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4-1 そりゃ目立つよね……





 ステラを正式にパーティーに迎えての初クエストの日。オレとリアはいつものようにギルドへと向かっていた。

「今日はなんか楽しみだねー」

 リアの声が心なしか明るく弾む。

「ステラ、本気出したらどのくらい強いのかなー」

「ああ、それは確かに楽しみだな」

「レベル37なんて、Bランク一歩手前だもんね」

 今日は薬草集めの前に、二十一階で軽くオレの歌を実験する手はずになっている。例の演歌モドキも作ってきたが、これ、ホントに効果なんてあるのかねえ……。ま、この世界じゃどんな歌がウケるかもわからんし、それを確認できるだけでもよしとするか。

「今日はステラ、あのカッコで来るんだよな」

「あ、そうだよね」

「あれじゃ目立ってしょうがないだろうな……」

「そりゃあね……」

 さすがに苦笑するしかないリア。

「そういや、聖水はどうなった?」

「ああ、ちゃんと準備したよ」

「それって高いのか?」

「三人分で30リルだよ」

「高いんだか安いんだか……」

 神様ってヤツも、この世知辛い世の中大変なんだな。






 ギルドに近づくと、入り口のあたりに何やら人だかりができているのが目に入った。どうも集まってんのが男ばっかな気がするんだが……。

「なんだろ? あの人だかり」

「ああ、なんだろな」

 オレにはなんとなく思い当たるフシがあるんだが……。人ごみをかき分けていくと、その先には壁際にたたずむ一人の女性の姿があった。

「あ……」

「やっぱり……」

 予想通りというか、そこにいたのはビキニアーマーに身を包んだステラだった。あまりの肌色率の高さに、「包む」って表現に違和感を禁じえないが。

 それを遠巻きに取り囲んで無遠慮に凝視する男ども。連中の熱視線に、ステラは恥ずかしそうに身を縮こまらせている。おい、オマエら! 見せモンじゃねーぞ!

 リアが慌てて駆け寄っていく。

「おまたせ、ステラ!」

「あ、お、おはようございます……」

 蚊が鳴くような声でステラが返事する。オレもヤローどもの視界を遮るように間に割って入り、ステラの前に立ってかばう。

「ごめんね、もっと目立たない場所で待ち合わせればよかったね」

「いえ、だ、大丈夫です……」

「こんな早くに来てると思わなかったから、すまん……」

「そんな、ルイさんが謝るような事じゃないです……」

 そうか、この前遅刻したから今日は早めに来てたのか……。それにしても、まさかここまで露骨に男どもが群がってくるとは……。いや、当然か……。

「おい、その姉ちゃん、リアの知り合いなのか?」

 野郎の一人がリアに声をかける。リアは怒気をみなぎらせて男どもに言い放った。

「そうだよ、ステラは私のパーティーのメンバーなんだから! アンタたちもいつまでもジロジロ見てるんじゃないの! 今度この子に妙なマネしたらタダじゃおかないからね!」

 リアの剣幕に、男どもが気圧されたかのように一歩、二歩と後ずさる。てか、こ、えぇ……。

「そ、そうか……。これからよろしくな」

「悪気はなかったんだ……。すまんかったな」

 ヤローどもは口々に謝罪やらなんやらつぶやくと、散り散りになってそそくさ去っていく。こういうの見ると、やっぱリアって影響力あるんだな、このギルドで。

 まだ騒がしさの残る入り口前を後にし、オレたちはギルドへと入っていった。






 ステラを男どものスケベな視線から救い出し、ギルドへと入ったオレたち。まあやっぱり中に入っても、周りの連中がこっちをジロジロ見てくるわけだが。主に男が。

「ステラ、本当にゴメンね……?」

 心底申し訳なさそうに謝るリア。

「いえ、本当に大丈夫ですから……」

 そう言えば、ギルドの連中のほとんどはステラを初めて見るんだもんな……。こんな牛チチ金髪ツインテビキニアーマーが入り口で立ってれば、そりゃみんな見るよな、普通。前のギルドではぼっちだったって聞いてたから、ついつい誰も寄ってこないだろうと思っちまった。ちょっと油断したわ……。

 ステラをかばいつつ、いつものように受付のアンジェラの所へ向かう。

「あら、いらっしゃい……?」

 赤毛の美女がオレたちに手を振る。その目がステラを捉えると、笑顔のまましばし凍りついてしまった。

「こんにちはーって、アンジェラ?」

「あ、ご、ごめんなさい……。その、ステラちゃんの格好が、つい……」

 やや戸惑ったかのような表情で、アンジェラが歯切れの悪い返事をする。ああ、そういやこの前紹介した時は、ステラはセーターだったっけか。にしても、この人のこういう表情初めて見るな……。

