3-9 どうしたんだよ、急に!?
「ケッ、のこのこ出てきやがって、どこのギルドの連中だ?」
矢を放ってきた人相の悪い男が、そんなことを言いながらオレたちをニラんでくる。このやろ、いったいなんのつもりだよ!?
「ちょっとあんたたち、いったいなんのつもりさ!?」
リアもガマンならないって顔で一歩前に出る。
「どなたかは存じませんが、そのやり方、少々横暴なのではありませんか?」
ステラもリアの後に続く。隣には無言のセーラさんが並ぶ。
と、人相の悪い男がセーラさんの姿を見て目を細めた。
「お、誰かと思えばセルヴェリアじゃねえか。ははあ、お前が入ったパーティーってこいつらのことか」
男が言ってる間に、仲間のちょっとエロいカッコした姉ちゃんが蛍光石に手をかける。
「あー、取るなー!」
「動くな、このチビ!」
足を踏み出そうとしたリアに、男が小型の弓を素早く構える。
それを見て、ステラとセーラさんが同時に武器を構える。
「おいおいセルヴェリア、まさか俺たちとやり合うつもりか?」
「あなたたちの行動次第です」
「ケッ、ちょっとテメエのギルドで持ち上げられてるくらいで、調子に乗ってんじゃねえぞ。お前はしょせんAランク、Sランクにはかなわねえんだよ」
そんなことを言いながら、こっちに向かってガンをくれてきやがる。なんだよコイツ、ムカつくな。
てか、Sランクってなんだよ。お前の知り合いにそんなヤツがいるってのかよ。
「どうした、何かあったのか」
オレたちがニラみあっていると、向こうがわから二人の人影が現れた。
と思ったら、急にリアが低いうめき声を上げながらつぶやく。
「……セザール……!」
その声音と目に、オレは思わずギクリとした。単に怒っているという顔じゃない。まるで身内でも殺されたかのような、うらみと憎しみに塗り固められた目だ。
こいつが怒ってるところは今までさんざん見てきてるけど、こんな顔つきのリアを見るのははじめてだと思う。注意してないと、今にも飛びかかっていきそうな勢いだ。
てか、セザールって聞いたことある名前だな……ああ! 自由連盟のSランクの人か! てことは、こいつらそのセザールのパーティーってことか!
「おう、痛い目にあう前にさっさとひっこめや、『槍帝』の力くらい、お前らも知ってるだろ」
「なんだと、この……」
「何が槍帝だ! この人でなし!」
ムカつく弓兵にオレが言い返そうとしたその隣で、リアが普段のこいつからは信じられないくらいドスのきいた声で叫んだ。なんていうか、まるで声で相手を呪い殺そうかとでもしているかのようだ。
オレだけじゃなく、ステラやセーラさんも、いつもとは明らかに様子が違うリアを心配そうに見つめる。
槍を持った長身の男が、リアの方をじろりと一瞥する。きっとこいつがセザールなんだろう。セーラさんほどじゃないけど、表情があまり動かないヤツだ。
そのセザールが、何か思い出したって感じで一言つぶやいた。
「そうか、お前はあの時の……」
視線で殺そうかという勢いでニラみつけるリアに向かってそうつぶやくと、今度はオレの顔を見つめてきた。な、なんだよ、やる気か?
「なるほど、ではお前が……」
その言葉をさえぎるかのようにリアが叫ぶ。
「そうだ! シャルルの弟だ! お前のせいで兄を失ったんだ!」
え? 何、どういうこと? シャルルって、こいつのせいで死んだの?
