閑話 王都で盆踊り!? 後編
踊りの会場は王都の中心から少し離れた大きな公園だということで、オレたちはみんなでその公園へと向かう。
王都の一大イベントとあって、オレたち以外の人たちも続々と公園に向かって歩いてる。みんな楽しみにしてるんだな、盆踊り。
花火の時の行列にフインキが似てるなーと思いながら歩いていると、遠くの方からドンドンドンと和太鼓の音が聞こえてきた。
「へー、こっちにも太鼓あるんだな」
「こっちにもって、そりゃ王都なんだからあるでしょ」
「ああ、まあそうなんだけど」
「現在謝霊祭で用いられている太鼓は、アンリ四世陛下が東国より取り寄せられた品だそうです」
「王様が大陸公路の通商を活性化させたたまものですね」
へえ、さすがベティちゃんとステラ、リアと違ってアタマいいこと言うね。てか、こうして話を聞いてるとやっぱ王様ってスゴい人なのね。
ドンチャンドンチャン音がする方へと歩いていくと、道の両側に出店が増え始める。かと思うと、すぐに出店だらけになってすっかり祭みたいになった。
「うおー、お祭りだー!」
一気にテンションが上がったリアが、オレのそでをクイクイと引っぱる。
「ねールイ、あそこの焼き鳥食べよ!」
「いや、オレたち踊りに行くんだろ?」
とはいえ、たしかにウマそうなニオイがこっちにまでやってくる。うっ、た、たまらん……。
「別に買ってもいいわよ、すぐに食べ切れる分ならね」
「ホント!? ありがとーアンジェラ!」
「じゃ、じゃあオレもちょっとだけ!」
「ちょ、ちょっと!」
アンジェラのゆるしを得たオレとリアは、我先にと出店に走った。ベティちゃんもリアに手をつかまれてなかばムリやり連れてこられる。
「おじさーん、タレと塩一本ずつー!」
「あいよ。坊主と嬢ちゃんは?」
「じゃあオレもそれで」
「わたしも同じものをお願いします」
オレたちが注文すると、おっさんが目の前で焼いてる串を手渡してくれる。おお、フツーに焼き鳥だな!
「んー、ウマいっ!」
オレが代金を支払っていると、一足先に支払い終えたリアがさっそく串をほおばってウマそうな声を上げる。オ、オレもさっそく一口……。
「ウメえ!」
いや、フツーにウマいな! 出店の安い焼き鳥だからコショウはかなり薄めだけど、それでもウメえ! やっぱ炭火焼は偉大だな!
「ベティはどう?」
「そうですね、場の雰囲気も相まってなかなか美味だと思います」
「でしょ~」
そうこう言ってるうちに、オレもリアもあっという間に二本とも平らげてしまう。あー、もう一本ずつ買っておくんだったかな。ま、それは踊りが終わった後でいっか。
「そろそろ行くわよー」
「はーい」
アンジェラに呼ばれ、オレたちは再び会場へと向かい歩き出した。
会場に近づくにつれ、デンデンデンと太鼓の音が大きくなっていく。
そのうち、視線の先にたくさんの明かりとでっかいやぐらが見えてきた。
「おお、スゲえな。メチャクチャ本格的じゃん」
「そりゃ王都のお祭りだもん」
「人もたくさん集まってますね」
おー、ホントだ。やぐらのまわりをぐるぐる囲みながら踊ってるよ。
やぐらの上には、バカデカい和太鼓が鎮座している。ありゃ叩くのも一苦労だろうな。
「すごい大きさですね。いったいどんな方が叩いているのでしょう」
「そりゃやっぱムキムキの大男が叩いてるんじゃ……ぶっ!?」
奏者の顔を見ようとしたオレは思わず噴き出した。
たしかにムキムキの大男だよ! そして、イヤでも忘れられない顔をしてやがるよ!
「がっははは、そーれそれ、もっと踊らんかい!」
上着をはだけて大笑いしながら太鼓をガンガンぶっ叩いてるのは、オレたちがよく知ってる人物……聖人ニコラウスだった。
やぐらの上を見ると、もう一人妙な踊りを踊り狂ってるおっさんがいる。
「いやー、ニコちゃん、楽しいねえ! その太鼓を叩きこなすなんて、さすがはニコちゃん!」
「がっはは! ほれ、アンちゃんもまだまだ踊りたりんじゃろ!」
あー、やっぱり……。あのだらしない体型、アホな顔、どう見ても王様だよ……。
アンジェラがオレたちに鋭く注意をうながす。
「いい? あなたたち、絶対にあの二人と目を合わせたらダメよ。今ならやり過ごせるから、私の後についてきなさい」
「う、うっす」
オレたちは素直にアンジェラにしたがう。とてもじゃないけどあの二人のテンションについていける気がしないしな。
人ごみをかき分けながら、どうにか安全地帯(?)までオレたちは移動する。
「まあ、このあたりなら彼らにもみつからないでしょう」
一息つくと、アンジェラが笑みを浮かべた。
「さて、それじゃ私たちも踊るとしましょうか」
「おー、さんせー!」
「よし、踊ろうぜ!」
うなずくと、オレたちは二人ずつペアになって列に加わる。オレとリア、アンジェラとベティちゃん、ステラとセーラさんがペアになり、輪になって踊り始める。
オレが普通に盆踊りしてると、リアがケタケタと笑い出す。
「あはは、何それ! ルイってば、おっかしー!」
「うっせ! オレはこれでいいんだよ!」
オレから見ればお前らの方がビミョーに動きが違ってヘンに見えるんだよ!
まあ、でもこうしてみんなで盆踊りってのもなかなかいいもんだな。こっちの世界って基本娯楽がほとんどないから、こういうイベントも一際楽しく感じるぜ。
それに、なんだかんだ言いながらもカワイイ女の子に囲まれてるわけだしな。そりゃ楽しいよ。
しばらく踊ってると、後ろから声をかけられる。
「ルイ君、そろそろベティちゃんと踊ってあげなさい。ほら、リアはこっちに来るのよ」
「えー、アンジェラのケチー」
「べ、別にわたしはこのままでも……」
「ほらほら、遠慮しない。ルイ君、今日は忙しいわよ。何せたった一人の男の子なんだから」
「マ、マジっすか……」
まあでも、それも男冥利に尽きるってヤツか。おっしゃ、それじゃいくらでも踊ってやるよ!
そんな感じで、オレたちは楽しいひとときを過ごすことができた。みんなともなかよくなれたし、いい盆踊りだったぜ!
夏の風物詩、いかがだったでしょうか。
少し更新が不安定になるかもしれませんが、次回から本編に戻ります。どうぞお楽しみに!




