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1-3 詩人、使えねえ……





 地下にもかかわらず、なぜかそこそこ明るい洞窟内。

 芝生のような地面を踏みしめながら、オレとリアは目的の薬草めざして洞窟を進んでいく。

 ふんふん、このルートってことはあそこの薬草を取りに行くのか。このゲーム、もうしばらくやってないってのに結構おぼえてるもんだ。

 たしかこの階からゴブリンやコボルドみたいな群れをなすタイプのモンスターが出てくるんだよな。まあ、この階ではまだ群れで出たりはしないから、苦戦するってこともないはずだけど。

 そんなことを考えながら歩いているうちに、ふと思いついたことがあったのでリアに聞いてみた。

「そういやリアは今、一人だとどの階まで行けるんだ?」

 ここまでのやりとりでオレは学習した。この夢ではオレとこいつは古くからの知り合いという設定らしいので、今朝のようにこの世界について直接聞くような質問は避け、あくまで普段の行動にからめた質問を繰り出していく。

「ん? そうだねぇ、今なら一人で二十七階くらいまで行けるよ」

 なるほどな。これでリアの力はだいたいわかった。

 進める階数はランクによって決まってるからな。Fランクなら五階まで、Eなら十五階、Dなら三十階までだ。一人で行けるってことも考慮すれば、リアはDランク、それもCランクに昇格目前のレベルということになる。冒険者全体の上位三分の一にひっかかるくらいの位置だな……。

 って、おいおいそれって結構な腕前じゃねーか。女盗賊って言うからてっきり戦闘力皆無、エロ担当にしようにも貧乳すぎてそっち方面にも使えない、でもぺったんこのまな板だから回避力だけは高いただのモブキャラかと思ってたのによ。

 ん? もしかしてこの流れだとオレも実は結構な強さだったりするんじゃ? でもオレFランらしいしな……。

 どうでもいいけど「Fラン」ってなんか妙にヘコむな……。オレこれでも一応通ってる大学は中の下くらいには位置してるハズなんだけど。

 あ、わかった! オレは詩人って謎職業だけど、実はスゲえ秘められた力を持ってるって設定か! そうか、そうだよな! 元の職業にないんだから、「勇者」とかと同じような特殊なレア職業なんだろ!

 あれだ、なんかありえない全体攻撃とか持ってるんだよな? 歌えば敵を一掃とか広範囲防護バリア発動とか、そういうヤバいスキル持ってるに違いない!

 なんだよ、やればできるじゃん! オレの夢!

「ちなみに、オレならどの辺まで行けるかな?」

 調子に乗って聞いてみる。

「うーん、ルイなら二、三階ってとこかな?」

 ええええ! オレええええええぇぇ! 二階なんてレベル1の初心者でも行けるだろ! ふざけんなよオレの夢!

 てかこの女も、もう少しオレに気をつかえよ! いくらなんでもストレートに伝えすぎだろが!

「ははは、冗談だって。そんな怖い顔しないでよ」

 おいおい、冗談かよ。まったく、あんまりオレをあせらせんなよ。

「四,五階くらいまでは行けるでしょ、多分」

 変わんねえよ!  ぬか喜びさせてんじゃねえ!

「でも今回でルイもEランクに昇格できるはずだし、そしたらもっといいところに連れてってあげるよ」

「あ、そうなんだ」

 『デモグラ』では、プレイヤーのレベルに応じてプレイヤーランクが上がっていく。1~10がFランク、11~20がEランク、以下10レベルごとにランクも上がり、レベル51以上のプレーヤーはAランクになるといった具合だ。

 てことは、今のオレのレベルはちょうど10ってとこか。だがオレの職業は「詩人」という隠れジョブだ。リアはあんなこと言ってるが、こんなレベルでもきっと強力なスキルでバッタバッタ敵をなぎ倒せるんだろう。きっとそうだ、そうに違いない!






 そんなことを考えながら、しばらく歩いていると。

「来たよ、ルイ」

 リアが低い声でつぶやき、小剣に手をかけた。お、もしかしてこれは敵とのエンカウント?

 と思った矢先、洞窟の陰から棍棒を持った小さな犬男が二匹現れた。コボルトか。たかが二匹、群れてなければ楽勝だ。

 現実では殴り合いのケンカすらしたことのないオレだが、夢だとわかっているせいか恐怖みたいなものは全然感じない。よっしゃ、ザコどもはオレが蹴散らしてやるぜ!