オレが困惑していると、後ろからギュスターヴさんとベティちゃんが追いついてきた。リアのただならぬ声を聞いたからか、なんだか少し緊張してる。
「皆さん、何かありましたか!?」
「どうしたんです、リアさん!? すごい声でしたよ!?」
二人の姿を見て、弓兵野郎が顔をしかめる。
「チッ、ギュスターヴの野郎までいるのかよ。いくらセザールでも、セルヴェリアと二人相手じゃ、ちと面倒か」
何が二人相手じゃ、だよ。戦うのお前じゃねえだろ。
やってきた二人は、リアの形相にギョッとした後、目の前のパーティーへと目を向ける。
「あなたたちは、自由連盟の……」
ギュスターヴさんがつぶやく隣で、ベティちゃんが声を荒げる。
「あなたたち! いったい何をしたのです!」
かなり興奮してるのか、声がキンキンしてる。きっとオレたちが何かされたと思ったんだろう。実際、矢を射かけられたわけだけど。
「ああ? なんだこのチビ、痛い目にあいてぇのか?」
「なんですって!? あなた自由連盟の者でしょう、わたくしを誰だと思っているのです!」
そう言いながら、ベティちゃんがカツラを取ろうとする!
「ちょ、ちょっと待った! ここはおさえて!」
「な、何をするのです! 自由連盟の不始末は、このわたくしが……」
「その気持ちだけでいいから!」
なんかここでベティちゃんが正体明かすと、なんとなく面倒なことになりそうな気がするし!
なんとかベティちゃんをなだめると、オレたちはリアを囲むようにしながらセザールたちと対峙する。
あちらのパーティーの、セザールといっしょにいる軽装のお姉さんが口を開く。
「私たちは蛍光石を集めに来ただけです。別にあなた方とことを構えるつもりはありません。ギール、挑発するようなことを言うのではありません」
「ケッ、おりこうぶりやがって」
ガラの悪い弓兵がお姉さんに向かって毒づく。ホッ、あっちにもまともな人がいてよかった。
「それでは私たちは失礼します。さあ、行きますよ」
「ケッ、命拾いしたな、お前ら。今度俺たちの邪魔をしやがったら、タダじゃおかねえぞ」
うっせえよ、帰れ帰れ。蛍光石を取られたのはシャクだけど、まさか人間同士でやりあうわけにもいかないしな。
と、セザールが盗賊風のエロいお姉さんに声をかける。
「ポロン、石は彼らに渡してやれ」
「はぁ!? セザール、何怖気づいてんだ!? Aランク二人程度にビビってんじゃねえぞ!」
その言葉が気に食わないのか、弓兵が食ってかかる。
セザールは弓兵を見下しながら一言つぶやいた。
「……黙れ」
「チッ」
一つ舌打ちすると、弓兵がおとなしく引っこんでいく。
エロいお姉さんも、しかたないって顔で蛍光石をこっちに放り投げてきた。セーラさんがそれをキャッチする。
それから、弓兵がこっちにガンをくれながら立ち去り、軽装のお姉さんも一礼して去っていく。エロいお姉さんと、剣士らしき男もそれに続いた。
だけど、セザールがオレとリアの方を見つめたまま動かない。
そして、口を開いた。
「お前たちは、これ以上ダンジョンの先へは進むな」
「はあ?」
「弱い者がこの先へと進めば、確実に死ぬ――お前の兄のように」
忠告なのか、それとも挑発なのか、表情を変えずにそんなことを言う。
と、となりで殺気がふくれ上がるのが、オレにも感じ取れた。
リアが今まで見たことないような血走った目で、こめかみや首筋に血管を浮かび上がらせながら叫ぶ。
「ふざけるなあぁぁ! あんたが殺したくせに!」
今にも飛び出そうとする、というか、もうすでに地面を蹴りつけていたリアを、ステラとセーラさん、ギュスターヴさんがあわてて押さえつける。一呼吸遅れて、オレとベティちゃんもリアへと手をのばす。
「どうしたんだよ! いつものお前じゃないぞ!」
「そうですよ、落ちついてください!」
「ゆるさない! ゆるさない!」
オレたちの声が聞こえないかのように、リアがセザールに向かい叫び続ける。
そんなリアに背を向け、セザールもこの場を立ち去ろうとする。その背中に、リアが肺中の空気をしぼり出すようにして声をぶつける。
「あんたが、シャルルを殺したんだああぁぁぁ!」
洞窟中に、リアの絶叫がこだまして、消えた。
本作も連載ニ百回を迎えることができました。ありがとうございます。
ここから何話かは少々シリアスな話になりそうですが、今後もご愛読いただけると嬉しいです。