「あの、すみません……」

「ああ、いえ、ステラちゃんが気にする事はないのよ? 妙なリアクションしちゃってごめんなさいね?」

 今度は明らかにうろたえた様子で、ばつが悪そうにステラに謝るアンジェラ。この人でも、こんな風にうろたえたりする事あるのね。

「そ、それで、今日のクエストなんだけど」

「え、ええ、そうだったわね」

 やや強引にリアが話を変える。こりゃアンジェラも、このノリに慣れるまで時間かかるかもな。

「今回は三十二階のクエストだから、三十一階行きのゲートを使うといいわ」

「ああ、今日は先に二十一階に行くんだー」

「あら、そうなの?」

「余裕もできたから、いろいろ実験しようかと思ってね」

「なるほどね。新しいパーティーの連携なんかも確かめておくといいわよ」

「さっすがアンジェラ、いい事言うね」

 ホント優秀だよな、この人。

「例の件、ちゃんと準備はしてきたかしら?」

「それならホラ、バッチリ」

 リアが懐から聖水を一つ取り出す。

「ちゃんと三本買ってきたよー」

「なら大丈夫ね。初めてのCランク向けダンジョンだから、十分気をつけるのよ?」

「平気平気ー。ステラも加わった事だし」

「それもそうね。それじゃがんばってね」

 笑顔でオレたちを送り出すアンジェラ。ん? なんかさっきから、アンジェラの目がずっとステラの胸元にいってるような気がするんだが……。そういやこの人、胸は結構控えめなんだよな。さっき固まってたのは、実はそこにショック受けてたのか……?




「さーて、まずは二十一階だねー」

 リアが先頭に立ってゲートへ向かう。オレたちも後に続く。

「今日はどんな曲用意したの?」

「ああ、今までに作った曲と、前に言ってた演歌を作ってきたぜ」

「おお、えんか! コブシってやつだよね?」

「そうそう。お前らの反応を確認したいと思ってな」

 この世界の音楽が古いなら、むしろ結構ウケるかもしれないしな。あ、でもロックの評判も結構いいんだよな……。ま、とりあえずやってみないとわかんないか。

「フォーメーションもうまく機能するといいな」

「はい、がんばります」

「二十一階くらいだと、全部ステラが片づけかねないよねー」

 そんな事を言い合いながら、二十一階へのゲートに到着。魔法陣に乗ると蒼い光に包まれ、次の瞬間には詰所に到着した。


 広間に出たオレたちを、見張りでダベってる連中が興味深そうに見てくる。ああ、この前と似たような反応だな。

「ようリア、そっちの姉ちゃんは……」

「この子はステラ、メチャクチャ腕利きの斧兵だからスカウトしたんだよ。みんな、よろしくね!」

 有無を言わせぬ調子でリアがステラを紹介する。こう言われては連中もこれ以上ツッコむわけにもいかない。

「よ、よろしくお願いします……」

「お、おう、よろしく……」

 先手を打たれたせいか、意外と騒がれる事もない。考えてみれば、この前は行きにはいなかったはずのステラが帰りに加わってたってのもあるから、あれは特殊な状況だったのかもしれないな。

「その子、あんまり見ない顔だけど……」

「ああ、だってステラはレベル37だもん。いっつも三十階あたりでソロプレイしてたんだって」

「マジか!」

げえ!」

 リアの話にどよめく見張りたち。いや、実際スゴいよな。こういう所に反応するってあたり、やっぱコイツらも冒険者なんだねえ……。

「仲良くしてあげてね?」

「も、もちろん!」

「困ったらなんでも言ってくれよ!」

「お、おれ、握手お願いします!」

 ありゃ……? むしろスッゲぇ人気者じゃね? リアの人望もあるだろうが、主に野郎どもがデレデレに見えるんだが……。まあ男だもの、仕方ないか。

「ちょっとアンタたち、ステラはシャイなんだからそんなに一気に来ないでよ」

「おお、すまん」

「つい、な」

「控えめなのがまたいいなあ……」

 いやいや、やっぱ人気ありすぎだろ! むしろなんで今までぼっちだったんだよ!?

「こりゃリアがアイドルの座から陥落するのも時間の問題かもな」

 意地悪く言ってみる。

「それは助かるよ。最近ファンをさばき切れなくなってきた所だからね」

 コイツ、ホントいい性格してるわ……。てか、この世界にそもそもアイドルの概念ってあんのか?






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