3-10 いったい何があったんだ?
セザールたちが立ち去った、その後。
オレたちは困惑しながら、その場に座りこんでしまったリアを見つめていた。
あいつらがいなくなった後も、しばらくの間リアはオレたちに押さえつけられながら叫び続けていたが、急にそれが止まったかと思うと、つきものが落ちたかのように力が抜けてストンとその場に腰を落とした。で、そのまま動かなくなった。
「うっく、ひぐっ……」
さっきからこんな調子でずっと泣き続けている。これは落ちつくまでそっとしてあげた方がいい、ということで、オレたちはこうしてこの場に留まっているわけだ。
「それにしても、いったいどうしてしまったんでしょう……」
ステラが心配そうにつぶやく。ホントだよ、あんなリア、オレだって一度も見たことなかったもん。
「なんかぶっそうなこと言ってたよな、シャルルを殺した、とか」
「シャルルさんって、ルイさんのお兄さんですよね?」
「ああ」
まあ、オレ自身は面識ないけどな。
「正直オレもアニキのことはよくわかんないんだけど、ステラは知ってる?」
「私もくわしくは……。シャルルさんが活躍していた当時は、私は中央ギルドでしたし……」
「あ、そっか」
「私は駆け出しのころにシャルルさんを見かけたことがあります」
セーラさんが言う。そっか、セーラさん、昔からシティギルドにいるもんな。
「当時はSランクに最も近い槍兵として、誰もが特別視していたように思います。押しも押されもせぬシティギルドの大エースでしたし、ギルド幹部の期待も大きかったのではないでしょうか」
「へえ、スゴいヤツだったんだ」
「それはそうですよ。私も当時はとんでもない男が現れたな、と驚いたものです」
ギュス様もそううなずく。ギュス様が驚くなんて、そりゃ本物だな。
「でも、Sランクになる前に死んじゃったんだよな。ギュスターヴさん、原因とか知ってます?」
「私はダンジョンの探検中に命を落とされたとうかがっていますが……」
「そっか、ギュスターヴさんでもくわしいことは知らないんすね」
「お役に立てず、申しわけありません……」
「いやいや! 全然オッケーっすよ!」
何がオッケーなのかよくわからんけど、とりあえずギュス様に頭を上げるよううながす。
「でも、セザールさんに殺されたというのは、いったいどういうことでしょう? 今みたいに、ダンジョンの中で遭遇したということでしょうか?」
ステラが首をかしげる。あー、シャルルの人気をねたんでとかか。さっきのゴロツキ野郎の態度を考えれば、なんか十分にありえそうだな。いや、でも蛍光石返してくれたし、そうでもないのか……? いやいや、あれはギュス様とセーラさんにビビってただけかも……。
そんなことを考えていると、ギュス様が首を横に振って否定する。
「いえ、さすがにそんなことはありえません。私が聞いたところでは、シャルルさんは王国の調査隊に参加中亡くなられたとのことです」
「へえ、じゃあセザール関係ないじゃん」
「そうでもありません。事件当時のパーティーには、セザールさんも参加されていたそうですから」
「えっ!?」
オレたちが驚きの声を上げる。ど、どういうことだ!?
「そうだよ、あいつはシャルルと同じパーティーに加わってたんだよ」
いつの間にか、リアがオレの後ろに立っていた。振り返ってその顔を見れば、目のまわりもほっぺも真っ赤になってる。
リアの目に、再び殺意が宿る。
「そして、その時にあいつはシャルルを殺したんだよ」
「で、ですが、報告にはそのようなことは……」
「あるわけないよ、シャルルは罠にはめられたんだから」
「罠!?」
異口同音にオレたちが叫ぶ。罠って、いったいどういうことだ!?
「当時のことは、もちろん王国でも調査がなされています。その時の報告によれば、シャルルさんは強力な魔物に襲われ、パーティーの仲間を逃がそうとしんがりを務めてそのまま戻らなかったと……」
「ギュスターヴさん、あんまり事件のこと知らないでしょ」
えらく冷たい調子で、リアがギュス様に遠慮のないことを言う。
それから、リアはゆっくりと語り始めた。
「真相はね、こういうことだよ。シャルルたちのパーティーはダンジョンで強敵と出くわした。あまりに強い敵だから、パーティーは退却することにした。でもね、しんがりを務めるって言い出したのは、本当はあのセザールだったんだよ」
「えっ!?」
驚きに目を丸くするオレたちに、リアが続ける。
「あいつが、シャルルと二人でしんがりを務めるって言ったんだ。当然、他のみんなは逃げてその場からいなくなるよね? そして、みんながいなくなったところで……」
オレたちが思わず固唾を飲んで次の言葉を待っていると、リアは輝きを失った暗い瞳で、震えるくちびるを開いた。
「あいつは、シャルルを殺したんだ」
大変お待たせしました! 少し暗い雰囲気ですが、最新話を投稿します。
しばらくの間投稿間隔が不規則になるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。