「よし! リア、こいつらはオレにまかせろ!」

「はぁ? 何言ってんの?」

「はぁ? じゃねえよ! オレが一掃してやるっつってんだよ!」

「バカ! そんなことアンタにできるわけないでしょ!」


 ……は?


「だいたい武器持ってないのに、どうやって戦うつもりなのさ?」

「そ、それはオレが聞きてえよ!」

「いいからアンタはいつも通り離れて応援歌歌ってて!」


 はあぁぁぁぁ!? 応援歌ぁぁぁ!? なんじゃそりゃぁぁぁぁあ!


「ほら、わかったらさっさと離れて!」

 リアが剣を抜き放ち、左手でオレをしっしと追い払う。おい! なんだよこの扱い! どう考えてもおかしいだろ!

「早く歌ってよ!」

「いや、この状況で歌えとかムチャぶりすぎんだろ!」

 てか詩人ってマジで歌うだけなのかよ! クソゲーにもほどがあるだろうがぁぁぁあ!

 ええい、もうヤケだ! うちの高校の校歌でも歌ってやんよ!

「せーかいにひーらくぅー はーまのーみーなとーぉ」

 おい! もう一匹、オレの方に向かってきやがったぞ! どうすりゃいいんだよ!

「ほら、ボーっとしてないで逃げないと! ちゃんと歌っててね!」

 歌はやめちゃダメなのかよ! うわぁ、こっち来んな!

「つーどいーしーせーんのぉー わーこうーどーよぉー」

 だからこっち来んな! うおお、誰かオレを助けろおぉぉぉ! こんな命がけの追いかけっこがあるかぁ! リアル鬼○っこかよ!


 そこで繰り広げられているのは、少女が一人戦うその周りで魔物にひたすら追い回されながら歌い続けるオレ、というあり得ないほどカオスな光景。

 てか笑いごとじゃねーぞ! なんでオレがこんな目に合わなきゃなんねえんだよ! 全力疾走しながら歌うとか、正気の沙汰じゃねえだろが!

 あと、歌はこんなテキトーでいいのかよ! 





 結局、戦闘自体はリアが一匹目を一撃でしとめ、オレを追っていたヤツも投げナイフで足を止めてサクッと始末しやがった。

 てか、足止めできるんなら初めからそうしろよ! コイツ絶対オレが逃げ回んの楽しんでるだろ!

「はぁ、はぁ……」

「おつかれさん、がんばったね」

 おつかれさん☆ じゃねーよ! 半分オマエのせいだろうが! コイツは息切れひとつしてねえし!

「ところで、だ」

「なになに?」

「オレが歌うのになんか意味あんのか? ステータスが上がるとかさ」

「ステータス? 何それ?」

「ああ、なんか身体が軽くなるとか、力がみなぎるとかさ」

「ルイの歌で? あっはは、そんなのあるわけないじゃん!」

「ねえのかよ!」

 ふざけんな! 意味ねえんじゃねーか! 歌い損かよオレ! 

「てか、だったらなんで歌わせたんだよ!」

「なんでも何も、詩人にできることってそれしかないでしょ?」

 救いなさすぎだろ詩人! タダのお荷物じゃねーか!

「やってられるか! もう歌わんからな!」

「ダメだよ、ちゃんと歌わないと成長遅れるから」

「マジかよ!?」

「そ。だから、サボっちゃダメだよ?」

 おいおい、ウソだろ……? この後も、戦闘のたびに猛ダッシュしながら歌わなきゃならないのか……? 頼む、お願いだから早く覚めてくれ、オレの夢……。





 そんなオレの願いも空しく、薬草をゲットするまでに二回、帰りにも二回敵とエンカウントするハメにあった。

 しかも最後のはまたしてもコボルドが二匹。カンベンしてくれよ! 二匹だとどう転んだって片割れにオレが追い回されるんだよ! てか、この階モンスター複数で出すぎだろ! 

 ちなみにリアは、やっぱりコボルドの足を止めてはくれなかった。コイツ、絶対ガキのころアリの巣穴に水流しこんで遊んでたタイプだろ……。









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