3-6 モンベール、恐るべし!
作戦会議もあらかた終わって少し話しつかれたのか、しばし無言の時間が流れる。ん? なんかステラの手元が落ち着かないな……。そんな事を思いながら見ていると、ステラが言いにくそうに口を開いた。ん、なんだ? 妙にそわそわして。トイレか?
「あ、あの……」
「ん? どしたの?」
「そのですね、あの……」
「気にしないで言えよ」
「お、お二人は……、その、おつきあい、してるんですか?」
「はぁ?」
思わず二人して声を上げる。おいおい、どうしたんだ急に?
「あっははは! ステラ、私とルイが、そんなはずないでしょ?」
爆笑してリアが答える。まあ知ってたよ、その反応は。しかしステラが言葉を続ける。
「でもルイさんとリアさん、見ていて息も合ってますし、その、お似合いでしたから……」
「へっ!?」
なぜか真っ赤になるリア。
「ま、ままま、まっさかっ、私とコイツがお似合いなわけ、あるわけないでしょっ!?」
おい、その反応は予想してなかったぞ! なんでそんな慌ててろれつ回らなくなってんだよ!
「とっ、ととととにかく!」
動揺が収まらないまま、リアが言う。
「私とルイはつきあってなんかいないから! わかった?」
「はい、わかりました……」
ステラが胸に手をあてる。ん? なんかホッとしてるように見えるのは気のせいか? オレの願望?
その後もガールズトークに華を咲かせながら、久しぶりの甘いおやつに舌鼓を打つ二人だった。
え、オレ? 男は黙ってアップルパイさ。話についてけねえもん。
「ふぅ、おいしかったー」
「本当、おいしかったです」
「甘いモン、久々に食ったぜ」
デザートを堪能したオレたちは、紅茶を飲んでしばし雑談に華を咲かす。ま、ずっと雑談してる気もしなくもないが。やがて紅茶もなくなり、いい頃合になった。
「それじゃそろそろ、ギルドに顔出しましょうか」
リアが店員を呼び、会計をお願いする。
「いくらになりますかー?」
店員のお姉さんが満面の笑みで答えてくれた。
「合計で245リルになります」
「高っか!」
オレもリアも思わず叫んじまったじゃねーか! オレの食費何日分なんだよ!
「どうする、200リルを遥かにオーバーしちまったぞ!?」
「こんなにステラに払わせるわけにはいかないよ!?」
動揺するオレたちに、ステラが慌てて言う。
「だ、大丈夫です! 私のトマトソースがありますし、このくらいは払って当然ですから!」
「え、でも……」
「本当に大丈夫です、払わせてください!」
ああ、こうなるとステラ頑固だからな……。ここはおとなしく引くか。
「リア、ステラに払ってもらおうぜ」
「いや、それじゃあ……」
反論しようとするリアに、ステラに聞こえないように耳打ちする。
「その分後でオレたちでなんかプレゼントするなりした方が、多分喜ぶって」
「え、あ……うん、そうかもね」
リアも意外とすんなり引き下がる。
「それじゃ、オーバーした分はステラにお願いするね! じゃあこれ、はい!」
そう言って、リアが100リル分の小銭袋をステラに手渡した。わかりました、とステラが支払いにカウンターへ向かう。
「ルイって、結構こういうの気が利くんだよね」
「何が?」
「今の話。ステラに後でプレゼント、とか」
「ああ、あれか。まあ、いろいろあったからな」
大学での人づきあいってのは結構大変なんだよ。特に女の子相手だと、どこで地雷踏むかわからんしな。
そんなオレをリアが横目で見ながらつぶやく。
「ルイの女ったらし」
「はあ?」
相変わらずリアはオレの方を向こうとしない。なんだよ、どこをどうすればオレが女たらしになるんだ? そんなスキルがあったら、オレは前の世界でとうにリア充になってるっつーの。まあ確かに、今の状況は微妙にプチハーレムと言えなくもないけど。
「おい、どういう事だよ」
「知らなーい」
そっちが言っといて知らないってなんだよ! ああもう、ホント女ってワケわかんねーな!
そんなやりとりをしてる間に、ステラが会計を済ませて戻ってきた。
「どうも、お待たせしました」
「ステラ、お会計ホントにありがとね」
「いえ! こちらこそあんなに頂いてしまって……」
「いやいや、マジでサンキュな」
「あ、いえ……とんでもないです」
オレがお礼を言うと妙に顔を赤らめてステラが応じる。まったく、ホントシャイなヤツだな。
「それじゃギルドに行きますか」
「はい」
「おう」
こうしてオレたちは王都屈指のシャレオツスポット・喫茶モンベールを後にした。あ、客の女の子たちは確かにオシャレだったわ。




