2-8 こ、こんなタイミングで来るなよ!
いつもの隊長室でギュス様、リシュリューさんと会ったオレたち。
ベティちゃんの正体も明かしたところで、オレたちはそのまま話しこむ。
「そういやギュスターヴ、お前まだセルヴェリアとクエストしたことはないんだよな?」
「はい、なかなか機会に恵まれなかったもので」
「じゃあ今度クエスト組んでやるよ。実際ヤバいぞ? こいつの槍さばき。もしやり合ったら、今の俺の腕じゃ三本に一本取るのが精いっぱいだな」
「と、とんでもないです」
セーラさんがいつものかすれ声で謙遜する。あの二人は、セーラさんのセリフ聞き取れてるのかな……?
てか、今度のクエストでギュス様とセーラさんが参加するの? 最強すぎるじゃん。これでじいさんも加われば、マジで敵なしだよな。
「強いと言えばステラ、お前さんもずいぶんと腕を上げたそうじゃねえか。今なら俺から五本中二、三本くらい取れるんじゃねえか?」
「そ、それはどうでしょう。まだまだリシュリューさんにはかなわないと思いますが……」
「おいおい、お前らもっと自信持てよ。今じゃシティで一、二を争うくらいのパーティーなんだろ? 王都の全パーティーランクでもトップテンに入ってるんだぜ? 今のお前らは」
「マ、マジっすか!」
「それは当然ですよ。今や皆さんよりはっきり格上と言えるのは、Sランク冒険者を擁する自由連盟とテンプルギルドのトップパーティーくらいではないでしょうか」
「ス、スゲえ!」
いつの間にそんなスゴいことになってたんだ? オレたち。確かに強くなったとは思ってたけど!
「ベティももうすぐAランクなんだろ? そうなりゃ全員Aランクなんだ。ニコラウスのじいさんもパーティーに入ったっていうし、近々お前らランキング五位になる予定だぜ」
「五位!?」
オレたちがびっくりして叫ぶ。マジか! 全ギルドのパーティーの中で五位かよ! 来るところまで来たな!
「てか、ランキングなんてあったんすね」
「ああ、王国側で管理のために勝手に作ってるだけだけどな。ただ、自由連盟の連中はなかなか情報出しやがらねえからメンドくせえんだ、これが。あ、ベティは別に気にしなくていいぞ」
ん? なんでベティちゃん? と首をかしげたオレに、ステラが「ベティさんのベルフォード家は、自由連盟の後ろ盾になっていますから」と耳打ちする。ああ、だからなのね。
てか、自由連盟自体、国や中央ギルドがイヤで分裂したギルドなんだっけか。そりゃ国に協力的なわけねーよな。
「まあなんだ、お前らが全員Aランクになったら、俺も何か祝ってやるよ。王様ほど豪勢にとはいかんが、ま、楽しみにしてろや」
「う、うっす」
なんか裏がありそうでコワいな、このオッサンの誘いは……。てか、パーティーにかこつけてナンパすんなよ?
そんなこんなで話しこんでいると、突然入り口の扉が大きく開け放たれた。
かと思うと、もうすっかり聞きなれた声が部屋中に響きわたる。
「ちょっとー! ルイ君、早く来てよー! もう待ちくたびれたよー!」
声デケええええ! 聞こえてるよ! てか、来ちゃったよ、一番メンドくさい人!
王様はオレの方にずいずいと迫ると、デカい声でしゃべり続ける。
「ねー、実は僕のこと忘れちゃってたりしてない? 今日みんなを呼んだのは僕なんだよー?」
「わー、わーってる! わかってますって王様!」
だから耳元でデカい声出さないで! 頼むから!
思わず目を閉じ耳をふさいでいたオレが、うっすらと目を開ける。
すると、ベティちゃんがカタカタとふるえてるのが目に映った。あー、こんな急に王様出てきたら心の準備もクソもないよなあ……。
オレは彼女をフォローするように、王様に言った。
「こんちはっす! そ、それより王様! ベティちゃんが王様に話したいことがあるそうっすよ!」
「えー、ベティちゃんがー? なになにー?」
両腕を広げて、ブーンって感じで王様がベティちゃんへと迫る。いや、その絵はコワいよ、いろんな意味で。
ベティちゃんは視線をきょろきょろさまよわせていたけど、やがて覚悟を決めたのか、ふるえる声で王様にあいさつした。
「こ、国王陛下におかれましては、ごきげんうるわしゅう……」
「だからそういうのはいらないってー。あれ、でもなんか妙に見おぼえのあるおじぎだな~?」
「こ、国王陛下に申し上げたいことがございます!」
「ひゃっ!?」
急にキンキン声で叫んだベティちゃんに、さすがの王様もビクッと驚く。おお、スゲえ威力だ。
ベティちゃんはテンパってるのか、王様が驚いたことにも気づかない様子で言葉を続ける。
「じっ、実はわたくし、陛下にずっと隠していたことがございます!」
「え、なになに? もしかして、ずっと前から僕のこと好きだった?」
王様、頼むから今くだらないこと言わないで!
「いや~、困ったな~。気持ちは嬉しいけど、僕にも奥さんがいるしさ~」
いいから黙れよ! 殴るぞ!?
オレがハラハラしていると、王様のたわごとなど気にもとめずにベティちゃんがひざまずく。
「わたくし、実はベルフォード公爵の娘、エリザベート・ド・ベルフォールなのです!」
「ええーっ!?」
ベティちゃんの告白に、王様が両手をあげて驚く。いちいちオーバーなオッサンだな、おい!
かと思うと、あごに手を当ててうんうんとうなずいてる。
「やっぱり僕の思った通りだー。最初に会った時から、どこかで会った気がしてたんだよ~、うんうん」
あ、王様のアレもナンパじゃなかったんだ。疑ってごめんよ、王様。だってアンタ、ステラくどいた前科があるしさあ。
ベティちゃんはといえば、がっつり土下座して、はた目にも気の毒なくらいカタカタとふるえてる。
お、王様、どうかゆるしてあげてもらえないかな? 大丈夫だとは思うけど、なんかちょっと不安だよ……。




