2-9 王様、怒ってる?
突如現れた王様に、心の準備もできないまま正体を明かしたベティちゃん。
オレたちがその様子をハラハラと見守っていると、王様が口を開いた。
「ちょっとベティちゃん、いや、エリザベートちゃんって呼んだ方がいい? いいから早く立ちなよー。女の子がそんなカッコしちゃダメだってば」
「で、ですが陛下……」
「いいから立ちなさい。じゃないともう口聞いてあげなーい」
プイッと横を向く王様。そう言われてしまっては、ベティちゃんも立たないわけにはいかない。うまいな王様、めっちゃガキくさいけど。
おずおずと立ち上がったベティちゃんは、王様に悲壮感あふれるか細い声で言う。
「あの、陛下……。今まで陛下を欺き続けてきた罪の重さ、わたくしも理解しているつもりです。どのような罰も受ける覚悟はできています」
「えー、なんで罰しなきゃいけないの?」
王様は意味がわからないって感じで首をかしげた。
「誰にだってナイショにしたいことの一つや二つくらいあるものでしょ? ね、ハルミさん?」
横にひかえていたハルミさんに問いかける王様。
「そうですね。陛下もいろいろとおありですものね。つい三日前におねしょしてしまった、とか」
「わ! わー、わー、わー!」
まさかの不意打ちに、王様が顔を真っ赤にして絶叫する。え、王様、それマジなの?
「年を取るとそうなるんだよー! ハルミさん、みんなにバラさないでよー!」
「申しわけありません。陛下がああおっしゃるものですから、つい具体例についておたずねなのかと思いまして」
「もー、ひどいよハルミさん~」
半ベソかきながら、王様がまたベティちゃんの方を向く。てか、今のオネショの話って、マジで誰かにバラしたら命失いそうな秘密じゃね……?
「ぐすっ、そういうわけだから、そんなに気にしなくていいよ。ベティちゃんも、別に僕に何か悪いことをしようとして黙ってたわけじゃないんでしょ?」
「も、もちろんです! わたくしは陛下の御為とあらば、命を投げ打つ覚悟もできております!」
「うんうん、命は大切にね。で、そういうわけだから、罰を与えるつもりはないよー」
「し、しかし、それでは示しがつかないのでは……」
上目づかいに言うベティちゃんに、王様がいつもと少し違う声色で答えた。
「あのねベティちゃん、君が今やるべきことはただ一つだよ?」
「はっ、そ、それはいったい何でしょうか!? このエリザベート、命に代えましても……」
「そんなに難しいことじゃないよ、いや、ひょっとしたらベティちゃんにはちょっと難しいのかな?」
首をかしげると、王様は続けた。
「いいかいベティちゃん、君は僕に一言、きちんとごめんなさいを言いなさい。それで、全部終わり」
「な……!? そ、そういうわけにはいきません! そんなことですまされるような話では……」
「はぁ……」
珍しく王様がため息をついた。あれ? もしかして王様、少しイラだってる?
すると王様は、まるで聞き分けのない子を諭すかのように、いつもの王様からは考えられないほど落ち着いた声で話し始めた。
「そんなこと、じゃないんだよ、ベティちゃん。君は貴族社会での暮らしが長いから、ひょっとするとそのへんの感覚がマヒしちゃってるのかもしれないけど」
ただならぬ気配の王様に、オレたちは口をはさむこともできずただハラハラしながらことのなりゆきを見守っている。リアが心配そうにオレの左ひじのあたりをギュッとつかんできた。
「僕はね、肝心な時になんだか難しそうな言葉を並べて気をつかわれるのがあんまり好きじゃないんだ。もっとわかりやすい言葉で、はっきりと気持ちを伝えてほしいんだよ」
ベティちゃんは真剣な顔で、じっと王様の目を見つめてる。いつもはおそれ多いと思ってるのかあんなに王様と目線合わせることないのに。
「それに、気づいてる? 罪とか罰とかの話ばっかりで、実はベティちゃん、まだ僕に対してごめんなさいとは言ってないんだよ?」
「は……!? も、申しわけございません!」
指摘されるまで気づいていなかったのか、ベティちゃんが顔を真っ青にしながら王様にあやまる。
「うん、別にそこに怒ってるわけじゃないよ? ただ、相手が王様だからとか自分の責任だとか、そういう余計なことばっかり気にしてると、肝心なことが見えなくなるってことはわかってほしいんだ」
「は、はい……」
今にも泣きそうなベティちゃんに、王様はやさしくほほえむと、右手で彼女の頭を軽くなでる。
「さて、それじゃそろそろ聞かせてもらえるかな?」
「も、もうしわけありませんでした……。ウソをついて、ごめんなさい……」
「はい! よくできました!」
いつもの調子に戻った王様が、バカデカい声を上げてベティちゃんの頭をクシャクシャとなでる。お、王様、ベティちゃんの首がもげそう……。
オレたちも、一斉に王様に頭を下げた。
「王様、ありがとうございます!」
「なになに? 僕、お礼言われるようなことした?」
「はい、なんだかベティもすっきりしたみたいですし!」
「王様、まるでお父さんみたいだったっすよ」
「そりゃ僕は子供を何人も育ててるからね~、ホメてホメて!」
あー、やっぱいつもの王様だ。さっきのナイスミドルはどこに行ってしまったのか……。
それから王様は、グスグスベソかいてるベティちゃんに向かって注意した。
「それとベティちゃん、簡単に命を捨てるなんて言っちゃダメだよ? いや、簡単じゃないんだろうけどさ。君が死んじゃったら僕も悲しいし」
「そんな、陛下の御心をお騒がせするようなつもりは……」
「マリちゃんも友だちがいなくなっちゃうわけだし。そして何より家族が悲しむしね。そういうわけで、ベティちゃんはもっと自分を大切にしてみんなに尽くすことを考えてね?」
「は……はい! 命に代えましても!」
「も~、ベティったら、言われたそばから言っちゃってる~」
リアがツッコみ、オレたちがどっと笑う。王様はスキップしながらリシュリューさんの方へと移動し、入れ替わりにオレたちがベティちゃんを囲んだ。あー、よかった。どうやら丸く収まったよ。
オレたちの後ろからは、王様とリシュリューさんの話し声が聞こえてきた。
「僕もがんばってるつもりなんだけど、貴族社会の壁はなかなか厚いものだね。改革はまだまだ道半ばなのかな?」
「そんなことはありませんよ」
声につられてふと王様たちの方を見ると、リシュリューさんがオレたちの方を見つめながら何かつぶやいていた。
「あいつらを見てください。少しずつですが、確実に伝わっていますよ」
「……そうだね、ありがとう」
というわけで、何とか正体を明かすことができました。これからもルイ一行をよろしくお願いします。
さて、先日久しぶりの新作『神滅の龍皇』を投稿しました。主人公最強で突っ切るつもりですので、よければぜひご覧いただければと思います。
それに伴い、大変心苦しいのですが、『詩人』の投稿感覚を……
週一間隔に早めます!
今年は思ったより時間に余裕がありそうなので、来年の本編完結に向けてがんばりたいと思います。どうぞよろしくお願いします!




