンジェラ?」
「あらあら、手厳しいわね」
毒づくリアに、アンジェラが苦笑交じりに首をかしげる。なるほど、いろいろあるのね。
「でも、だからこそおいしい案件だって事はわかるでしょう? せっかく向こうがあげると言ってるんだから、おいしくいただいてしまった方が賢いんじゃないかしら?」
「まぁ、そうなんだけどさー」
なおもブツブツ言いながら、次回のクエストを物色する。心なしか手つきが乱暴だな。やがて、一枚の依頼書をつまみ上げた。
「ねー、これなんかどう?」
「ああ、いいんじゃないか」
「私もいいと思います」
そう言ってリアに手渡されたクエストは、二十八階での毛皮集め。盗賊スキル必須のクエストだな。報酬750リルプラスインセンティブか、相場から考えても悪くない。今回はステラもいるから結構たくさん持って帰れるしな。十日後はゾンビ退治だし、早めに片づけようという事であさってにセッティングする。
「それじゃそんな感じで、よろしく」
「了解。ゾンビ退治の方も登録しておくわね」
「ああ、うん、お願い……」
途端にテンションがダダ下がるリア。コイツ、ホントわかりやすいヤツだわ。
「あ、聖水は用意しなくていいわよ。必要な物はあちらで準備してくれるそうだから」
「ああ、聖水つけたらゾンビさん寄ってこなくなりますもんね」
「私たちには寄ってきたけどね……」
恨みがましくリアがこぼす。もうコイツ、絶対信仰心なんて残ってないだろうな……。
「じゃあアンジェラ、またあさってね」
「ええ、待ってるわ」
あいさつを交わしてギルドを後にする。日が傾きつつある中、リアが伸びをしながら声を張り上げた。
「よーし、今日は飲むぞー!」
「え、これからかよ!」
「だって私たち、まだみんなでお酒飲んだ事ないじゃん」
「いや、そうだけどさ」
てか未成年なのに酒飲んでいいのかよ! って、ここ日本じゃないからいいのか。あれ……でも日本人のオレはここで飲んじゃっていいのか……? オレ成人だけど今は十代みたいだし……。いいや、飲も。
その日は結局三人で遅くまで飲み続けた。これ、あさってのクエストに響かないのか……?
てか、ステラさんってあんなに飲むのな……。




