2-13 これが、マリ様へ贈るニューソング!
いよいよ、マリ様にオレの新曲を披露する時がやってきた。うう、キンチョーするぜ……。
オレは入り口側のスペースに移動すると、竪琴を構えてあー、あー、と声を出す。うん、調子は悪くないな。
しっかし、これはキンチョーするな……。こっち側にいるのオレだけだし、みんなはテーブルに座ってじっとこっちみつめてるし、メイドさんたちもみんなあっちの壁際に並んでオレに注目してるし……。
いやいや、ギャラリーがいるってのは幸せなことだぜ。オレが高校大学でやってたバンドなんて、客が片手に収まるなんてザラだったからな。
「え、えーと、それじゃ、やらせてもらいます……」
つっかえつっかえに言いながら、オレは竪琴を構える。MCとか、オレ苦手なんだよ……。
「まずは、マリ様のために作ってきた歌を歌いたいと思います。じゃ、じゃあ、やります……」
ああ、やっぱ緊張してるよオレ。いつもと違って、マリ様の前で、それもマリ様のために作ったオリジナルを歌うんだからな。ウ、ウケなかったらどうしよう……。
い、いや、負けるなオレ! 何度も吟味して作ったんだ、きっとマリ様も気に入ってくれるはず!
ふるえる手を懸命にガマンしながら、オレはすーっと息を吸った。気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと旋律をつむいでいく。
アルペジオを基調にしたややしっとりとしたイントロに、観客からため息がもれる。
わっ! マリ様がこっちをじっと見てる! へ、ヘマしないようにがんばらないと!
イントロを終え、いよいよ歌に入る。うう、五十二階で歌った時よりドキドキするぜ……。
オレが歌い始めると、再びみんなからため息がもれる。
「へえ……。ルイ、やるじゃん」
リアのつぶやきに、ステラとベティちゃんもうんうんとうなずく。おお、結構高評価なのか?
この歌はAメロからすぐにサビへと飛ぶ構成だ。さあ、ここから気合を入れてサビに入るぜ!
そのまなざしは やさしさに満ち
全ての民を 包んでゆく
そのほほえみは 月のごとく
全てを淡く 照らしてゆく
その後も怒涛のごとくマリ様をほめたたえるフレーズを連発する。てか、これでも全然ほめたりないぜ!
そんな調子で三番まで歌い、最後は余韻を残すようにゆっくりと減速して曲を終える。
しばらく弦を弾いたままの姿勢で止まり、それからすっと腕を下す。
その瞬間、パチパチパチパチ! と拍手が鳴り響いた! うわっ! ビックリした!
「ブラボー! ブラボブラボ、ブラボー!」
王様が絶叫する。だから声デカいよ! てか、こっちの世界にもいたんだな、ブラボーおじさん!
マリ様は……やった! かわいい手のひらを必死にパチパチ叩いてる。くーっ、マジかわいいなあ!
リアの奴も、なんか必死に手を叩きまくってる。てか、拍手があまりに速すぎて目で追えないんだけど。
てか、後ろのメイドさんたちまで拍手してくれてるよ。よかった、どうやらいい出来だったみたいだ。まあ、オレ的には最高傑作なんだから、これでダメならもうどうしようもなかったんだけど。
立ち上がって一礼すると、オレはテーブルの方に戻って聞いてみる。
「あの、どうだったっすか? オレの新曲」
「スゴいよルイ君、サイコーだよ! マリちゃんも感激してるよ!」
「マ、マジっすか!?」
王様の言葉に、オレはマリ様へと視線を移す。
おお、マジだ! なんか目がちょっと潤んでる! 長いまつ毛がしっとりして、なんかこっちの胸が苦しくなってくるぜ!
「あ、あの、どうだったっすか? 精いっぱいがんばって作ってみたんすけど……」
おそるおそる聞くと、マリ様はほっぺを赤くしながらキレイな唇を開いた。
「素晴らしい歌でした……。ルイさん、本当にありがとうございます……」
「いっ、いや! それほどでも!」
こ、こんなにストレートにホメられたことって滅多にないから、なんか舞い上がっちまうぜ!
視線が泳ぐオレに、マリ様が続ける。
「私があの歌に謳われるような立派な人物かはわかりませんが……あなたの歌に負けないような、立派な人間になれるようがんばっていきたいと思います」
「マ、マリ様なら絶対なれます! てかもうなってます!」
必死に言うオレに、マリ様がほほえんだ。
「ありがとうございます、ルイさん……。こんな素敵な歌を贈っていただき、なんとお礼を申し上げればよいか……」
「と、とんでもない! その気持ちだけで十分っす! それにオレ、マリ様のためならいくらだって歌作りますから!」
そこまで言うと、マリ様が両手を口元に当てて目を閉じる。おおっ!? そんな泣きそうになるほど喜んでもらえたってこと?
と、いきなり王様が大声を上げた。
「やったー! マリちゃん、これからはルイ君が毎日歌を作ってくれるって!」
「言ってねーよ!」
なんか毎日みそ汁作るみたいな言い方すんな! って、あれ? それって……。
「よかったねー、マリちゃん、お婿さんが来てくれて。フィリップ君がいるから王様にはしてあげられないけど、なんなら爵位でもプレゼントしようかー!」
「お、お、お父様!」
思わずマリ様が声を上げる。アンタ、いきなりとんでもねーこと言うんじゃねーよ!
でも、マリ様が喜んでくれてよかったよ。オレもがんばって作ったかいがあったってもんだぜ!
と、王様が手を叩き始める。
「アンコール! アンコール!」
あ、アンコールか。そんなの求められるなんて思ってもみなかったぜ。
みんなも王様の手拍子に合わせて拍手し始める。よーし、みんながそういうならオレも応えるとするか!
その後、オレはさらに何曲か歌い、ついでに王様のために作った歌も披露したのであった。




