3-5 気配が、なさすぎる……?
二か所目のポイントで運よくふたつ石をゲットできたオレたちは、次の採取ポイントへと向かっていた。
何回か戦い少し疲れてきたリアとステラが後ろへと下がり、今はギュス様とセーラさんの最強コンビが前に出てる。
「いやー、結構戦えるもんだね~」
気楽な調子でリアが言う。こいつ、ホントはまだ全然疲れてないだろ。
「そうですね。もちろん、セーラさんやギュスターヴさんがいっしょにいてくれるおかげではありますが」
「だよね~。ギュス様が後ろにいてくれるから、私後ろの心配しなくてすむもん」
「あ、一応心配してたんだ」
「当たり前でしょ? てゆーか、私いつも前と後ろ気にしてるからものすごーく疲れてるんですけどー」
そうなの? いっつも好き勝手やってるんだと思ってたよ。
「余裕があるから、さっきみたいにベティの攻撃のアシストもできるしね」
「ええ、大変助かっています」
そういやさっきもそれでハチを倒してたな。
「あの連携って、どうやってやってんの? 打ち合わせでもしてるのか?」
「いいえ、ただわたしが弓を構えていると、リアさんが察して敵を誘導してくれるんですよ」
「ベティの方に意識を向ける余裕があるからこその連携だよね~」
へえ、スゴいなお前ら。あうんの呼吸ってやつかね。
「でもさー、これだけ戦ったんだし、久々にレベルアップできるんじゃない?」
「少なくともベティさんはレベルが上がりそうですね」
「おおー、これでベティもAランクだよ」
「そうですね、ありがとうございます」
「じゃあやっぱり打ち上げはモンベールかスタバだよね、じゃんじゃん
食うぞー!」
「お前、それが目当てなだけだろ」
「何さー、ルイだって食べるくせにー」
まあ、そりゃ食うけどさ。
「でも、この調子なら何ごともなくクエスト終えられそうだね~。一通りの敵と戦ったけど、ピンチになりそうな場面もなかったし」
「そうですね。何十匹も群れになることはないってギュスターヴさんも言っていましたし」
「敵もそこそこ手ごたえがあって、修行にはちょうどいい階かもしれませんね」
三人がそんなことを言う。そうだよな、それじゃ後はちゃっちゃと石見つけて、ベティちゃんのお祝いしようか!
しばらく歩いていると、かなり広く開けた空間に出る。
「わー、また一段と広いねー」
「キラービーのような飛行系のモンスターが出てくるとやっかいな場所かもしれませんね」
「大丈夫大丈夫、その時はベティの弓があるしさ~」
「そうですね、おまかせください」
「それに、いざとなったらセーラさんのあのジャンプ技もあるし、平気平気~」
「それもそうですね」
ステラが笑顔を見せる。やっぱかわいいね、ステラさん。
「敵の気配も全然ないし、どんどん行こう~」
そう言ってヘタな口笛を吹くリアに、オレたちも続く。
と、前を行くギュス様とセーラさんが立ち止まった。ん? 道でも間違えた?
オレたちが追いつくと、ギュス様がセーラさんに話しかける。
「妙ですね……」
「はい……」
「ん? どうかしたんすか?」
あんたたちがそんな顔してると、オレめっちゃ不安になるんですけど。
「気配が、なさすぎるんですよ」
「なさすぎる?」
「はい。盗賊ほどではありませんが、私たちも生きものの気配くらいは感じることができるんです。ですが、ここはこれだけ広い空間にもかかわらず、生きものの気配が不自然なほどに感じられない」
「ギュスターヴさんの言う通りです。リアさん、ためしに索敵をしてもらえませんか?」
「は、はい!」
あわててリアが足輪のスイッチを入れる。素の状態ではリアも気配を感じていなかったようだけど……?
と、リアがいきなり悲鳴のような声を上げた。
「い、います! どこにいるのかわかんないけど、反応があります!」
「えええっ!?」
オレたちも驚いてあたりを見回す。いや、誰もいないっぽいけど……?
「でも、誰も見あたらないぞ? まさかオバケとか?」
「や、やめてよ! 変なジョーダン!」
リアがわりとせっぱつまった声で言う。わ、悪かったよ、そんなにビビんなよ。
「でも、それではいったい……」
ステラが不安げな表情を浮かべながら、大斧を構えて警戒態勢をとる。ホントに見えない敵なら、それはやっかいだけど……。
と、ギュスターヴさんとセーラさんが顔を見合わせる。
「これは、もしかして……」
「はい、私の時もこうでした……」
え、何? 何がこうなの?
たずねようとしたその時、突然地面が揺れ出した! うおおっ!? この揺れはわりとヤバいぞ!? 震度5はありそうな揺れだ!
「やはり!」
ギュスターヴさんが叫ぶ。
セーラさんも槍を構えてオレたちに言った。
「武器を構えてあちらに下がってください!」
「な、何かいるんすか?」
「おそらく、奴です!」
そう言うや、ギュスターヴさんと並んで目の前の地面をじっと見つめる。
激しい揺れの中オレたちが下がると、二人がニラんでいたあたりの地面が突然裂けた! え、何々!?
その亀裂から、何やら巨大な影が姿をあらわす……って、デ、デケえええええっ!? 五十階のレッサードラゴンよりはるかにデカいぞ!?
「やはりこいつか!」
ギュスターヴさんが鋭く叫ぶ。セーラさんも、珍しく緊張した様子で槍を構えている。
オレたちの目の前にあらわれたのは、土色のウロコにおおわれた、タンクローリーほどもあろうかという巨大なドラゴンだった。




